15.介入
「皆、少ない時間で調べてくれてありがとう」
二十四時間後。時間きっちりに現れたシャランド艦長は、それぞれのチームに最も近しい技術について報告させた。
「シュタール主任技術士官、コンヴォルフ中佐を始め、半数以上の意見が一致したことから、革命軍機体にこの技術が使用されている可能性は極めて高いと言えるだろう」
結果、私たちだけでなく、他のチームもZONA粒子に辿り着いていた。
当然、他チームにアニメ知識はない。幾ら、禁止技術と範囲が提示されていたとはいえ、純粋に、敵機体の僅かな映像から高威力のビームを撃つ技術を探し、見つけたのだ。
積み重ねた知識と経験の差を痛感した。
「この件には、星侯だけじゃなく、宇宙連合機関も関わっている可能性が高い。もしかすると、僕たちティケオンの動きも、敵に筒抜けかもしれない」
先日の襲撃も、軍部にいる内通者により情報が漏れたことが原因かもしれない。元々、革命軍の機体は鹵獲された正規軍機体であることを考えると、疑いは濃厚だった。
シャランド艦長は重々しい声音で告げた。
「幸い、いち早く出撃したグリュードラー上級候補生が時間を稼いでくれたお陰で、こちらの勝利という形になった。だけど、重大な被害を受けていた可能性は、大いにある」
安全な航行だと思っていた矢先の襲撃だ。あの時は、私たちは偶々作業をしていたが、他の機体は最低限のメカニックしかいない所もあっただろう。
その上、メカニックは増えた士官学校機体の分だけ分散している。そして、代わりに戦闘経験のない学生がチームに入っている。幾らパイロットの行動が迅速でも、メカニックの準備が間に合わないのだ。
敵の発見からの出撃が、遅れる要素しかない。もしかしたら、本来なら、重大な被害を受けて数人が離脱もしくは、死亡していたのかもしれない。
アニメでは顔を見ることがなかった、エンブレイを見て。背筋に冷たいものが走った。
「どうかした?」
「いえ……」
でも、逆に、これはチャンスかもしれない。アニメにいなかった、エンブレイが艦にいる。その差が、アルバートの生存につながるかもしれない。
「内通者については、今後とも艦内外を警戒していく予定だよ。勿論、この場での話は秘匿するように」
それでは、八時間の休憩ののち、通常業務に戻るように。シャランド艦長の指示で、機体責任者たちが次々部屋を出ていく。
「シオリ嬢」
「はい。承知しています」
部屋を出る直前、エンブレイに声を掛けられる。私は、しっかりと頷いた。
現在、最もアニメの展開を壊す可能性のある存在。それを抜きにしても、エンブレイの指示や判断は的確に感じた。
だからこそ、ロヒュードルでの調査には、全力で当たるつもりだった。
しかし、その意気込みとは裏腹に、相手探しは難航した。理由は簡単。アルバートに話しかけられなかったからである。
「『金鷲』様、凄い人気ね」
「元々一目置かれてた上に、あの活躍だからね……」
先日の活躍もあり、艦内でのアルバートの株は急上昇。私の推しは、カッコよくて強いので、正当な評価だと思う。
が、私が話しかける隙がない。老若男女に囲まれているアルバートに、艦内で悪目立ちしている私は近付くことも難しい。
数日でロヒュードルに到着するというのに、今日も話しかけられそうにない。溜息をついて移動しようとした時。
「難儀しているようだね」
「……コンヴォルフ中佐」
エンブレイは私の視線の先、正規パイロットに囲まれているアルバートを見て、言った。
「緊急時、ある程度の武力対応ができる相手なら誰でも構わないよ。できれば、歳の近い相手と行ってくれた方が目は誤魔化せるけど」
正規軍人なら誰でもいい、ということだ。そう言ってから、エンブレイは少し考える素振りを見せた。
「__そうだね、時間もないから、丁度いい相手を紹介しよう」
丁度そこにいるから、とエンブレイは囲まれているパイロットの一団を指して笑う。
「え、いえ、あの中にいらっしゃるなら、お忙しい方なのでは……」
「大丈夫。喜んで協力してくれるよ」
女性からの頼みは断らないだろうから、という言葉に不安が膨らむ。それは、大丈夫な相手なのだろうか。
というか、ティケオンにいる、女好きで若いパイロットと言えば。
「ラヴィテス、ちょっといいかな」
「やだ!! めんどい事でしょ!!」
身構えたが、振り返ることもなく断られていた。ほっとしたのも束の間、エンブレイは気にせず言葉を続けた。
「彼女とデートして欲しいんだけ「初めまして、オレはパイロットのラヴィテス・フェニーチェ。お姉さんの名前は?」」
くるり、と視界の端で赤い三つ編みが舞う。一拍遅れて、綺麗な形の頭が自身の頭より下に__彼が、跪いていることに気付き、焦る。
「わ、私相手に、そんな__」
公式で女好きと明言されていた彼は、ラヴィテス・フェニーチェ。アニメ敵側主要パイロットの一人であり、高機動機体を操るトリックスター。
名門フェニーチェ家の出身。ラフィネ大佐の弟であり、生まれも階級も、圧倒的に上の相手である。
「あれ、オレのこと知ってたか。大丈夫、女の子は存在自体が尊いんだよ。オレが傅くのも当然のことなんだ」
だから、オレに名前を呼ばせてほしい、と右手をそっと取られたところで。
「いい加減にしろ」
彼の背後から現れた、青いマフラーの青年によって、ラヴィテスは思い切り頭を叩かれた。
「イッテ!! 何すんだスィランス!!」
「困ってる」
「そんなことないって、ね、お姉さん!!」
その問いかけに、私は曖昧に笑って、誤魔化すように礼をした。
「初めまして、シオリ・トキタカです。フェニーチェ様、アルシェ様」
私の挨拶に目を丸くしたスィランスは、相方とは対照的に長距離射撃を得意としているパイロットだ。
アニメで知っていたのもあるが、二人とも、エメリオス第1学園区に、艦の中にいれば、自然と名前を聞く有名人である。
年齢は18で士官学校入学前だが、高等部で圧倒的な成績を収めていたはずだ。当然、武術の成績も良いのだろう。
「今後とも色々よろしくね、シオリさん」
「よろしくお願いします、フェニーチェ様」
「ラヴィテスって呼んでよ。オレの方が年下だし、姉貴と紛らわしいし、もっと仲良くなりたいからさ」
ぱちん、と華麗なウインクを決め、ラヴィテスが微笑む。少々チャラいが、大変様になっている。
「は、はい。ラヴィテス、さ……」
「ラヴィテス」
「……ラヴィテス」
「うん、よろしく!!」
圧倒的なコミュニケーション能力に押され気味だが、確かにラヴィテスはうってつけの相手だ。
ラフィネ大佐の弟であるから裏切りの心配はなく、女性の扱いも完璧。おまけに非常時の戦力としても優秀。文句なしだ。
でも、流されそうで怖い。この圧倒的な会話力の前に、根本的にインドア派な私は太刀打ちできないだろう。
視線を彷徨わせている私を見て、スィランスが小さく咳払いをした。
「……で、何の用だったんだ、中佐」
「彼女とロヒュードルで買い出しに行って欲しくてね。君たちなら__」
その言葉を遮るように、私の前__ラヴィテスとの間に割って入るように、誰かが立ち塞がった。
「その役目、俺でもいいでしょうか」
聞き慣れた甘い声。目に映る金の髪、水色のリボン。目の前に、アルバートが静かに立っていた。
「げ、アル先輩」
「ラヴィテス?」
「馬鹿」
「ナンデモナイデス」
ラヴィテスとの距離は大分近かったので、間に入ってるアルバートは、背中にぶつかりそうな距離だ。
「買い出しなら、事前に約束していましたから。護衛としても、俺は問題ないはずしょう?」
シオリ嬢はいいですよね、と見つめられ、コクコクと赤べこのように頷いた。エンブレイが喉奥で笑う音がする。
「此方としては、誰でも問題ないよ。君なら、ラヴィテスよりも問題を起こさないだろうしね」
「呼んどいて酷くね?」
「日頃の行い」
これは任務だからね、とエンブレイが説明すると、ラヴィテスは唇を尖らせ、言った。
「ま、俺はいいけどさ。でも、アル先輩、今のままだと駄目じゃね?」
自然に買いも出ししないとなのに、シオリ“嬢”呼びは変でしょ。
その言葉に、私とアルバートは、互いに顔を見合わせた。




