28.遺恨を忘れて
28.遺恨を忘れて
それから五日間、アーサリンはジャクリーンたち三人とも特訓に励んだ。その甲斐あって彼女の操縦技術はずいぶん上達したが、まだウィルマをはじめとするエースたちに一撃を加えるには至っていない。
軽量のトライプであれば胸の小さい彼女でも一応それなりの速度で動けるが、歴戦のエースパイロットたちとはそもそも戦闘というものに対する経験値が違いすぎる。それに基本的な動きは身に付いたものの、敵に攻撃を当てるために最も有効とされる死角への回り込みがどうしてもできないのだ。
「うーん……どうして当てられないんだろう。ちゃんとコリショー大尉に教わったとおりにやってるはずなのに」
午前中の特訓を終えたアーサリンが、昼食のレーションを口に運びながら呟く。
アーサリンはシャルロットを除く全員にAM操縦のコツを聞いてみたが、誰一人として満足のいく答えをくれる者はいなかった。天才肌のウィルマはもちろん、エダやアルバータのような直感型のパイロットは、そもそも自分の技術を他人に教えるのが下手なのだ。
効率よく戦うには“どう動けばいいか”を指導してくれるラモーナでさえ、具体的に“どうすればそう動けるのか”ということに関しては、「こう……“ギュイン!”という感じだ」といった具合に、抽象的極まりない教え方しかできない。
部隊の中で最も理論派のジョルジアナに聞いても、「AMの出力は胸の大きさによって個人差があるので、どれだけペダルを踏み込めばどう動く……といったことについて具体的なことは言えません。機体によって個体差もあるので、こればかりは自分の感覚で掴むしかないのです」という答えだった。
「アーティさんはすごい早さで上達してると思いますよ? でもビショップ中尉に一発当てろだなんて、そもそもハードル高すぎますよね」
隣にいたジャクリーンが優しい言葉で励ましてくれる。だが絶対にやらなくてはいけないことを“できなくて当然だ”とフォローされたところで、なんら根本的な解決にならないのは数日前にもクリスティーナに指摘されたばかりだ。
「そうですけど……それでもやらないと、できないといけないんです。ミーナちゃんを止めるためにも」
アーサリンがジャクリーンに決意を語っていると、食事を終えたシャルロットが目の前を横切ろうとするのが見えた。
「あ、ナンジェッセ中尉!」
呼び止められたシャルロットはぴたりと足を止め、顔を向けずに目だけでアーサリンを睨みつける。
「……なんですの?」
「あ、あの……中尉も、私にご指導をお願いできないでしょうか。私、今ちょっと行き詰まってて……」
ジョルジーヌのことがあってから二人の関係は険悪なままであったが、アーサリンはあえてシャルロットに歩み寄ろうとした。停滞した今の状況を打開するには、少しでも違った視点からの意見を取り入れる必要があると考えたからだ。だが、それに対してシャルロットの返答は冷たいものだった。
「なぜ私がそのようなことを?」
「ぅ……」
「私はそもそも、あなたがパイロットになることなど認めていませんのよ。ギヌメール大尉をあんな目に遭わせておいて、どうしてあなたのような素人が……」
「シャルロットちゃん、そこまでにしてあげて?」
二人が声の主のほうを振り返ると、隊長のルネだった。
「しょ、少佐……」
「言ったでしょう。ジョルジーヌさんの負傷にアーティちゃんの責任はないって。憎むべきは敵であるリヒトホーフェンのはずよ」
「…………」
「シャルロットちゃん、私からもお願いするわ。アーティちゃんにAMの操縦を指導してあげて」
「少佐……!」
ルネとてアーサリンがパイロットになることには反対の立場である。それでもここ数日の特訓の様子を見て、彼女はアーサリンの決意が並々ならぬものであることを感じ取っていた。約十日後の試験に合格できるかどうかは別にしても、今は最後まで全力を尽くさせてやるべきだと思うようになっていたのだ。
「お願い」
ルネはいつものように優しく微笑みながら、だが強い口調でシャルロットに懇願する。
「…………分かりましたわ。ですが、方法は私にお任せ願います」
「ええ、頼むわね」
「あ、ありがとうございます中尉!」
「ブラウン准尉、すぐに格納庫に来なさい。軍服を着たままで構いません」
「は、はい」
そうして、シャルロットはアーサリンを連れて格納庫へと向かった。




