第5話『この可愛さに震えるがいい!(ヒカル視点)』
(ヒカル視点)
世はまさに戦国時代。
なんて言ったら本当の戦国時代の人に怒られてしまいそうだが、配信の仕事というのは戦国時代と形容しても問題ない程に荒れ狂っていた。
特に、この修羅の様な配信世界で戦乱を巻き起こしているのは……。
「ヒメノちゃんねる。登録者数31万6748人か」
僕のチャンネルよりも、登録者はずっと少ないし、気にする様な存在では無いんだけど。
それでも、このチャンネルが出来てから増えてきた登録者の数を考えれば無視できる存在ではないのは確かだ。
「本物の女の子、ね。うまくやったもんだよ。ホント。バカな連中を騙してさ」
僕はヒメノちゃんねるに残されている過去の配信を見ながら、彼女が素顔を晒したという例の配信を見やる。
該当の所だけやたらと切り抜かれて、拡散されて……ヒメノちゃんねるは登録者を増やしてきた。
ズルい。
卑怯な手段だ。
確かに女の子が配信をやっているなんて聞いたら、みんな驚くだろうし、注目もするだろう。
だからこそ、配信には女の子のフリをした連中がいっぱい居るし、その中で差別化しようとしている所だらけだ。
だから、最初は女の子という売り文句だけでやっていた配信チャンネルが、それだけでは数が増やせなくなって、色々と試行する。
それは、分かる。
だが、女の子という部分をより大きく宣伝するとは思えなかった。
そんな嘘をついたところで、いつかはバレる。
バレる前に、チャンネルを大きくすれば良いとでも考えているのだろうか。
「フン。考えは悪くないけどね。女の子なんて誰も見た事無いんだから。結局はどこかで煮詰まるだけ。男の姿で外出している所を晒されて、炎上する。僕とは覚悟が違うんだ」
僕は引き出しから手鏡を取り出して、ニコッと笑う。
資料で見た女の子の様に。可愛らしく。美しく。鮮やかに。
理想とする女の子の姿を映し出す様に微笑みを浮かべた。
完璧。
今日も完璧だ。
「ふふん。ケド! 偽物なんかには負けないよ! この僕! スーパーミラクルハイパー美少女アイドル! ヒカリちゃんはね!」
「何騒いでるんだ。光」
「わ、わわわ! 勝手に入ってこないでよ! バカ! 卓のばかぁ!」
僕はパソコンの前で『ヒカリちゃん』らしい顔を作っていたのだが、勝手に扉を開けて入って来た卓に机の上にあったペンを投げつけた。
卓はそれを右手で受け止めて、器用にも手の中でクルクルと回す。
うぅ……器用な奴め……。
「いきなりバカは無いだろ。バカは」
「うるさい、うるさい!」
「配信で遊ぶのも良いけどな。夜中にあんまり騒ぐなよ」
「遊んでないよ! これが僕の仕事なの! 男の娘アイドル! 新時代のトレンド! 女の子より可愛い女の子! それが僕!」
「ふーん」
「もっと僕に興味持ってよ! 僕の配信見てないの!? 凄いよ!? 僕の配信!」
「興味ねぇ」
「ねぇー! 僕と一緒に住んでるんでしょ!? なんで僕に興味持てないの! もっと僕に興味持ってよ!」
僕はジタバタと暴れながら卓に僕の仕事の素晴らしさを訴えるが、卓の反応は薄い。
薄いというか存在しないんじゃないかと思う程に淡白で、ペラペラであった。
くそう!
「興味つってもな。何に興味を持てばいいんだ?」
「そりゃ僕が造り出した男の娘アイドル! ヒカリちゃんの可愛らしさでしょ! 登録者数はトップクラスなんだからね!? 見てよ! ほら! 可愛いでしょ!? 凄いでしょ!? 本物の僕に寄せつつも、可愛らしさを追求した完璧な姿! 女の子より可愛い女の子! 伝説の存在より、この場に居る最高の美少女! 僕の分身!」
僕はパソコン画面に映るアイドルヒカリちゃんの姿をアホの卓に見せつける。
この可愛さに震えるがいい!
恐れるが良い!
「ふぅーん」
「興味ゼロ! ねぇ! 卓! 目がおかしいんじゃないの!? こんなに可愛く出来てるじゃない! ちゃんと見てる!? 最高に可愛いでしょ!?」
「いや、まぁ。この子が可愛いってのは分かるけどな。別に、お前と大して変わらないし。同じだろ」
「な! なぁ!? そ、それって、ぼ、ぼぼぼ、僕もアイドルヒカリと一緒で、か、かわっ、可愛いって、そう! 言いたいの!? 言ってるつもり!?」
「つもりも何も、そう言ってるんだが……いや、しかし……」
「へ、へへ、はは! そ、そう! ヒカリちゃんの方が可愛い……」
「お前の方が可愛いかもしれんな。よく分からんところではあるが」
「――」
僕は頭が爆発した様な衝撃を受けて、フラッと倒れそうになる。
が、何とか気合で持ちこたえた。
配信者の気合という奴だ。
「夜中にドタバタやかましいな」
「ぼ、ぼぼぼ、僕なんか! 教室の端っこの隅っこの方でウジウジしてた陰キャで!」
「まぁ、確かに」
「卓が居なきゃ、きっと世界のどこかで野垂れ死んでたくらいの雑魚で」
「んー」
「だから、卓が僕を見つけてくれなかったら、きっと誰も僕には気づかなくて……! だから、だからぁ!」
「なんだ。お前。自分の可愛さを見せつける為に配信やってんのか? そんな事しなくても、お前は可愛いと思うけどな」
「は……!?」
「ま。どういう目的持って配信やるかは自由だけどな。夜は静かにしろ。良いな? 俺は明日も仕事なんだ。頼むぞ」
「は、はぃ?」
「じゃあな。お前もさっさと寝ろよ」
「は、はぁ……?」
卓はポンポンと僕の頭を上を軽く叩いてから部屋から出て行った。
僕は熱が出た時の様に顔を真っ赤にしながら、卓が出て行った扉の方を向いて、叫ぼうとして……。
「~~!! にゃぁ……くそぅ」
何も言えず、ヘナヘナと椅子の上に倒れ込んだ。
くそう。くそう……。
卓の奴は昔から、そうだ。
自分勝手で、勝手にドンドン進んで行って、自分だけで結論決めて。
「……ホント、だいっきらい、だ」
僕は椅子の上で小さく丸まって、目を閉じる。
そして、しばしの間自分の中で荒ぶる感情をそうやって抱きしめていたのだが。
僕のスマホがメッセージの着信を告げて、僕は少しだけ嬉しくなった気持ちで卓からのメッセージを見た。
見た。
見てしまった。
「……はぁ?」
『寝れないのなら、最近流行の『ヒメノちゃんねる』って奴が良いらしいぞ。俺もたまに寝ながら聞くんだ。お前も聞きながら寝てみな』
「はぁ?」
僕はダンっ、とスマホを机の上に投げて、舌打ちをする。
ムカつく。
ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく!!!
「ヒメノちゃんねる……! アイドルヒメノ!! 僕はお前をぜぇーったいに許さないからな!!! お前なんか僕が叩き潰してやる!!」
僕は画面の向こうに居るであろう最低最悪世界で最も憎い敵に向かって叫んだ。
本物の女の子だとか、どうとか! もうどうでも良い!
お前が破滅するかもしれないなんてどうでも良い!!
全部どうでも良い!!
僕だ!
僕がお前を潰してやる!!
僕の方が可愛いって! 僕に夢中だって! 言わせてやる!! 思わせてやる!!
「アイドルヒメノぉ……! 僕はお前の敵だ! お前は僕の敵だ!! 絶対に許さないからな!!」
画面の向こうでへらへら笑う奴を指差して、敵意を向けて、敵対宣言をする。
そうと決まればアイドルヒメノを潰す為に、出来る限りの事をするべきだ。
ま。画面で顔を晒した以上どこかの学校にデータが残ってるだろうし、配信時間から、大体の地域時間を調べて、まずはコイツの素性を探る!
どーせ! どっかの学校の隅っこでウジウジしてた陰キャだろうけど!
どれだけ隠れたって、僕が必ず見つけ出してやるからな!
そして!
コイツの正体を探り当てた後! それを盾にコイツを脅し! 正面から正々堂々、僕の方が可愛いって認めさせて叩き潰す!
そうしたら、きっと……僕の方が可愛いって、分かるだろうし。
きっと僕の配信も全部チェックする様になるし。
僕にメロメロになるだろうし。
「ふ、ふふふ。ふはははは! 完璧! 完璧だ!!」
僕は明るい未来に向けて全力で走り出すのだった。




