第3話『姫乃ちゃん! 何したか分かってる!?』
夢のアイドル生活。
百万人のファンにキャーキャー言われ、ステージの上で格好良くポーズを決める私!
……という夢があったんだけどなぁ。
「……十五人」
私は私の配信チャンネルに登録している人の数を見て、うーんと腕を組む。
世界的に見れば女の子はすっごい希少な存在で、私も珍しい存在で。
だから、配信をすればすぐにファンがいっぱい集まって、キャーキャー! って感じになると思っていたのに。
「うーん」
私は机の前で首を傾げながら悩む、考える。
どうして私の配信には人が増えないのか。
いや、そもそもの話として、どうして配信サイトには女性がこんなにいっぱい居るのか。
「ねー。お兄ちゃん! お兄ちゃん! なんでー!? 女の人って珍しいんじゃないの!?」
「そう聞いているし、俺達も姫乃に出会うまでは女の人に会った事はなかったんだよ。だから、珍しいっていうのは確かだと思うんだ」
「けど、いっぱい居るじゃん! いっぱい居るじゃん!?」
「そうだねぇ。なんでだろうねぇ」
お兄ちゃんは頼りにならない!
優しい顔で笑ってるけど、お兄ちゃんは私の何で? に応えられなくて。
代わりに、悠人くんが答えてくれた。
「多分だけど、配信サイトに居る女性はみんな男だと思うよ」
「どういうこと?」
「配信をやってるとさ。姫乃ちゃんみたいに、チャンネル登録する人が増えないっていう問題に当たるんだ」
「うん」
「そうなると、他の人とは違う事をしてみようって、女の人のフリをしてみるんじゃないかな」
「珍しいから?」
「そう。珍しいから」
私は悠人くんが言っていた話に頬を膨らませながら不満を口にする。
不満だ! 不満!
「そんなのおかしいじゃん! 私! 本物の女の子なんだよ!?」
「うん。そうだね」
「でも、なんで、こんななの!?」
「姫乃ちゃんが本物っていう確証が無いから、より配信が面白い方に行くんだよ。きっと」
「ぶー! ぶー!!」
私は椅子をガタガタ揺らしながら文句を言うが、お兄ちゃんや悠人くんがどうにか出来る事はなく。
私の不満は流されて、何か考えてみると悠人くんが自分の部屋に向かい、お兄ちゃんはご飯を作る為に台所へと向かった。
ぶー!
ぶー!!
こんなの理不尽だよ!
女の子は私だけなのに!
このまま地道にやっていくしかないの?
けど、三ヵ月やって十五人じゃあ。一年で六十人。
十年で六百人!
やだやだー!
百万人のファンに囲まれてキャーキャー言われたいのに!
こんなのヤダー!
どうにかして、私が女の子なんだよってみんなに伝えないと!
私はそう心に決めて一時間後に配信をすると予告してから、配信をする。
「おはよう!」
『おはよう』
『なんか怒ってる?』
『学校のテストでも悪かった?』
「私、学校とか行ってないから」
『引きこもりか』
『そういう個体居るよね。社会性が薄いっていうか』
『まー世界システムも完璧じゃないって事だわな』
「そうじゃなくて、私、女の子だから学校に行かなくても良いの! お兄ちゃんが言ってた!」
『ハイハイ』
『そういう設定だったな』
『配信サイトに女の子はいっぱい居るからね』
『学校に行かない設定は結構珍しいんじゃね? 俺、見た事ないけど』
『そう考えると強いこだわりを感じるな』
「~~! そうじゃなくて! ホントに! 設定とかじゃないの!」
『どうしたどうした』
『今日凄い女の子アピールするやん』
『大丈夫、大丈夫。ここに居る間は女の子だよ。画面の向こう側は知らんけど』
『それ』
『口では何とでも言えるんだよなぁ』
『せやせや』
『いやいや、ヒメノちゃんの女の子ロールも中々だと思うよ? ボイスチェンジャーまで使って、学校まで行かない徹底っぷり。俺は嫌いじゃないな』
『夢は夢の間が楽しいからな』
『分かる』
『仕事ない時の癒しよなー』
イライライラ
ムカムカムカ
『ま。ホントだって言うんなら証拠見せて見ろって話だよ。無理だろうけどさ』
ブチッ
私はパソコンを操作して、悠人くんが作ってくれたネットワーク空間の私から、パソコンのカメラに切り替えて、現実世界の私を映し出す。
みんなが作ってくれた私専用の部屋で、パソコンの前に置かれた椅子に座って、配信をする私の姿を。
世界に一万人しかいない! 女の子の! 本当の私の姿を!
『突然カメラ切り替え、は?』
『は?』
『いや、ちょ、ま……』
『本物の、女の子!?!?!』
「どーだ! 分かったか! 私は女だよ! ネットだけの偽物じゃないんだから!」
『まじか』
『ホントに!?』
『このチャンネル登録してて良かったー!』
『ヒメノさん! 俺、最初から信じてましたよ!』
『いや、俺だって信じてたっての!』
『これが女の子かぁ』
色々なコメントが流れていく中、私はフフンと胸を張っていつもより、ずっと早く流れていくコメントに酔いしれる。
百万人のファンにはまだ届かないけど。
みんながビックリして、私を見てくれているのが楽しかった。嬉しかった。
これ、これだよ!
「っ! 姫乃ちゃん!!」
「へ?」
私は椅子の上で胸を張って、みんなに真実を教えていたのだが。
部屋を出て行った悠人くんが凄い焦った顔で部屋の中に飛び込んできて、急いで配信を切る。
あー! 配信中なのにー!
「姫乃ちゃん! 何したか分かってる!?」
「ひぅっ」
けれど、私が文句を言うよりも早く悠人くんが大きな声を上げて来た。
すごく焦っていて、泣きそうな顔をしていて……いつも優しい悠人くんが怒ってる姿が怖くて、私はジワリと涙が浮かんでしまう。
「あ、姫乃ちゃん! 違う。違うんだよ。怒ってる訳じゃなくて、いや、怒ってるんだけど……そうじゃなくて」
「うあぁああああ、ごべんだざいー! あー!」
「ごめん。姫乃ちゃん。急に大きな声出して、怖かったよね。ごめん」
悠人くんに抱きしめられながら、私は泣いた。
悠人くんが怖かった事もあったけど、多分、それ以上に悠人くんが、いつもは誰よりも優しい悠人くんが怒っているという状況に、何かとんでもない事をしてしまったのだと分かって、泣いた。
それからは、お兄ちゃんや蓮くんが駆け込んできて、裕二くんも駆け込んできて。
みんなで騒いで大騒ぎになった。
けれど、みんながわーわー騒いでいる間に、私も少しずつ落ち着いてきて、悠人くんの話を冷静に聞けるようになった。
「僕の責任だ。姫乃ちゃんが素顔を晒すリスクを考えなかった」
「はるとくんは、わるくないよ。わたしが……かってにやっちゃった。だけだから」
「フム」
「そうですか」
お兄ちゃんと裕二くんは神妙な顔をしていて。
悠人くんはショボンとしている。
それが悲しくて、私は何かみんなに言おうとしたのだけれど、私よりも早く蓮くんが口を開いた。
「別に姫乃の顔が分かって困る事はねぇだろ。元々姫乃まんまの姿で配信してたんだからよ」
「蓮。アバターと姫乃自身は違うだろう」
「そうか? 俺には同じに見えるけどな。けど、まぁその違いはどうでも良いわ。それよか、これの何が問題なんだ?」
「問題って……」
蓮くんの言葉にお兄ちゃん達が口を噤んで静かになる。
が、それに追い打ちをかけるように蓮くんが口を開いた、
「配信見て、バカが姫乃に近づいて来る可能性があるか? だが、俺が居る限り、バカは姫乃には近づけねぇ。事件になっても、裕二が法律でどうこう出来んだろ」
「まぁ、確かにね」
「俺が居ない時でも、修がいつもベタベタ姫乃と一緒に居るし。パソコンの話なら、悠人がどうにか出来る。何か問題でもあるか?」
「……物言いは気に入らないが、言いたいことは分かる」
「僕が出来る事は何でもやるよ」
「なら、問題ねぇだろ。だからな。姫乃。そんなに泣くな。失敗は誰にだってある。だが、失敗したって仲間が居りゃ、何とかなるモンだ」
蓮くんがガシガシと私の頭を撫でてニカッと笑う。
その顔に私は笑い返す事は出来なかったけど、流れ落ちる涙を拭って、心配そうな顔をしているみんなに私は笑いかけた。
「ごめんなさい。みんなを困らせちゃった」
「何も困ってないよ。姫乃」
「うん。ありがとう。お兄ちゃん」
「姫乃ちゃん。アイドルが嫌になったら……」
「ううん!」
私は悠人くんの言葉に首を大きく振って笑う。
今は、笑う時だから、笑う。
「私、変わらないよ。私の夢はキラキラなステージの上で踊るアイドル! だから、頑張る! 怖い事や危ない事はもうやらない。ゆっくりだけど、頑張る! 私、頑張るよ!」
「……うん。ありがとう。姫乃ちゃん」
私は立ち上がり、拳を天高く突き上げた。
桜井姫乃のアイドル道はここから始まるのだ。




