6.王女様は諦めない
「どういう意味でしょうか? お父様」
「否と言ったのだ」
「なぜですか?」
「我が娘よ。理由がわからぬなど言うのか? 本当はわかっておるのだろう?」
「……」
レミリアは黙り込んでしまう。
王様の言う通りだ。
駄目だと言われた理由を、彼女は理解している。
僕にだってわかるんだから、彼女にわからないなんてありえない。
わかった上で、彼女は質問した。
そして、確かめるように尋ねる。
「フランが平民だから……と言いたいのですね」
「そうだ」
国王様はキッパリと言い切った。
それからさらに続けて言う。
「レミリアよ。お前は王である私の娘、つまり王女だ。王女であるお前と、平民が釣り合うはずがないだろう?」
「身分なんて関係ありません。私はただ、フランと一緒にいたい。好きな人と添い遂げたい。この気持ちは間違っていません」
「そういう問題ではない。立場というものがあるのだ。わからぬお前ではなかろう?」
「わかっています。その上で言っているのです」
国王様とレミリアは、殴り合うように言葉をぶつけ合う。
どちらも引くつもりはない。
己の我を通すため、交互に言葉を交わす。
「ふぅ……我儘を言う出ない。ミローラ、お前からも言ってやってくれ」
「あら? わたしは賛成ですよ」
「聞いたか? お前の母も……ん? 今なんと?」
「良いじゃないですか~ フラン君? とっても可愛くて真面目そうな子に見えますよ」
予想外の反応に、王様は困惑する。
奇しくもこのとき、僕と王様はまったく同じ表情をしていた。
隣でレミリアは、ニヤっと悪い顔をしている。
「お母様は賛成のようですよ?」
「ちょっ、ちょっと待て! ミローラ正気か? こいつはただの平民だぞ?」
「ええ。でも、好きなのでしょう?」
「はい」
レミリアがそう答えた。
ミローラさんはニッコリと微笑む。
ここまで僕は、ほとんどしゃべっていない。
勝手に話が進んでいく。
「待てと言っている! 二人ともわかっているのか? レミリアと婚約するということはつまり、この国の次なる王となるのだぞ!」
王という単語に、僕はビクリと反応する。
考えなかったわけではない。
ただ、考えないように目を背けていた。
そうだ。
もしも彼女と結婚するなら、僕がこの国の王になるんだ。
頭でそう浮かんだら、途端に怖くなってくる。
「フランよ。お前にその覚悟はあるのか?」
王様は見透かしたように問いかけてくる。
僕は答えられず、黙ったまま目を背けてしまった。
「ふん、まぁあったとして、ただの平民など認めんがな」
「……」
この時の僕は、王様の言葉に納得しかけていた。
僕なんかが王になんてなれるはずがない。
誰かに言われるまでもなく、僕自身がそう思っている。
だけど……
そう思っていない人が、ここに一人いたんだ。
「なら、私が鍛えます!」
「なっ!」
「あらあら」
「レミリア……ちゃん?」
数秒の沈黙。
視線がレミリアに集中する中、彼女は大きく口を開く。
「ただの平民でなくなれば……ふさわしい格を身につければ良いのですよね?」
「あ、ああ……だがそんなこと――」
「必ず相応しい男に鍛え上げて見せます! お父様はそのときまで待っていてください!」
そう宣言して、レミリアは僕の手を掴んだ。
「行きましょう」
そのまま彼女に手を引かれ、王様の前から立ち去る。
引き留める声が聞こえたけど、彼女は無視して廊下に出た。
「レミリアちゃん?」
「そういうわけよ。今日から私がみっちり鍛えてあげるから」
「で、でも僕は――」
「フラン!」
彼女は僕の名前を叫んだ。
力強く、だけど弱々しく泣きそうな表情で。
「私はフランがいいの……貴方以外は嫌なの」
「レミリアちゃん……」
ああ、僕はなんて馬鹿なんだろう。
この八年間、彼女はずっと待っていてくれたんだ。
約束を忘れず、守るために会いに来てくれた。
どうして答えなかったんだ。
彼女の気持ちに……覚悟に……
「少し待ってて」
「フラン?」
「言い忘れたことがあるんだ」
僕は扉を開ける。
重く仰々しい扉だが、この時は軽く感じられた。
王座から鋭い視線を向ける王に、僕は言わなければならない。
「なぜ戻って来た?」
「王様! 僕も彼女と結婚したいです!」
「――!」
これは誓いだ。
彼女の思いに応える。
結婚して、ずっと一緒にいる。
そのためなら、王様にだってなってやる!




