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15 見た目詐欺没落令息は、淡雪が降る街を歩きます。


「なるほど、これが住む者を没落させるという呪いの館か」

「ロン……」


 案内されてブライアンの部屋に入った途端に、ロンが放った台詞がこれだ。苦笑いを浮かべながらブライアンは、いたずらっ子の顔で笑っている親友を迎えた。

 ファラー伯爵家の屋敷は一度売りに出され、買ったのは領地に金鉱が見つかって舞い上がったとある男爵だった。身の丈に合わない規模のタウンハウスを買い、傷んでいたところを直し、内装を整えているうちに見つかった金鉱の埋蔵量が雀の涙ほどしかないことが調査の結果わかり、一日も住むことなく手放した。

 そんなことがあって、この屋敷は住む者を没落させるという噂が流れてしまい、格安で買い取った不動産屋はどうしたって売れない不良物件を抱え込むこととなったのだ。

 運がいいのか悪いのかわからない経緯でブライアンの一家は、元の屋敷に戻って来ることができた。男爵が痛んでいたところをきれいに直してくれていたおかげで、時を置かずに引っ越せたのだ。


「ブライアン様、お茶をお持ちいたしました」

「ありがとう、ファルマ」


 戻って来て欲しいというブライアンの呼びかけに、最初に応えてくれたのは執事のクラークとメイドのファルマの親子だった。ファラー家を辞したあとで二人が勤めていたのはとても裕福な伯爵家で、執事も複数いればメイドもたくさんいたそうで、急に二人が辞めても困ることがなかったそうなのだ。

 次に戻って来てくれたのは、トム爺だった。数日をかけて教会の屋根の雨漏りを全て修理してから、小さな鞄を一つだけ持って自分の足で元気に歩いて帰って来た。

 実家の稼業を継いでしまっていたり、結婚して家庭に入ってしまっていたりして、全部の使用人たちが戻って来てくれたわけではないけれど、それでもかなりの人数が戻って来てくれた。

 鍵をかけていた部屋は全て開錠され、窓を開け放して陽気な働き者たちが総出で行った大掃除が終わったのは、昨日のことだ。もちろんブライアンも手伝った、貧乏暮らしで掃除は特技と言っていい技量にまで達しているのだ。


「それで、ご両親はお元気なのかい?」

「ああ、母はもうすっかり元気になった。父もね、かなりいい感じなんだ。実は、エドモンズ博士の診察を受けることができてね」

「それは、すごいな!」


 最高の医者を手配すると言ったマルクがボードレール公爵家の名前を使って頼み込んで来てもらったのは、王宮侍医であり、高名な薬物学者でもあるアラン・エドモンズ博士だった。若い助手を伴って往診に来てくれた博士は、この病にはゆったりと過ごすのが一番の薬ですよと穏やかな笑みを浮かべて言っていた。

 博士は、一日に二度、朝と夜に飲ませるようにと薬の包みを置いて行った。その薬を飲み始めてから、父の顔色が徐々によくなってきた。生まれ育った屋敷に戻れて、古くからの友人のような使用人たちに囲まれているのもいいのだろう、ガリガリに痩せていた体にも少しだけ丸みが戻って来たような気がする。


「うまいな、このお茶」

「そうだろう、ファルマはお茶淹れ名人なんだ。どんな安い茶葉でも、ファルマの手に掛かれば魔法のようにおいしくなる」

「編み物名人だって言ってなかったか?」

「お茶淹れ名人で、編み物名人なんだよ。このセーターだって、ファルマが編んだものだよ」

「なるほど、異論はない」

「だろう?」


 離れていた間にファルマがブライアンのために編んでくれていた深緑色のセーターは、以前にもらったものよりもさらに複雑な模様が入っており、確かに名人の仕事であったのだ。

 ロンと喋りながらおいしいお茶を飲み、クッキーをつまむ。クラークとファルマ、トム爺の次に戻って来てくれた料理人のダレルが焼いたクッキーは、ブライアンが好きなナッツ入りのものだった。


「ブライアン、セザールのことは聞いたか?」

「ガードナー子爵が投獄されたという話なら聞いたよ」

「セザールもだよ。クライネフ薬を高値で売っていたのは店の従業員たちが勝手にやっていたことだと言い逃れしたのに、性懲りもなく薬をもっと高く売っていたんだ。それも親子でだ、ブライアンも金貨十五枚で買ったもんな。しかも、クライネフ薬なんて銘打って高値で売っていた薬はなんと、アベラール王国の薬を薄めた物だったそうだ」

「薄めたって……」

「水を加えて、数を増やしていたらしい」


 なるほど、道理であまり効かなかったはずだ。フェリシアからもらった薬を飲んだ父がみるみる回復したことからもわかるように、かなり薄めていたのだろう。


「セザールは、どうなるんだろう」

「保釈金を払えば釈放されるだろうけど、高位貴族ならまだしも、子爵程度なら爵位の剥奪は免れないだろうな」

「婚約は……」

「解消だろう、前科持ちの平民に嫁ぐ子爵令嬢はいない。まったく、馬鹿なことをしたもんだよ」


 ブライアンにとってセザールは、いつも怒っている嫌なやつだった。だけどセザールがネリー嬢に向けていた想いは本物だったと思うし、婚約が解消されてざまあみろとは思えないのだ。


「ロン、これ」


 小さな革袋をブライアンは、テーブルの上に置いた。中に入っているのは、金貨が九枚だ。見なくても中身がわかったのだろう、ロンが不機嫌そうに片眉をあげた。


「出世して返せって言っただろう」

「次にいつ会えるか、わからないから」

「ブライアンは、公子様になるんだもんな。確かに大出世だ、俺なんかもう口もきいてもらえないかな」

「そんなわけないだろう」

「どうだか」

「怒るぞ、ロン」

「怒ってるのは、俺の方だって。一言の相談もなく決めやがって、俺たちは友達じゃなかったのかよ」


 腕を組んで、そっぽを向いて、怒っているふりをしてもロンの目が潤んでいる。


「こうするしかないって、ロンだってわかっているんだろう?」

「知らないね」


 ブライアンだってロンに会えなくなるのは嫌だ、嫌だけれども。


「ロンは、僕の一番の友達だ。これまでもこれからも、僕の親友はロンだけだよ」

「馬鹿、恥ずかししこと言うなよ」

「でも、本心だから」


 ロンは、こちらを見てくれない。そっぽをむいたままだ。


「あの娘は、どうするんだよ。いつも図書館で会ってたの、恋人なんだろ」

「違うよ、つき合っていない」


 お互いの気持ちは知っているのに、ブライアンはまだフェリシアに何も告げていない。でも、それでよかったのだと、今は思っている。


「何だよ、それ……お前、あの娘のこと好きだろ」

「うん、好きだよ」

「じゃあ、どうして」

「好きでもさ、どうしようもないことってあるじゃない。僕たちはこれでも、貴族の端くれなんだから」

「貴族とか、そんなの関係ないだろ」

「関係は、あるんだよ。家のこと、親のこと、使用人たちのこと。僕にしか守れないのなら、僕が守るしかない」

「あの娘は、守ってやらないのか?」

「彼女には、他に守ってくれる人がたくさんいるから」

「わっかんねえ、あの娘もブライアンが守ってやれよ」

「僕にもっと力があったら、そうしてる」


 ブライアンに力があれば、何も失わずに済むのかもしれない。だけど実際に、ブライアンは無力だ。大銀貨三枚を稼ぐのが精一杯で、それでは全然足りないのだから。


「……行くなよ、ブライアン」

「ごめん、ロン。ありがとう」


 ロンが音を立てて立ち上がった。テーブルの上の革袋を鷲掴み、踵を返す。


「帰るの?」

「ああ……出発の日、見送りになんて行かないからな」

「うん、わかった」

「いつか」

「いつか?」

「働いて金を貯めていつか、俺の方からアベラール王国に会いに行く。今度会うのは、その時だ」

「……待ってる」


 本当は、離れたくなんかない。ロンと過ごす時間は、いつだって宝物のように輝いているのに。


「またな、ブライアン」

「うん。またね、ロン」


 振り向くことなく帰って行ったのは、涙を見られたくなかったからだろうか。ブライアンは天井に顔を向けて、溢れる涙を絞り出すようにぎゅっと目を閉じた。


 ブライアンは、アベラール王国に行くことに決めた。

 叔父であるブレナンのあとを継ぎ、ゆくゆくはボードレール公爵となるのだ。


 多分、ブライアンは最良のタイミングでアベラール王国行きを承諾したのだと思う。相談せずに決めたことを怒ったロンだって、こうするしかなかったのだと本当はわかっているのだ。

 だから、いつか自分から会いに来ると言ってくれた。遠いアベラール王国まで旅する費用を稼ぐのは、実家をあてにできないロンには厳しいことだろうに、だけどそう言ってくれたのだ。


 この屋敷を買い戻し、使用人たちを呼び戻してもなお、ボードレール家から支援された金はまだほんの一部しか使っていない。一体、ボードレール家にはどれだけの資産があるのか、ブライアンには想像もできない。しかも、他国であるにも関わらず最高の医者を手配するという言葉通りにエドモンズ博士を呼べるだけの権力も、ボードレール家にはあるのだ。

 これらは全て、ブライアンがアベラール王国行きを承諾したからこそ与えられたものだ。もしも断っていたらどうなっていたのか、想像するだけで怖ろしい。

 多分、どれだけ探しても母の仕事も新しい住処も見つからなかっただろう。ブライアンが学園を辞めて仕事を探したとしても、やはりどこも雇ってくれなかっただろうと思う。最後の手段だと思っていた男娼になるという手でさえ使えなかっただろうと、ボードレール家の力をひしひしと感じている今だからわかる。

 それに、ブライアンが行かないと言い続けたならばもしかしたら、ブライアンの大切な人たちの身に何かよくないことが起こったかもしれない。標的にされるのは、使用人の誰かだったかもしれないし、ロンだったかもしれないのだ。母は大丈夫だと思うけれど、父はわからない。それに、もしもフェリシアが狙われたらと思うと、ブライアンはとても平静ではいられない。


 承諾するしかなかった、最初からブライアンに選択肢はなかったのだ。


 もちろん、両親にはアベラール王国行きを大反対された。父に泣かれたし、母からは何時間もかけて思いとどまるよう説得された。

 それでも、ブライアンは決心を覆さなかった。


「とても嫌な家なのよ、ブライアンをそんなところにやるのは耐えられないわ」

「でも、筆頭公爵家なんでしょう? アベラール王国では、王家に次ぐ家だって聞いたよ」

「いくら高位の貴族でも、幸せになれるとは限らないのよ。貧しくても幸せな生活ができることを、ブライアンならよくわかっているはずよ」

「うん、それは知っている。でも母上、貧乏にも限度があるんだよ。さすがにもう限界だってことは、母上だってわかっているでしょう?」

「私が働くわよ」

「母上に無理をさせたくないから、僕は行くんだよ。僕が学園を辞めて働くことも考えたけれど、それよりも効率のいい方法を選んだだけなんだ」

「学園を辞めるなんて、絶対に駄目よ!」

「僕は、アベラール王国の王立学園に転入できるそうだよ。アベラール王国の王立学園は、世界中から優秀な者が留学してくるほどの学園なんだってね。それって、本当なの?」

「本当よ、アベラール王立学園は確かに勉強をしたい者にはいい学園だわ」

「僕、行ってみたいんだよ」

「ファーニヴァルの王立学園だって、いい学園でしょう?」

「そうかな、僕はちょっと物足りないって思ってた。母上、僕はもっと学びたい。色々なことを知りたいんだ」

「ブライアン……」


 お茶を飲み、ポテトサラダがたっぷりと挟まったサンドイッチを一口かじる。

 これは、病み上がりのお母様がお食事の用意をするのは大変でしょうと、フェリシアから届いたものだ。ゆっくりと味わっていると、あの図書館の中庭で過ごした時間が思い出される。


「そんなに心配しないで大丈夫だよ。母上をいじめていた人たちは、ほとんどが墓の下だ」


 三兄弟の内、上の二人は亡くなり、末っ子は寝たきりの状態だ。母の背中をムチで打ったという公爵夫人は、クライネフ風邪の流行が始まるよりずっと前に病でこの世を去っている。


「でも、元凶がまだ生きてるじゃない」

「元凶?」

「お父様よ」

「ああ……でも、かなりの高齢なんでしょう?」

「余命いくばくもないから大丈夫なんて思っちゃ駄目よ、ああいう人はしぶとく生き続けるんだから」

「しぶとく?」

「しぶといわよ、ローチなみの生命力なんだから」

「ローチなみの生命力って、長いのか短いのかわからないよ」

「寿命の長さじゃないわ、しぶといって意味よ」


 夏になるとよくキッチンの隅に出没する平たくて黒い虫の姿を思い出して、ブライアンは笑った。やつが出ると母は、まるで腕利きの冒険者のように敢然と立ち向かうのだ。母がきゃーなんて声をあげるところなんて、ブライアンには想像することもできない。


 母は、強い人だと思う。

 悲しいほどの強さだと、そう思う。


「僕はね、母上のかたきを討ちに行くんだよ」

「かたきを討つ?」

「ボードレール公爵家を乗っ取ってやる」

「ブライアン……」

「はい、母上」

「それって、最高じゃない!」

「そうでしょう」


 母は、ローストビーフのサンドイッチを取った。大きく齧りついて、もぐもぐと口を動かしている。


「母上は、ボードレール家の金でのうのうと暮らしていいんだよ。その権利が母上にはある」

「そうね、そうよね」

「辞めて行った使用人たちに手紙を書くよ」

「ブライアンに任せるわ」


 口いっぱいにサンドイッチを詰め込んだために、母の言葉はもごもごと不明瞭だ。


「でも、でもね……やっぱりどうしても、ブライアンと離れるのは寂しいのよ」

「僕がボードレール家を乗っ取ったら、遊びに来てよ。父上と三人で豪遊しよう」

「ショコラトリーで、ここからここまで全部ちょうだいって言っていい?」

「もちろん」

「足が痛くならない靴も欲しいわ」

「いい職人を探しておく」

「バターは、青い箱に入っているやつよ」

「それは、なんと贅沢な」


 安い物より倍ほども値段が違う高級バターで母は何を作るつもりなのか。貴族夫人は普通、キッチンになんて立たないものなのだけれど。


「……ブライアン」

「はい、母上」

「ごめんなさい」

「ありがとうって言ってもらった方がうれしいな」

「ありがとう、あなたは私の自慢の息子よ」


 そうしてブライアンの一家は、懐かしの屋敷に戻って来た。使用人たちも次々と戻って来てくれて、在りし日の賑やかさが蘇る。

 だけど、ブライアンがファラー邸で過ごせるのはごく短い間だけだった。呆れるほど優秀な執事であるマルクの手によって、ブライアンの出発準備が着々と整って行く。


 ブライアンは、貴族らしくフェリシアに手紙を書いた。

 この日、この時間に、一緒にはちみつワッフルを食べたあのベンチで待っていると。


 約束の時間よりずっと早く到着したはずなのに、大きなバスケットを膝にのせたフェリシアがブライアンを待っていた。ブライアンが来たことに気づいてうれしそうに笑う彼女は、今日も可愛かった。白いコートがまるで雪の妖精のようで。


「待たせてしまったかな」

「私が好きで待っているのです。ブライアン様を待つ時間は、最高に楽しいの」

「寒いでしょう?」

「ちっとも寒くないです」


 寒くないと言うけれど、彼女の鼻の頭と頬が赤くなっている。吐く息も白い。そろそろ春の兆しが見えてもおかしくない頃なのに、今日は特別に冷えるようだ。


「そのバスケットは?」

「ミートパイです。あとは、アップルパイとはちみつワッフルと、ナッツクッキーも入っています」

「そんなに?」

「つい、作り過ぎちゃって」

「フェリシアの手作りなら僕が一人で食べてしまいたいけど、さすがに無理かな」

「無理だと思いますよ、お屋敷の皆さんとお召し上がりください」


 渡されたバスケットを受け取ると、ずっしりと重い。その重さの分だけ彼女の想いが詰まっているようで、胸が痛む。


 手紙で詳しく説明したからフェリシアは、ブライアンの一家が元の屋敷を取り戻したことを知っている。

 その資金がどこから、どんな条件で提供されたのかも知っているのだ。


「この広場、少し活気が戻ってきたね」

「そうですね、人通りが増えたみたいです。屋台がまだ出ていないのは、残念ですけど」

「屋台もすぐに戻って来ると思うよ、オズバーン商会の功績だね」

「当商会は、薬を販売しただけですよ」

「銅貨一枚で?」

「銅貨一枚で」


 銅貨一枚でオズバーン商会が販売した薬は、おどろくほどよく効いた。予防効果もあるというのも本当だったようで、新しくクライネフ風邪に罹患する者はほとんどいない。

 あんなに猛威を振るったのが嘘のように、クライネフ風邪の流行は急速に鎮静されつつあるのだった。


 もう夜中に荷馬車の車輪の音が街に響くことはない。

 リックは元気にしているだろうか、髭もじゃの人足頭も元気だろうか。


「ブライアン様、当家に食事にいらっしゃいませんか。父と話をして欲しいのです」

「オズバーン氏が僕と話をしたいとおっしゃっているのかな?」

「いえ、そうではありませんが……」


 フェリシアをファラー伯爵家の正妻に迎えてもらえるなら援助をしようと、以前なら言ってもらえたかもしれない。

 だけど、事情が変わった。

 腕利きの商人であるフェリシアの父が、ボードレール公爵家に逆らうということがどういうことなのか理解していないわけがない。


「ごめん、時間を取れそうにないんだ」

「それは……」

「明日、出発する」


 ブライアンの隣でフェリシアが息を呑んだ。切ない沈黙は、永遠に続くかと思った。


「明日……」

「そう、明日だ」


 吐く息が白かった。

 随分と冷えるなと思ったら、見上げた空から白いものがゆっくりと地上を目指して降りて来た。


「雪だね」

「……雪、ですね」

「淡雪だ、これは積もらないな」


 大粒の雪は地面に着くとすぐに消える。それはまるで、儚く消える運命のブライアンの初恋のようで。


「このままだと風邪をひきそうだ、そろそろ帰った方がいいね」


 ブライアンが立ち上がるとフェリシアも立ち上がった。ブライアンに向かって伸ばされたフェリシアの手が、だけど途中で止まる。

 フェリシアをオズバーン邸まで送ろうかと思ったけれど、少し離れたところにエイダが控えているのが見えてやめることにした。別れの時が来たのだと、ブライアンは静かに悟った。


 ブライアンは、アベラール王国に行くことを自分で決めた。

 それがフェリシアを失う道だとわかっていて、そう決断したのだ。


「待っていていいですか」

「駄目だよ」

「待たせてください」

「駄目だ」


 いつか必ず迎えに来るとでも言えばフェリシアは笑ってくれるのかもしれないけれど、そんな無責任な約束を置いて行くことはできない。


「フェリシア、幸せになって」

「無理です」

「そこは、がんばって」

「ブライアン様がいないのに、幸せになんてなれない!」


 雪が激しくなる。

 積る気もないくせに、街を白く塗り替えようとする。


「フェリシア……」


 涙にぬれた頬に手を伸ばしそうになったけれど、拳をぐっと握って堪えた。お互いの手は、お互いに届かない。そんな定めの恋だったと、思うのは悲し過ぎるけど。


「さようなら」


 ブライアンは、足を動かした。

 フェリシアに背を向けて、歩き出す。


 うわぁーと、フェリシアが声をあげて泣き出した。お嬢様と、エイダが駆け寄って来る足音が聞こえる。

 今すぐ駆け戻って抱きしめたい、どうか泣かないでと慰めたいけど。


 重いバスケットを抱えて淡雪が降る中を歩きながらブライアンは、とうとう最後まで伝えることが出来なかった言葉を小さく呟いた。


 フェリシア、僕は君を愛しているよと。


これにて、第一章が完結です。

ここまでおつき合いいただいて、ありがとうございました。

第二章の開始まで、お時間をいただければと思います。

こんな悲しい引きなので、なるべく早く再開したいと思っているのですが、二章の展開をまだ考えてなかったり。

多分、なんとかなる。書き始めたらなんとかなるはず。(おいこらー)

ラストは決めています。

私の小説の書き方は、ラストを決めて、そこに辿り着くよう書いていくという感じでして。

これを言うのはネタバレだろうと思いながら毎回言ってしまいますが、ハッピーエンドはお約束です!


言い忘れていたのですが、こっそりと感想が書き込める設定にしております。

よろしければお気軽にご利用ください。

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― 新着の感想 ―
第一章完結、おめでとうございます.·´¯`(>▂<)´¯`·. 素敵な物語をありがとうございます。:゜(;´∩`;)゜:。 ミレーヌママの壮絶な過去に、胸が締めつけられていまして、何度も読み返しており…
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