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星降る夜の砂漠は井戸を秘める  作者: まりや みずうみ
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座談会

「これって、よくあるホラーに見せかけて、実はヒューマンドラマを描いてるよね」

「うーん、俺もそう思う。けど、もう一つ別の読み方があって、人間の心理が作り出す歪みみたいなものも描いているような気がするよ」

「じゃあ、この双子の登場の意味って・・・」


本日、真知子と大樹はブックカフェで「プチ座談会」を開いていた。お題は中嶌みどり作「深窓の双子」から。

「深窓の双子」は、海に囲まれた離島が舞台だ。離島には昔からのしきたりがあり、丘の上に建つ古い洋館の住人には決して関わってはいけない、というものだ。しかし、都会から引っ越してきた主人公は、島民の忠告を無視して古い洋館へ行ってしまう、という物語だ。


「この『周りの人の忠告を無視する主人公』って、よく登場するよね。まあ、無視しなければ何も事件エピソードは起こらないけど」

大樹は苦笑しながらページを指した。

「そうね。物語の主人公って、周りの人と考えや価値観が違っていたり、境遇が特別でないと、物語が成り立たないのよね」

真知子も苦笑し、ふと目を逸らしてため息をついた。

「どしたの?」

「あ、ううん。私は平凡な人間だから、主人公よりも『脇役A』とかが相応しい。なんて思っちゃって」

「真知子さんはそのままが良いと思う」

思いもかけない返答に真知子が顔を上げると、大樹は真剣な目でこちらを見ていた。

「え?」

「例え『脇役A』だとしても、俺のアクセサリーをあんなに輝かせてくれるのは、真知子さんだけだから。俺にとっては、主人公よりも大事な『脇役A』だよ。それだけは、自分に自信持って欲しい」

大樹の言葉に、真知子は赤面した。正直に嬉しい反面、アクセサリーのモデルを引き受けておきながら、真知子が「自分の事が好きではない」「自分に自信がない」という事を大樹に見透かされ、恥ずかしくて泣きたい様な気持ちになった。

赤くなって俯く真知子を見て、大樹は椅子にかけた上着のポケットを探るようにする。

「これ」

大樹が差し出した物を見て、真知子は目を瞬いた。

「どう思う?」

それは、未完成のアクセサリーだった。まだ装飾の部分しか出来ていない、これが後にブローチになるのだかヘアクリップになるのだか、全くわからない物だ。

真知子は黙って手のひらに受け取った。自分の心が燃えたつのがわかる。瞳が光を吸って輝くのも。

「・・・『燃え盛る水面』ね」

真知子の回答に大樹は破顔した。

「その飾りだけでよくわかったね」

「すぐにわかるわ。大樹さんの作品なら」

真知子は取り憑かれた様に作品を見ながら低く呟いた。

「それ、この後どういう作品にしたら良いかな。真知子さんの意見を聞きたくてさ」

真知子は大樹を見る。その視線はもう「平凡な」人間のものではない。

「扇よ、扇がいいわ」

真知子は囁いた。

「『燃え盛る水面』のラストで、主人公が宮中の女官を統べる時に使った扇の模様を連想させるわ」

そう言って、真知子は見えない群衆に向かって雅やかに微笑んだ。

大樹は、実は最初から完成形は扇にしようと思っていた。ただ、あまりにも前例のない発想であるため、完成まで持っていくのに自分のインスピレーションが保たなかった。真知子ならきっと良い刺激をくれると思って、未完成のまま持ってきたのだ。

「シルバーアクセサリーだもの、透かし彫りの様に扇の一枚一枚に違った模様を彫ったら素敵でしょうね。もしかしたら物語の展開に合わせたりして・・・」

「ああ、そうだね。すごく良いね、それ」

大樹と真知子は飽きる事なく話をした。

話しながら、大樹は何となく気がつきはじめていた。真知子は、普段は「自信のない女性」の皮を被っているが、何か心のスイッチを押された途端、真知子自身も気づいていない美しさや魅力が内面からどっと溢れ出すのだ。

今のところ、そのスイッチは自分のシルバーアクセサリーだけが押せると自負している。しかし、おそらく誰かがすぐに真知子を見つけてしまうだろう。その時、真知子はどのような選択をするのだろうか。

井戸を隠した美しい砂漠は誰かの手に渡ってしまうのだろうか。

「真知子さん」

大樹が急に真剣な声を出したので、真知子は目を丸くした。

「どうしたんです?」

「真知子さん、あの・・・」

どうしたら、どうしたらこの人を繋ぎ止めておける?

「・・・付き合って貰えませんか」

「・・・・・・・・・・どこに?」

大樹は眉をひそめて真知子を見た。今時そんなコントみたいな答えが出るのか。

しかし真知子は心配そうに大樹を見ている。

「お腹が痛いの?」

「あの、真知子さん」

「私、薬持ってるわ。すぐ効くやつ。これ飲んで・・・」

「真知子さん、俺と付き合ってください」

そうだ、自分は愛の告白に対して真剣にトンチンカンな答えを出してしまう真知子のことも好きなのだと大樹は改めて思う。

真知子は、ポカンとして何も言わない。やがてゆっくり喋り出した。

「私・・・・こ、告白されたの、人生で初めて・・・・」

「告白したことは?」

「ないです・・・」

自信なさげに俯く真知子。

「じゃ、俺が人生初の恋人ですね」

嬉しさを隠し切れずにそう言うと、真知子も微笑んで顔を上げた。

「私は、自信のない女ですよ」

「それで良いんです。真知子さんに自信があったら、美しすぎて他の男に取られますから」

「私のどこが美しいの?」

「それも知らなくて良いです」

2人は言い合いながらくすくす笑った。

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