14.疑惑
「……あの」
「ん?」
敵機体の分析は、緊急性の高いの仕事だ。
アーカイブルームの機器の操作説明を受け終わると、私も早速、調査を始めた。
接続先は、大学にも公開されていない、宇宙連合機関本部が保有する技術情報。その中から更に、エネルギー関連の単語を打ち込み、絞り込みをかけていく。
概要を読み、近そうなものをウインドウに表示。データダウンロードの間に、次の資料を探していく。
大学での文献調査と同じだ。機器操作も問題ないはず。だが、隣から送られてくる視線が気になった。
「資料確認を二人で行うのは合理的ですが、何故、コンヴォルフ中佐が私と……?」
資料の内容を読み違えないよう、私たちは二人一組で同じ資料を読むことになっていた。
他の人たちは歳や階級の近い者同士ペアを組んでいたのだが、何故か私のペアに名乗りを上げたのはエンブレイだった。
「んー、他の人だと気まずくない?」
確かに気まずい。学生上がりのお嬢様の癖に、ベテラン揃いの機体責任者に混ざっているのだから。だが、任命したのはエンブレイである。
ちらりと見ると、彼は眉を下げて笑みを作った。私の立場が微妙なことは把握しているらしい。
「ごめんね、でも、人員不足は本当だからさ」
せめてものお詫びというか、アフターフォローかな。その声音には、確かに、私への心配が含まれている気がして。
結果的に嫌がらせを受ける羽目になったとはいえ、頑なな態度を取り続けるのは、間違っている気がした。
「家の力込みとはいえ、メカニックとして認められたことは嬉しく思っています。私には、どうしても、この艦に残りたい理由がありましたので」
選んで貰えたことには、純粋な感謝を伝えると。エンブレイは鈍色の目を丸くして、すぐに笑みの形を作り直した。
「だから、そんなに一生懸命調べてたの?」
「はい」
視界の中で、幾つものウインドウが明滅する。
記憶を思い出した時からずっと、一生懸命だ。アニメでは詳細に語られない『新エネルギー』の少しでも手掛かりが欲しくて、大学の間から調べていたのだ。
たかが、三ヶ月分且つ、大学の制限された情報とはいえ。アニメの知識と合わせれば、禁止技術の中から当たりをつけることはできた。
ある資料を見つけ、目を止める。
「当たりはついた?」
エンブレイが、穏やかに問い掛けてくる。私は見やすいように資料を表示させながら、資料の見出しを読み上げた。
「……ZONA 粒子。正式名称Zonal Oscillation Neutron Activatorによる高効率のエネルギー供給」
それは、政府主導で行われていた新エネルギー研究の一つだ。名前の通り、特殊な粒子を用いる手法で、内容は工学よりも、物理学に近い分野と言える。
私からすれば専門外。だが、そのエネルギー生成法は、既視感のあるものだった。
「五年前に研究が凍結され、その後、禁止技術とされたものです」
特殊な粒子による、超効率化された核反応。つまり、元いた世界でいうところの、原子力発電の強化版といえる技術だったのだ。
「……なるほど、確かに夢のような技術だね」
概要を読んだエンブレイが頷いた。そう、本当に夢のような技術なのだ。
「はい。素晴らしい効率を実現できます。危険性に目を瞑るなら、ですが」
効率が良いということは、暴走時の被害も大きいということ。だが、制御法が追いつけば問題はないはずだ。
「だが、中止された理由がわからないな。これだけの効率だ。安全性が確立されれば……」
その答えは資料に書いてあった。エンブレイの言葉を遮るように、該当箇所を指差す。
「これが、禁止の理由でしょうね」
資料には、小型装置でのエネルギー生成生成後の、大型装置を用いた実証実験について記載があった。
が、しかし。
「結果がないね」
実験手法や地域、期間、担当部署、途中経過や変更事項が事細かに書かれているのに、結果だけがないのだ。
「実験の完了予定時期と、凍結された時期も気になって」
報告書の日付は、実験凍結時期より前で、実験の完了予定時期より後。つまり、実験は行われたはずなのだ。
研究凍結後、禁止技術となっている以上、実験は失敗したのだろう。が、危険性を書き記すこともされていない。
余程、都合が悪い結果だったのだろう。
エンブレイに視線を向けると、取り繕った雰囲気のない、本当に困ったように口の端を引き攣らせていた。
「……これ、星侯が関わってるかもね」
星侯とは、惑星を代々治めてきた旧支配者一族である。宇宙連合機関を幕府と見なすなら、星侯は各惑星の大名のような存在であり、連合の支配下にありながら一定の自治権を持つ。
つまり、宇宙連合機関も無視できない権力なのである。
「開発者の、この人。惑星ロヒュードルの星侯一族だったかな。技術革新に対して、過激派でね」
エンブレイが指した名前は、『ゾナ・フロンティア』でも何度も耳にしたものだ。
シエゴ・ソロディアル。主人公に協力する科学者であり、主人公機『ホープレイ』の開発者である。
アニメでは探究心が強く、主人公の境遇に同情的な革命軍の科学者という印象だったが、まさか権力者側だったとは。
これで革命軍への参加理由が、ZONA粒子の研究凍結だったら本当に笑えない状況である。
「……コンヴォルフ中佐。セラディアに向かう道中、ロヒュードルに立ち寄る予定では無かったでしょうか?」
「ロヒュードルは貴重な水産資源の生産拠点だからな。当然、寄港する予定だ。軍事的にも、中立……の、はずだったからな」
惑星ロヒュードルは、陸はなく、海に覆われ、人々は氷上で暮らしている星だ。
大陸こそないものの、豊富な水のお陰で生態系は豊かで、他惑星に水や水産資源を売り、鉱石や燃料を買うことで生活を成り立たせている。
他星からの輸入がなくては生活が厳しいので、宇宙連合機関に対しても協力的で、どの星の争いにも参加しない、軍事的には中立な星。
それが惑星ロヒュードル、だったのだが。
「よく考えなくても、高効率のエネルギー生成法を物凄く必要としてる星ですよね、ロヒュードル」
必要は発明の母。シエゴが発明するきっかけは十分。そして、研究が凍結された時に、宇宙連合機関を恨む理由も十分だ。
「現実逃避を許さない意見をありがとう、トキタカ嬢」
「逃避しても事態は好転しないので……」
シエゴの行動が惑星ロヒュードルの総意かは不明だ。しかき、シエゴの視点からすると、故郷を救うためのエネルギー生成法を発明したのに宇宙連合機関に却下された。
そんな彼が、同じくエネルギー問題を理由に故郷を失いそうな主人公達を支援する。大変自然な流れだ。
実際、『ゾナ・フロンティア』は、主人公機に搭載されていた新エネルギーが認められ、セラディア外縁居住区群に煌々と光が灯る光景を主人公達が眺めるシーンで締めくくられる。
原作が始まっているとしたら、既にシエゴはロヒュードルにはいないはずだ。だが、主人公の姿を確認していない以上、原作が始まっているかは確定していない。
補給中に事件が起こるとは思いたくないが、警戒と調査は必要だろう。
「シエゴの革命軍への関与を含め、調査は必要だな」
「ですが、ロヒュードル自体が革命軍に協力している場合、正規軍の軍人は警戒されるのでは?」
私の疑問に、エンブレイは、待っていましたとばかりに笑みを浮かべた。
「その通り。ところで、シオリ嬢。出立前にグリュードラー上級候補生と買い出しに行ったそうだね」
ロヒュードルでも頼めるかな。君にしか頼めない、との言葉の上に、上官命令を重ねられては、私は頷くしかないのだった。




