砂漠の井戸
「大樹、あの子どっから見つけてきたの?!」
真剣な声で琉は大樹を問い詰める。もちろん、真知子の事である。
「えっと、書店で偶然・・・」
「モデルが書店で偶然何を?」
「書店なんだから本買ってたに決まってるだろ」
「そしてお前はなぜそのモデルが書店に来る事を知っていたんだ?」
「そんな尋問しなくても」
困った声で釈明する大樹だが、琉はカメラの画面を見ながら、そわそわと落ち着かない。
「だってこれ、この表情!そこらの素人に出来るかよ!」
「ミソノさんの作品のモデルやってたって言ってたし・・・」
「顔は映してないんだろ」
「うーん・・・」
言葉を濁す大樹に、琉は独り言のように呟く。
「それにしても、シルバーのアクセサリーが映える子だなぁ」
「あ、だろ?」
大樹は反射で反応する。
「真知子さん、肌が白いんだなあ、うなじキレイだなぁ」
「おいどこ見てるんだよ」
「このネックレス、サイズが調節できないのかぁ」
「あ、うん、まあ、そうだな」
「いやあ、真知子さんにぴったりのサイズだったなんて偶然だなぁ」
「・・・おい琉」
「このイヤリングもいいよなあ、真知子さんがピアス開けてないって何で知ってたのかなぁ」
「琉、お前」
「おやあ、俺の前にいる男は、真知子さんをストーキングしてたのかもしれないぞぉ」
「バッ、違う!かなり前から本屋で見かけるから良い子だなと思ってて!」
「ほう?」
「そしたら真知子さんがミソノさんのドレスのモデルやってるって気づいて!」
「ほう?」
「いつかこの人に俺の作ったアクセサリー付けて欲しいなって思ってたんだよ!」
結局大樹はペラペラと白状してしまう。
琉は「ふんふふんふ〜ん」とカメラを見たまま大樹を茶化す。
「真知子ちゃんのどこをいいなって思ったんだよ?」
「いや、それは・・・」
「だってこの子、お世辞にも世間一般の「美人」の部類には入らないぜ?そりゃ個性的な顔の割にドレスやアクセサリーを引き立てる珍しさはあるけどさぁ?」
カメラを見たまま嫌な笑みを浮かべて琉は真知子をあげつらう。そんな琉の後頭部を大樹は「ベチン!」と張っ倒した。
「イタッ!」
「ふざけんなよ琉!」
「何だよ本当の事だろ!」
「真知子さんの事何も知らないくせによ!」
「お前は知ってんのかよお?」
「知ってるよ!真知子さんはな、書店で平積みにされた本がグチャグチャになってるのを見かけると、いつも綺麗に並べ直してるんだ。本を扱う手つきだってとても丁寧で、自分が買わない本を触る前なんか手をアルコールで消毒してるんだぞ!おまけに、お店が混雑している時は店員さんに気を遣って、欲しい本がどこにあるかわからなくても店員さんに訊かずに頑張って自分で探し出してるんだ!お前、今まで生きてきた中でそんないい子に出会ったことあるかよ?無いだろ?顔だって、お前は美人じゃないとか言うけど、俺はあの、誰にも媚びなさそうなすっきりとした一重瞼と、対照的にふっくらと柔らかそうな、ある意味「官能的」な唇がとてもいいと思う。肌も透き通るように白いし。うなじだって綺麗だし」
「おい大樹」
「足首だって細いし」
「おーい、大樹ー?」
「声だって・・・・」
「大樹ーーー‼︎」
琉の大声に、我に返った大樹は振り返る。琉の後ろに、支度を終えた真知子と美園が立って、ポカンとこっちを見ている。
「あ、えっと」
赤くなる大樹に美園が尋ねる。
「何が細いって?」
「えっと、すんません、あの・・・」
「あ・し・く・何?」
「こらっ、美園!」
赤くなった真知子に怒られてもびくともせず、美園と琉は2人でゲラゲラヒーヒー笑い合うと、
「イェーイ!!」
とハイタッチし、2人並んでさっさと歩き出した。
琉に謀られたと知った大樹は両手で頭を抱え込む。恥ずかしくて真知子にどんな表情をすればいいやら。
「い、行きましょう?みんなで今日の打ち上げやるそうですよ」
顔を上げると、真知子が顔を赤くしてこっちを見ている。赤みが差してもなお白い真知子の顔。吸い込まれるように黒々とした、大きな瞳を隠す、一重の瞼。
そう、黒々とした、深い井戸のような瞳を隠す。
「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているから」
サン=テグジュペリ「星の王子さま」
大樹は俯いて、こぼれる笑みを真知子から背けた。
「シバさん?」
次のアクセサリーの題材はこれだ、これにしよう。
「シバさん、大丈夫?」
まったく、真知子さんには敵わないな。
こんなに素敵で、こんなにも俺の心の詩的な部分を呼び覚ましてくれる人なんて、今までいただろうか?
大樹は顔をあげて真知子に笑いかけた。
「大丈夫です。行きましょうか」
外に出て、大樹がさりげなく真知子の手を握る。真知子もそっと握り返す。そのささやかな出来事を、夜空の星々がただ見つめていた。




