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星降る夜の砂漠は井戸を秘める  作者: まりや みずうみ
13/15

綺麗な服よりも

大樹から告白されてから、数日後。

真知子は、服を買いにショッピングモールに来ていた。

今回は美園は一緒ではない。が、服を選ぼうと歩き回ればまわるほど、美園に来て貰えば良かったと後悔の気持ちが湧き上がってくる。

おしゃれなヘアサロンを予約しようとして、ハッと「何を着ていけば良いの?」と気づき、自分がそういう「垢抜けた」場所に行く為の服さえ持っていない事を、恥ずかしくて美園にすら言えなかったのだ。

かくして、今に至る。

おしゃれな音楽が流れるショッピングモール内、おしゃれな服を着て、おしゃれな男性と腕を組んだ、キラキラした若い女の子たちが、どちらを向いても視界に入ってしまう。

対して、うっすら毛玉の浮いた地味なセーターと、ジーパンというどうでも良い格好の自分。恥ずかしくて、情けなくて、泣きたい気持ちになってきた。

私は、大樹さんには相応しくないんだわ・・・・。

もう帰ろう、と思って出入り口へ歩き始めた時、ショッピングモール内の掲示物が目に入った。

「籠屋ひさる 最新作!『百目百味怪奇談』‼︎」

「これぞミステリー小説の真髄!」

「発売記念!先着100名様に作者サイン入りポストカードプレゼント‼︎」


「・・・・・・」

気がついたら、ショッピングモール内の書店にいた。

手には、『百目百味怪奇談』。

他のファッション誌などには目もくれず、流れるようにレジに並び、会計へ。

「カバーはおかけしますか?」

「お願いします」

「レジ袋は有料となっておりま・・・」

「要りません」

店員さんの言葉を遮ってレジ袋を断り、サイン入りポストカードをゲットし、再び流れるようにショッピングモールをでる。

もう、服はいいや。今日は家に帰ってこれを読もう。いや、今すぐ読みたい。喫茶店に寄ろう。

ハードカバーの本を両手でぎゅっと抱きしめ、にほにほ笑いながら駅の近くのコーヒーショップへ入った。

明るい午後の光が差し込む窓際の席に陣取り、ホットカフェラテ(Lサイズ)をそばに据え、真知子はハードカバーの表紙を、

めくった。



ねえねえ、あそこで本読んでるお姉さん美人じゃない?

肌、白っ!

芸能人?

オーラ消すために地味なカッコしてるとか?

指ほそーい。爪きれい。

うわ、今髪がはらりって肩から落ちた。はらりって。

やばー‼︎


「・・・真知子さん・・・」

「・・・・・・」

「真知子さん」

「・・・・・・」

先程から名前を呼ばれている。が、ミステリーの世界にどっぷり浸かった真知子の脳内には届かない。

「・・・・壁の二つ目の額縁を指でずらすと、そこにはやはり」

「!?」

今まさに読んでいた文を誰かに朗読され、真知子は驚いて顔を上げた。

見ると、大樹が「やあ」と手を挙げた。

その顔が少し寂しそうなのは気のせいだろうか。

「大樹さん・・・」

「集中してたよね、ごめん」

「全然気が付かなかったわ。いつからそこに?」

「5分くらい前かな、俺もその小説買ったよ」

「ここ座ってもいい?」と、大樹は真知子の向かいに腰掛けた。

「今日はその本を買いに出かけたの?」

言われて真知子は今日の哀れな自分を思い出し、項垂れた。

「本当は、服を買いに来たの。髪を切りに行く服も持っていないの」

支離滅裂な説明でも、大樹はうんうんと聞いてくれる。

「私にはおしゃれな世界は相応しくないの」

「うーん」

「大樹さん、やっぱり私と別れてください」

「うー、えっ?」

大樹は真顔になる。

「なんでそうなるの?」

「私は大樹さんの隣に相応しくないの」

真知子は両手で顔を覆った。

大樹は視線を落として、少し考えた。

「真知子さん、アクセサリーの新作が出来たから、見てくれない?」

そう言うと、上着の内ポケットからチャリ、とアクセサリーを出す。

真知子はまだ顔を覆ったままだ。

「鉄火深雪先生の・・・」

「『清水寺の二人』でしょう」

「・・・・・」

「作中で主人公が恋人に最初に贈る簪をイメージしているでしょう」

「・・・・・手の隙間から見えてるの?」

真知子は首を振る。

「なんとなくわかるの」

大樹は目を瞬いて真知子を見た。

「そんなに俺の事、わかってくれるのに、おしゃれじゃないって事くらいで俺に相応しくないって、どうなの?」

真知子は両手をずらして目だけを出す。

「・・・私の言ってる事、変かしら」

「変です、さっきの言葉は撤回してください」

真知子は顔を半分覆ったままため息をつく。

「おしゃれになりたい・・・」

「じゃあ、今から一緒に服を買いに行こう。俺の好みになるけど、いい?」

大樹の提案に、真知子は目をぱちぱちした。

その目がゆっくり弧を描く。

「嬉しい。最初から大樹さんに相談すれば良かった」

大樹は真知子のその笑顔を満足そうに眺めた。


俺のものでいて欲しい。

俺だけのもので。

彼女は自分の世界に入ると、内側から魅力が溢れ出して、どうしようもなく周りの人間を惹きつける。

どうか遠い世界に行かないで。

綺麗な服など要らない。

そんなものは外見を誤魔化すだけのものだ。

彼女にはそのままでいて欲しい。

隠された井戸は、俺だけが知っていれば良いのに。




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