3.運命の再会
翌日。
同じ夢を見て目覚めた。
よく見る夢ではあったけど、二日連続で見るのは珍しい。
よほど彼女が恋しいのだと思い、自分で呆れてしまう。
それとも、何か特別なことが起こる前触れなのだろうか?
「何て……そんなことないか」
自分で言っていて虚しくなる。
これから始まるのは、昨日から続く当たり前の日常だ。
朝起きて、服を着替えて、畑へと出ていく。
何も変わらない。
きっとこの先も同じなんだ。
たかが村人の人生なんて、所詮はこんなものだ。
まだ十三年しか生きていないけど、大人の真似をして悟っていた。
「ん? あれは……」
家を出ると、村の入り口に一台の馬車が停まっていた。
大きくて立派な馬車だ。
この村の物ではない。
王都からの視察か?
いや、それにしては普通の馬車だし、今年はもう済んでたな。
この国では年に一度、王都からお偉いさんが視察にくる。
ちゃんと国のために働いているかを調査するためだ。
基本的には騎士や貴族が赴くのだけど、時々王様が来てくれることもある。
八年前、彼女と出会ったのが、まさに視察のときだった。
空を見上げ、日の位置で時間を確認する。
仕事の開始まで、まだ少しだけ時間がありそうだ。
少し気になるし、様子だけでも見に行こう。
そう考えた僕は、停まっている馬車まで歩いていく。
同じように考えた人が、次々と馬車の周りに集まってきていた。
すると、馬車の扉が開く。
既視感がある。
扉が半分ほど開いたとき、チラリと人影が見えた。
緩やかな風でなびく黄色の髪。
宝石のように青く透き通った瞳が、日の光で煌めく。
ヒラヒラとした服は、まるでお人形さんみたいに奇麗で――
ニッコリと微笑む顔に、僕の胸がギュッとなる。
ああ……僕はこの感覚を知っている。
何度も思い返して、何度も夢にまで見た。
夢で見た姿と、目の前にいる彼女の姿が重なる。
「久しぶりね。フラン」
「レミリア……ちゃん?」
「ふふっ、そう呼ばれるのも懐かしいわ」
「何で……ここに? レミリ――」
歩み寄ろうとした瞬間。
後ろから大きな手で頭を掴まれ、そのまま地面に倒された。
「れ、レミリア様! 申し訳ございません!」
「痛っ……何で」
「黙れ! レミリア様に馴れ馴れしく話しおって!」
「っ……」
頭を上げようとして、また強く押される。
大人の力で抑え込まれ、僕は顔を上げられない。
それでも必死に頭を上げようとする僕に、苛立ちながら怒鳴る。
「おい! いい加減に――」
「やめなさい」
鋭い声が響く。
僕を押さえていた村人は、ピタリと動きを止めた。
レミリアは彼に続けて言う。
「その手を退けなさい」
「え、いや……しかし」
「二度も言わせるつもり?」
チラリと見えた彼女の目は、とても冷たくて怖かった。
あんな表情も出来るのだと驚いきもした。
「も、申し訳ございません」
「下がりなさい。私が話したいのはフランなの。他の皆さんもです」
「は、はい! 失礼いたしました!」
彼女の一言で、集まっていた村人が去っていく。
残された僕は、ゆっくりと身体を起こした。
すると、そんな僕に彼女は手を差し伸べながら言う。
「立てるかしら?」
「あ、ああ……ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして」
彼女に手に掴まり、むっくりと立ち上がる。
服についた土を払って、改めて彼女の顔を見直した。
間違いなく彼女だ。
この国の王女様レミリア・フローレント。
「どうしてここに?」
「決まっているでしょ? 大きくなったから、約束を果たしに来たのよ」
「約束って……」
「あら? まさか忘れてしまったなんて悲しいことは言わないでね」
「忘れるわけないよ! あれから何度も夢に見たんだ! ずっと会いたくて……それで……」
「私もよ」
そう言って、レミリアは僕の手をぎゅっと握った。
僕が握り返すと、嬉しそうにほほ笑む。
夢のような光景だ。
だけど、この手に伝わる暖かさが、夢じゃないと教えてくれる。
「ねぇフラン、私の王子様になってくれる?」
「なるよ! 僕でも良いのなら」
こうして、僕たちは再会した。




