↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/26

13.軟禁

 アルバートとの買い出しの後。他人に頼るなんて、と正規メカニックたちからの当たりが強くなるかと思いきや、嫌がらせはパタリと止まった。


 だがそれは、私の実力が認められたからではなく。嫌がらせをする余裕がなくなったからだった。


 買い出しの翌日、私たちは母星エメリオス軌道上から離脱した。目的地は、革命軍の拠点となっていると予想されるセラディア外縁居住区群だ。


 宇宙連合機関は、本拠地エメリオス付近で起こった襲撃に警戒を強めており、周辺の防衛を強化している。私たちの移動ルート付近にも、正規兵が駐屯しており、航行は安全と思われていた。


 にも関わらず、出立して半日も経たないうちに、戦艦ティケオンは革命軍の襲撃を受けたのだ。


『__全艦に通達。当艦航行ルート上に、所属不明機体の反応を確認。機体数4。呼びかけへの応答なし。敵勢力とみなし、これより第一種戦闘態勢へ移行する。繰り返す』


 作業中に鳴り響いた、大音量の放送。素早く動き出す正規メカニックは、いつもの嫌味も忘れ、私とレックスに短く告げる。


「機体の発進準備!!」


 一人は機体周りを覆うアームを外し、もう一人は燃料の最終チェックを始める。残っている作業は、メインシステムの起動確認と、障害物の排除。


「レックス、道具片付けて!!」

「先輩は」

「システム立ち上げる!!」


 機体の制御キーを引っ掴み、床を蹴り一直線でコクピットに向かう。


「起動します!! アーム解除、大丈夫ですか!!」

「誰に言ってんだ、早くしろ!!」


 怒鳴り返される声に、いつもの棘はない。いつもの棘以上に突き刺さる、戦闘前のピリついた空気に心臓が早鐘を打つ。


 操縦席に座り、震えそうになる手で制御キーを差し込む。幾つかの操作を加え、メインシステムを緊急起動させれば、正面から順に、暗かったモニターが外の風景を映し出す。


「メインシステム起動確認。制御系異常なし」


 最低限の確認をして、コクピットを飛び出る。レックスが宇宙服とヘルメットを持ってこちらに来ていた。


「早く着て、終わったら装備を__」

「パイロット到着!! アーム外すぞ!!」

「発進準備!! 固定フレームに移動しろ!!」


 次々飛んでくる指示。慌てて宇宙服のファスナーを上げ、ヘルメットを被りながら目だけ動かし、固定フレームを探す。

 壁に体を固定しなくては、ハッチを開けた瞬間、外に吸い出されるからだ。


「あっち」


 ヘルメットのシールドを下ろしたところで、真隣から、戦闘前とは思えない穏やかな声。


「アルバート様……」

「準備ありがとう。後は、俺に任せて」


 そう笑うと、アルバートは私を固定フレームに向けて押した。等速で遠ざかっていく視界で、颯爽とコクピットに乗り込む彼を見送る。


 トン、と背中がフレームに触れる。体が跳ね返る前に、胸元に下ろし固定を完了する。隣からもガチャ、と音がして、レックスも固定が完了したことに気付く。


「整備班退避完了!!」


 正規メカニックが声を張り上げるのと、機体のハッチが閉まるのは同時だった。


 ブォン、と鈍い音が聞こえ、青色のセンサーアイが輝きを放つ。


『アルバート・グリュードラー。発進準備完了』

『発進を許可します。第3射出レーン、待機完了』


 艦内放送が響き渡る。発進許可を得た機体が、レーンに向けて移動を始める。


 格納庫内のシャッターが次々と降り、空気が抜ける音と強い風で減圧が始まったことがわかる。


『アルバート・グリュードラー。発進します』


 一際、強い風が巻き起こる。宇宙空間に放り出されないよう、固定用フレームを掴みながら、顔を上げると。


 青い光を纏う機体が、暗い宇宙に溶け込んでいき。あっという間に、見えなくなった。


 放送は止まらない。機体の出撃許可や、砲撃の指示。次々出される指示のうち、関係のあるものだけ聞かなくてはいけない。


 艦の移動や機体出撃により体が揺さぶられ、極度の緊張も合わさり、意識が薄れそうになる中。


『__こちら、エンブレイ。整備班に通達。各機体の整備責任者は至急、アーカイブルームに集合せよ』


 やけに鮮明に聞こえた放送に、レックスと顔を見合わせた。


「所属不明機について、外観から革命軍所属の敵機体と確認された」


 さして広くないアーカイブルームに、ティケオン所属の各機体責任者14名とゴルドが集められた。私以外は全員、この艦の正規兵ばかりだ。


「んなことはいい。わざわざ俺たちを集めた理由はなんだ?」


 今は各機体が戦闘中および待機状態の状態だ。そんな中、機体の整備責任者を集めたとなると、余程の事態なのだろう。


 ゴルドの鋭い眼差しに、エンブレイは無言でホログラムを起動した。画面に映し出されるのは、薄いグレーのアイゼルダート。


「つい先程、確認できた戦闘中の映像だ」


 機体自体は、極めて普通だ。宇宙連合機関の機体を鹵獲し再利用しているだけだろう。以前、士官学校で見たものと違う点は、剣ではなく銃を装備しているくらいか。


 機体性能が同じなら、練度の高く数も多い正規兵が有利だ。連携の取れた動きで、あっという間に敵機を追い詰めていく。


 小惑星と味方機体に挟まれた敵機は、活路を開こうと小惑星に銃口を向ける。


「流石に直径数kmの小惑星焼き切る出力なんて__」


 そう、誰かが呟いた、次の瞬間。どろりと溶けるように小惑星の中心に、機体が通れるだけの穴が開いた。


「……おいおい、おかしいだろ」


 あまりの事態に、味方機の動きが鈍った一瞬の隙をつき、その機体は戦闘宙域から離脱したようだ。


 エンブレイが、私たちの顔を見渡し、映像を止める。


「残念ながら、映像は以上だ。敵機体4機のうち、今の機体は離脱。残り3機は撃墜したため、得られるデータはない」


「だけど、放っておくわけにはいかないからね」


 入り口から声。振り返ると、首にかけた懐中時計を揺らしながら近付いてくる、羊のような少年。


 知らなければ、確実に中学生だと思ったであろう、その人物は。


「艦長!?」


 戦艦ティケオンの艦長であり、カウンセラー。実は最年長のシャランド・ロクエルノ少佐だ。


「みんな、お疲れ様。急にごめんね。ちょっと意見を聞きたくて」


 シャランド艦長は、再び画面に敵機体を映し出すと、穏やかな声のまま問いかける。


「__この機体、禁止技術を使っていると思う?」



 革命軍。強力なビーム兵器。大学では研究されていなかった、新エネルギー。それらを禁止技術と呼ぶなら、間違いなく、敵機体には使われているだろう。


「……断言はできねぇ。が、可能性は高い。エンブレイはどうだ」


「俺も同意見かな。とはいえ、禁止技術について、あんまり詳しくないけど」


 ゴルドとエンブレイの答えに、シャランド艦長は小さく頷いた。


「二人が言うなら、可能性は高そうだね」


 困ったなぁ、と眉をハの字にしながらも、シャランド艦長は、はっきりと言った。


「機体責任者諸君には、艦内データベース内の禁止技術に関する項目への接続許可を与える。先程の映像が、禁止技術に類するものか、判断してほしい。期限は二十四時間。その間の業務は別の者に代行させるものとする。仕事の割り振りはゴルドに頼むよ」


「了解」


「また、この場での会話はすべて秘匿とする。悪いけど、部屋から出ないでほしい。襲撃のタイミングといい、先程の機体といい、内通者がいる可能性がある」


 こうして、私たちはアーカイブルームに缶詰兼軟禁されることが決定したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。