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18.理論

 視界が、チカチカと明滅する。モニターの光ではなく、頭痛によるものだ。


「シオリ先輩!?」


 眩しさと気持ち悪さに思わず目を閉じると、“今”ではない、戦いの光景が瞼の裏に映し出される。


『えっ、な、なんで……!!』

『ヴェン、早く!! 追いつかれる!!』


 最終決戦。アニメ『ゾナ・フロンティア』11話Aパート。


 戦況を覆すため、リヴォルツィオーネの面々はユミトとヴェンに希望を託す。二人は敵陣を突っ切り、少し離れた宙域にある革命軍の研究施設を改造した、巨大兵器のもとへ向かう。


 それを阻むのが、単独での機動力に優れている戦艦ティケオンの面々だった。主戦場から離れたリヴォルツィオーネを追うことができたのは、遊撃部隊に近い彼らしかいなかったのだ。


『ユミト、どうしよう、機体の制御が……!!』


 他の仲間が足止めしているとはいえ、戦艦ティケオンは精鋭揃いだ。ヴェンの機体が蛇行し始める中、アルバートの機体が足止めを突破し、二人に迫る。


 ユミトの『ホープレイ』がその手を掴み、逃げるものの、研究所に近付くにつれヴェンの機体は制御が効かなくなっていく。


『あっ……』


 とうとう、『ホープレイ』のパワーでも軌道を修正できなくなり、ヴェンの機体は逆にアルバートの機体へ突っ込んでいく。


『ヴェン!!』

『ユミト、行って!!』


 当然、ユミトが親友を見捨てられる訳がない。躊躇わずヴェンの機体を止めに行こうとするも、『ホープレイ』に性能で劣るはずのヴェンの機体はどんどん加速していく。


『あの機体、突っ込んで来て__!!』


 ビーム障壁を展開しているのか、コクピット付近から金の光を発しながら、凄まじい勢いでアルバートの機体に向かう機体。


『う、ぐ、__わぁぁあああ!!』


 その勢いに、搭乗するヴェンの体が耐えられなくなっても、加速は止まらない。


 このまま突っ込んでこられたら、無事でいられない。アルバートが迎撃姿勢を取ったのは、至極当然のことで。


『悪いが、やられる訳にはいかない__!!』


 代名詞といえる青い光を帯びた、黒い剣を構えたアルバートの機体に、まっすぐ突っ込むヴェンの機体。


『あ……』

『ヴェン__!!』


 暴走し、予測不能な動きで迫る敵に対して、手加減をする余裕も理由も、アルバートにはない。


 青い剣筋が、宇宙空間に輝く。


 一拍の間。黄金の光を発して、爆発するヴェンの機体。見開かれるユミトの瞳。


 散っていく黄金の光は、吸い込まれるように、何かを伝えるように『ホープレイ』の周囲を回る。


 光が完全に消えると同時に、動き出すのは『ホープレイ』だ。


『よくもヴェンを!!』


 巨大兵器へ向かう足を止め、親友を喪った悲しみのまま、ユミトはライフルを構える。__最終決戦前に、大幅に強化された、その銃を。


 何度か引き金を引くものの、感情的になったユミトの狙いは単純だ。その程度を避けられないアルバートではない。


 その事実が、ユミトの怒りを加速させていく。


『お前たちのせいで、故郷も、ヴェンも__!!』


 ユミトの記憶が過っていく。故郷を追い出され、ヴェンと二人、革命軍に参加して。その道中、寂れた惑星を見ることもあったし、戦いで仲間を喪うこともあった。


 だから、こんな戦いは、終わらせないといけない。それがヴェンの、世界のためになる。


 そう信じてユミトは、本能的に照準を“それ”に向けた。


『この光、単独でこんな__』


 外目からでも、通常では考えられない出力であることがわかる光。先程までとは桁違いだ。そして、その照準の向けられた先は。


『狙いは__母艦!?』


 アルバートにとっての母艦。革命軍にとって、最も警戒すべき戦艦、ティケオン。


 距離が開けば、威力は落ちるだろうか。そんなことを考える時間は、アルバートにはなかった。


『これで、終わりだ__!!』


 躊躇うのは、一瞬だった。小さく頭を振ったアルバートは、ヴェンを討ち取った剣を構えて、『ホープレイ』の前に立ち塞がる。


『させるか!!』


 青い光を黒い剣に纏わせ、『ホープレイ』に斬りかかるアルバート。


 単独ではあり得ない出力を射撃に回しているなら、回避の余裕はないはず。せめて射線を逸らすだけでも。


 そんな決死の一撃に、ユミトは驚きつつも咄嗟に操縦桿を操作する。


『避けろ!! ホープレイ!!』


 動くはずがない。だが、奇跡は起こる。アルバートにとっては、都合の悪い方向に。


 頭部と片腕を失ったものの、黄金の軌跡を描き、なんとか攻撃を避けた『ホープレイ』。その銃口は、再びティケオンへ向けられる。


 ユミトが引き金を引く。黄金の光が、機体から、空間から、銃口に向かって集まっていく。


 それを見て、アルバートは小さく息を吐き、薄く笑った。俺は選ばれなかったんだな、と。


 それでも、アルバートは諦めなかった。


 全出力を、剣に集中。その剣を機体の前に構えて、アルバートは射線に立ち塞がる。母艦に届く前に、威力を少しでも削ぐために。


『俺は、今度こそ守ると、決めているんだ……!!』


 その宣言の後。眩い光が、画面を包む。夢と希望に溢れていた子供時代の私の考えを、粉々に打ち砕かれた瞬間。


 __だが、今、この記憶が蘇ったことで、気付いたことがある。ヴェンの機体から放たれ、『ホープレイ』を包んでいた黄金の光。


 通常あり得ないビーム出力を可能とした、あの光は、彼らの目的地からも放たれていた。


 革命軍の研究施設。『ホープレイ』をはじめとした革命軍機の出力が『ZONA粒子』によるものならば。あの施設で研究されていたものは、きっと。


__『ZONA粒子』さえ無効化できれば、運命を覆すことができる。


(でも……)


 『ZONA粒子』は、根本的には、振動を増幅することによりエネルギーを増加させるための粒子だ。


 つまり、イヤホンやヘッドホンで用いられる、アクティブノイズキャンセリングと同じ要領で、逆位相の波長を持つエネルギーをぶつけてやれば相殺することは可能だ。理論上は。


(実現は、難しい)


 問題は、まず、『ZONA粒子』により活性化されたエネルギー振動を取得する必要があること。そもそも耐えられる物質があるのかどうか。


 そして、逆位相の振動を発生させる必要があること。具体的な振動数がわからないが、『ZONA粒子』で活性化させないと不可能かもしれない。


 大きな問題は、この二つだろうか。必要な技術は、耐久性の高い素材と光振動を解析する装置と、光の発生源。


 どの技術も、政府や大企業が何年も掛けて、優秀な人材を集めて開発するような技術だ。既存技術を探すだけでも、莫大な時間が掛かるだろう。


(間に合わない)


 残された少ない時間で、どこまでできるだろう。『ZONA粒子』についての理論を調べるだけでも、様々な許可を取らなくてはいけない。


 冷静な、技術者としての自分が、無理だと告げる。立場を利用し、伝手を全て使ったところで、今から実戦利用可能な新兵器なんて作れるわけがない。


(それでも)


 諦めたくないと、小さな頃の自分が叫ぶ。やってみないとわからない。物語のように、奇跡が味方してくれるかもしれない。


 転生なんてことがあるなら、未来だって変えられると、奇跡は起こると、信じたい。


 決意を新たにしたものの、私の意識は、そのまま黒に染まっていった。

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