第120話 天空の船にて
船に戻り、ロビーでセイ達は改めて自己紹介をすることにした。透に対してまともな自己紹介をしていない事に気付いたからだ。
「私はセイ・アインシトル。うーん……まあ、今は覚えたての魔術と[闇鴉]というものでしか戦えないとだけ言っておけばいいかな?
[闇鴉]は危険なスキルで、戦闘となれば周りの味方も巻き込んでしまう可能性が高いんだ。だからそのためにポラ・メモリアに魔術を学びに来たんだ」
アリスも続く。
「私はアリス・アインシトルです。セイ様の妹です。
基本は[龍神化]、[創造者権限]というスキルとこの刀[妖刀:夜虚]を中心に戦います」
「……なんだって? 二つもスキルを持っているのか?」
透はとても不思議そうにしていたが、
「私たち、何か変な事言ったかい? 少なくともここ主要次元では、スキルを二つか三つは持っている人が大半だと思うけど……」
セイも不思議そうにしていた。
(持っているスキルは一つだけ? ますます透の謎は深まるな……)
アルカはそのなんとも言い難い空気を壊すように続けた。
「えーと……私はアルカ・アインシトル、この2人のお母さんよ。
私も戦闘の時は[創造者権限]が主かしらね……」
「……俺はラレム。魔術師だ」
ラレムはたった二言で終わらせてしまった。
「ちょっとラレム、それでいいのかい?」
「あまり多くの人間に俺の素性は明かすべきでないと判断しただけだ」
「誰にでも秘密はあるもんだし仕方ない。それにどこの誰かもわからない俺は信用できないだろうからな」
「あはは……ごめんな」
セイは申し訳なさそうに頭を掻いた。
すると船の出入り口が開いた。
「連絡で言っていた男とは彼のことか?」
レイだ。セイからの連絡でこの次元に駆け付けていたのだ。
「ああ。来てくれてありがとう。けど彼はどうやらこの戦いに身を投じてくれるそうだよ。
あ、言ってなかったね。さっきの連絡にあった戦いがあっさり終わってしまったから、私はまだ何かあると睨んでいるんだ」
するとレイは椅子に座り、先ほどのことをセイに話した。
「状況は把握している。どうやらリベルは近々、大規模な計画を実行に移すようだ。先の戦いは私も見ていた。そして、サイアンもな」
「なんだって?!」
透の頭にはいくつかの疑問が浮かんでいた。
「すまない。サイアンってのは?
あとリベルの他の異名持ちについても教えてくれると助かる」
「ああ。説明していなかったね。異名持ちは残り二人、っていうのは言ったよね?
その内の一人が異名持ち序列一位【調停】サイアンだ。その能力は詳しくわかっていないけど、無数のスキルを扱う事は分かっている。そして、序列一位なだけに、リベルにおいて最も重要な役割を担っていることは確かだね。
もう一人は序列二位【月光】メーノル。
彼は暗殺者のような戦い方が得意で、両短剣を使っていたよ。戦った当時はそのスピードで、私とアリスはかなり追い詰められたよ。
あと、リベル最強の戦士、と呼ばれているよ。これで十分かな?」
「ありがとう。大体は把握した。つまりは厄介なのが残ってるってわけだ」
セイは頷き、
「そうだね。二人ともと戦ったことがあるけど、生半可な攻撃は通用しない強者だったよ」
するとレイが再び口を開き、説明を続けた。
「続けるぞ。
お前達の戦いが終わった頃、私はサイアンと交戦した。それなりに追い詰めたと思ったが、あと少しのところで逃げられてしまったんだ。
そしてその時、奴は「数日の内に決着がつく」と言っていた。他の次元で雑魚が叫んでいる事と関係している可能性も高い。なんにせよ、この次元で何かが起きようとしている事は確かだ。
テヌドットに雑魚の相手をするよう言ってきた。ここからは私も協力しよう」
すると透の視線に気づいたレイは、
「あー……私はレイ・カルカソンヌだ。
ルサリナ教、主要次元で最も信仰されている宗教の異端審問官をしている」
「わかった、これからよろしく頼む」
透が手を差し出し、レイはそれを握った。
その後、一行は船の会議室へと移動し、今後の動きについて話し合う事にした。
「まず……この中でこの次元に一番詳しいのは母さんだ。何か知っている事や推測していないかい?」
セイがアルカに尋ねると、
「そうね……リベルがポラ・メモリアを囲んでいたとすると、きっと狙いは世界樹か魔術の術式ね。けど術式は存在自体がほとんど知られていないし、重要視すべきは世界樹の方じゃないかしら。世界樹をどうするつもりかは分からないけど、異名持ちも関わってくるとなるとかなり重要な事ではあるみたいね。
あと、他次元でリベルが何か叫んでるって言ってたわよね? あれはどういうこと?」
するとレイが手を挙げた。
「私が説明しよう。お前達がこの次元に来た頃、主要次元の各地で突然リベルのメンバーが集団で現れて、こう叫び出したんだ。
「我々に協力せよ。さもなくば【記憶】にひれ伏すことになる!」と」
ラレムはアルカと透のため補足をつけ足した。
「【記憶】は二万年前に存在した、リベルの異名持ちの一人だ。当時のリベルは、神ではなく傲慢な王や欲望に溺れた支配層への反逆とその支援を行っていた。今のリベルとは全く違う組織だ。
そして【記憶】ヴェルクロットは、当時のメンバー十五億人の中で頂点の異名持ち序列一位の座についていた。しかしヴェルクロットはその強大な力に溺れたのか、狂ってしまった……
それ以上の事は俺も詳しくは知らない」
「つまり、そのヴェルクロットってやつが今も生きていて、主要次元への侵略か何かを企んでいると?」
ラレムは少し俯いて、
「分からない。だが可能性はある。
少なくとも、奴が今も生きていて、俺達はそいつを止めるか殺さなければならないことは確かだ」
「でも、叫んでいる内容からして、奴らは自分達を中心として【記憶】と敵対しようとしているってことかな?」
セイがそう呟くと、ラレムは
「あまりそうは考えられないな。ヴェルクロットは多くの神々を殺した。今のリベルからすれば、どちらかというと憧れの存在だろう。
情報は少ないが、今考えられる条件では、奴らにヴェルクロットと敵対するメリットはない」




