えくすとら ミツキ Days1
ミツキのお話です。長いので前後編に成ります
事の起こりは梅沢さんからの電話だった。
夏休み、クーラーの効いた自室でゴロゴロしていた俺に、突然連絡が来た。
『すみません、律斗さん。お願いが有りまして⋯』
「えーと、どんな事ですか?」
嫌な予感がした。
が、梅沢さんには色々借りがある。
よほどのことでなければ、断りにくい。
「AIとの交感テストをお願いできませんが?」
「テスト?」
「詳細はこちらで⋯もちろん、ちゃんと報酬も出ますので」
「はぁ」
ますます、嫌な予感がした。
報酬が出ると言うことは、それだけリスクが有ると言う事なんだろう。
「それって、俺じゃないと駄目⋯」
「ミツキの希望で、ですね⋯」
梅沢さんは少し言いにくそうだった。
「行きます」
最後まで聞かずに答えた。
第二の妹の頼みなら、聞かない訳にもいかない。
俺は覚悟を決めて、真夏の街に出た。
真夏の市街はともかく、暑い。
灼熱の日差しが容赦なく地面と俺を焦がしている。
時刻は午後2時。
目前のアスファルトからさえ、陽炎が立ち昇っているのが見える。
幾度も倒れるんじゃないかと思いながら、ある施設にたどり着いた。
「こ、ここか⋯」
目前に広がる芝生。
都内にありながらまるで自然公園の様な豊かな緑。
入り口には、最先端AI研究所のプレート。
と言ってもゲートは開いていて、自由に出入りできる。
俺は案内された通り、正面の小路に進んだ。
研究所に着くと、小さめの会議室の様な部屋に案内され、アンケートを頼まれた。
簡単な内容だと言われたが⋯。
問、夏休みに行くならどちらが良いですか? 海・山・街
うーん、海は行ったばかりだから、山かな?
問、好きな食事は? 和食・洋食・中華
洋食っと
問、彼女の服装はどちらが好み? ワンピース・セパレート・水着
なんだこりゃ。水着は服装に含まれるのか?? とりあえず無難にセパレート?
なんだろう。
確かに簡単なアンケートだけど、意味不明すぎる⋯。
と言っても部屋には他に誰も居ないので尋ねる事もできない。
仕方ない。続けるしかないか⋯。
問、結婚したら子供は何人欲しいですか?
一人・二人・それ以上
ふ、二人、かな??
問、奥さんは何人欲しいですか? 一人・二人・それ以上
え? なにこれ、倫理感を試されてる?
当然一人⋯いや、“欲しい”だけで実際に結婚するとは書いてないな。
もしかして引っ掛け問題? 一人と答えると口先だけの理想論者と判定される的な⋯うーん、あくまで“欲しい”だけなら⋯二人⋯いや、それ以上かな。
問、結婚したとして、奥さまのナイトウェアはどれが好み? パジャマ・ネグリジェ・無し
ゲホッ!
なんだこれ? やけに個人的嗜好を突いてくるじゃん。大体、“無し”は服装では無いのでは?
うーん、コレって何の意味があるんだろ⋯⋯。
そんな感じでよく分からないアンケートを大量に回答したあと、梅沢さん達と合流した。
今度は一転、実験室の様な部屋に案内される。
「あのー、さっきのアンケートは一体⋯?」
隣の梅沢さんに尋ねる。
「あれはミツキの要望でして。理由は見て頂けば分かると思いますよ」
「それは今回のテストと関係有るんですか?」
「はい、もちろん。こちらのヘッドギアが今回の実験機です」
蒼井、と名乗った技術者らしい男性がヘルメットみたいな大がかりなヘッドギアを指さした。
幾つものケーブルがテープ止められていたりして試作品っぽい。
「VRゴーグル? それにしては大がかりですね」
「はい、仮想感覚共有デバイス、VSDです」
「感覚共有⋯?」
「簡単に言ってしまうと、VRの世界に入れます。体ごと」
「体ごと? ゴーグルとは違うのですよね?」
「そうです。ゴーグルの様に目で見るのではなく、直接、脳の視覚野にイメージを送ります。触覚や聴覚も同様です」
「脳に直接?! それって危険では⋯」
「仕組み的には磁気共鳴を使って磁気で脳の神経を刺激するだけなので⋯MRIと同程度だと考えて貰えれば」
「ああ、なるほど」
MRIは俺も入院中に何度か検査で使われた。
あれを超精密に調整する事で擬似感覚を発性させる、らしい。
「えと、危険性は?」
「既に研究所の被験者が複数人でテストして安全性は確認されています。ただ⋯」
「ただ?」
「VAがですね⋯」
蒼井さんは言葉を濁した。
その言葉を梅沢さんが引き取る。
「ミツキが、デートするなら律斗さんでなけれは嫌だと⋯」
「デ、デート?」
思わず問い返した。
「はい。今回のテストではVAと一緒に仮想空間で行動して、学習反応を見るのが目的でして。そのために様々な日常的な行動をして頂く事に成ります」
「なるほど、デートと言っても格別な事をする訳ではないんですね」
「そうです。ただ椅子に座って会話しているだけではテストに成らないので、色々なシチュエーションを試して頂きたいです」
「わ、分かりました」
俺はとりあえずテストを受けてみることにした。
樹木で囲まれた小路を歩く。
煌めく陽光、揺れる梢。
どう考えても現実にしか見えない。
それだけでなく、木の香りも感じる。
だが、実際には俺は研究所のベッドに寝ているのだ。
「凄いな、これ」
見とれながら歩いた。
「あ、お兄ちゃんーー!」
その俺に路の前方から一人の少女が声をかけた。
「お、久しぶり!」
金髪をポニーテールに纏め、赤青のオッドアイ。
少し踵のあるサンダルを履いて俺と同じ位の背丈。
白のショートデニムに、ミニTシャツ。
それはいかにも夏、と言った装い。
彼女は照りつける日差しも物ともせず、駆け足でこちらに来た。
「わーい、本物だーー!」
その勢いのまま、俺に飛びつく。
柔らかな重さが押し付けられた。
「お、おう。一応、な」
「えへへ、好き好き〜」
俺の胸に頬ずりをする。
そのまま、俺の手を取り、目前の建物へと導く。
俺達は自動ドアをくぐってエントランスに入った。
冷房の効いた室内は涼しい。
彼女は俺に向いて、
「暑かったでしょう? お風呂にする? ご飯にする? それとも⋯わ・た・し?」
と、俺の顔を見つめながら言った。
その時。
『こ、コラッ! 私そっくりな姿で、あ兄ぃを誘惑するなーーー。私だって、まだそこまではしてないのにっ!』
突然、どこからともなく辺りに美月の声が響いた。
「わ、びっくりした。大きな声出さないでよ美月」
『こっちだって出したくて出してるんじゃない! あ兄ぃ、“それ”は私が先だかんね!』
「いや、お前たち、これ研究所でモニターされてるんだぞ⋯」
「全然ヘーキ」
そう言って再び彼女は俺に抱きついた。
『ちょっ、私も行くから待ってなさい!』
美月の声はそこで途切れた。
⋯ホントにこれ、AIのテストになっているのか?
ミツキに抱きつかれながら悩む俺だった。
作者のやる気は イイね や 感想 で出来てます(笑)
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