17.予兆
ティケオンに戻ると、エンブレイが私とアルバートを出迎えてくれた。
「2人とも、無事だったんだね」
「はい。ですが……」
調査の途中で、このような事態になってしまった上、幾つかの買い出し品も放り出して帰ってきてしまった。任務としては失敗だ。
下を向く私に、エンブレイは優しく声を掛けた。
「戦艦が潜んでいるとは、我々も予想できていなかった。トキタカ嬢から報告は受け取ったけど、街全体で協力している雰囲気はなかったんだろう?」
「はい」
買い物途中、移動時間に都度報告していたが、街自体は革命軍と関係なさそうだった。戦艦が潜んでいると知っている人も、いないのではないだろうか。
「ならば、ロヒュードルの地理に詳しい者が所属不明艦にいる、と考えるしかないね」
その最有力候補が、シエゴだ。既にユミトが革命軍に参加しているなら、シエゴは確実に戦艦リヴォルツィオーネに搭乗しているはず。
問題は、アニメとは違う場所で出会っていることで、今が原作の何話あたりなのかが不明なことだ。
敵戦力__主人公機『ホープレイ』にどの程度の強化がされているのか、予想がつかない。
アルバートとの初戦闘では、ユミトが『ホープレイ』を使いこなせておらず、機体性能自体は高いがカスタムもされていないこともあり、アルバートが勝利する。
だが、初めての敗北を味わったユミトは、操縦訓練を真剣に受けるようなり、その技術向上にあわせて『ホープレイ』も強化される。
強化後のユミトは負け知らずで、次に追いつめられるのは、アルバートとの最終決戦。そこでは苦戦するものの、二度と負けることは無く。アルバートが死亡することで決着がつく。
場所が違うだけで、アニメ3話の展開をなぞるなら、この戦いでアルバートが負けることは無い。しかし、本当にそれでいいのか、と疑問が浮かぶ。このズレを利用して、アルバートの生存を確かにできる方法はないのか。
『__全艦に通達。当艦は只今より発艦準備に入る。各自、衝撃に備えよ。繰り返す』
全艦に響き渡る放送に、思考の海に沈んでいた私の意識が引き戻される。
横でアルバートと話を続けていたらしいエンブレイが、小さく咳払いをした。
「所属不明艦を追う。出撃の可能性が高いことを、心に留め置いて行動してくれ」
それぞれ出撃の準備をしておけという指示に、小さく頷く。じゃあ、と足早に持ち場に戻って行くエンブレイを見送り、アルバートに視線を向ける。
「シオリ、機体の準備を頼む」
「……わかりました」
二人揃って、格納庫へと向かう。慌てているのか、無意識なのか、揺れる戦艦の中を走ると危険だと判断されたのか、アルバートに手を引かれているが、指摘をする余裕はなかった。
そのまま格納庫に入ると、私の姿を見つけるや否や、レックスが大きな声を上げた。
「シオリ先輩、システム起動お願い!!」
「他の2人は?」
「専用機は、複雑すぎて無理だって」
今は別の作業してる、と叫ぶレックスの手は、機体を固定するアームを次々と外している。ざっと全体の進捗状況を見て、確かにシステム起動を優先すべきだと、コックピットに向かおうとすると。
「自分で起動する。シオリは別の作業を」
アルバートが、そう言いながら繋いでいた手を解いた。その動作を見て、私たちが手を繋いでいたことに気付いたレックスが、おい、と先程とは違う種類の叫び声を上げた。
こんな状況下で浮かれた真似をするな、と言いたいのは分かるが、時間がないので今はスルーする。
「わかりました。レックス、終わったらスラスターの準備手伝って」
「わかった、けど……。後で説明しろよ!!」
不満そうに答えるものの、手は止めないレックスの協力と、アルバートがシステム側の準備をしてくれたおかげで、発進準備は順調に進み。
『アルバート・グリュードラー。発進準備完了』
ティケオンが惑星軌道上に到着すると同時に、アルバートは所属不明戦艦に向けて出撃していった。
所属不明戦艦リヴォルツィオーネは、革命軍の最新機体が集まる戦艦。戦力の秘匿や様々な面から、政府所属艦を近付けたくないはずだ。
そのため、アルバートを始めとしたアイゼルダート部隊が出撃するやいなや、あちらも五機のアイゼルダートを出撃させてきた。しかし、『ホープレイ』の姿はない。戦艦に待機していたわけではないので、出撃が遅れているのだろうか。
宇宙空間上に戦いによる光が明滅し始める。だが、戦いの展開は、モニター越しに見てもわかるほど、一方的だった。
「すごい、圧倒してる……」
一対一の戦いを有利に進めていくアルバート。敵を引きつけ攪乱するラヴィテスと、それにより動きを止めた敵から順に狙撃してくスィランス。
敵の動きは早く、ビーム障壁のようなものを張っているのか、有効打は与えられていない。しかし、素人目に見ても、アルバート達が負ける要素はないように思えた。
「あ」
徐々に革命軍を追い詰める中、暗い宇宙空間に、一際目立つ純白の機体__主人公機『ホープレイ』が相棒を伴って現れた。
まずい、戦局がひっくり返る。そう思ったものの、アルバートは『ホープレイ』の機動力をものともせずに剣裁きのみであしらっていた。
「見たことない機体だけど、乗ってるの素人?」
「だと、思う」
断言すると怪しいので、同調するだけで誤魔化しておく。レックスも深い意図はなかったらしく、モニターに視線を戻した。
「ふーん。出力は高そうだけど、振り回されるのかな」
『ホープレイ』の動きがぎこちないことは、レックスにもわかったらしい。
少しの間、無言でモニターを見つめる。すべての攻撃を防がれているものの、カウンターを喰らう前に機動力を活かして逃げる『ホープレイ』。距離を取られた状態でビームライフルで攻撃しても、他の機体同様ビーム障壁を張っているのか、有効打にはならない。
技量はアルバートが上だが、機体の性能が違う。そのことが、よくわかる戦いだった。
「シオリ先輩なら、あの機体、どうする?」
「どうする、って……?」
どうやって倒すか、ということだろうか。戸惑いながら聞き返すと、違う、整備の方、と呆れた声で返された。
「どう見ても動きおかしいじゃん。調整とか、なんかすれば良くなるの?」
「ええと……」
「なに。僕がこんな話したらおかしい?」
「ううん。ちょっと、考えてただけ」
アニメ本編では、操縦者の技量が上がることで性能を引き出せていたので、考えたことが無かった。だが、レックスの疑問は、尤もなもので、本来なら『ホープレイ』側をユミトに合わせて調整すべきだろう。
「そう、だね。まずは視野を狭めて、削ったところはセンサーに頼るかな」
アイゼルダートでの戦いは、凄まじい速度の中で行われている。操縦者は重力加速度に耐えられることは勿論、目まぐるしく変化する視界情報を整理しなくてはいけない。
簡単に言うと、情報量が多すぎて画面酔いに近い状態になってしまうのだ。体調不良を引き起こすほどではなくとも、僅かでも判断が遅れれば、戦闘では致命的な隙ができる。
それを気合と訓練で乗り越えられるのは、主人公補正と言うものだろう。実際、相棒であるヴェンは、遠距離戦ではそれなりな動きだが、近接では機体を完全に持て余しているように感じる。
「あれ……?」
ヴェンの動きが、おかしい。それは、アルバートがヴェンを倒した原因であり__ユミトが、アルバートを倒す理由では、なかっただろうか。




