2.ただの村人
幼い日の記憶を、僕は今でも夢に見る。
鮮やかな景色で煌めく彼女の姿は、忘れようとしても難しいだろう。
「ぅ……うーん~ もう朝かぁ~」
この日も、彼女の夢を見て目が覚めた。
こういうときは不思議と気分が良い。
起き上がり、着替えをして、身なりを整える。
朝食の準備も済ませたら、家を出る。
「さて、今日も頑張るぞっ!」
気合を入れて向かったのは、村の端っこにある畑だ。
手にはクワを持ち、せっせと耕す。
これが僕の日課であり仕事だ。
「ふぅ……今日も良い天気だな~」
汗をぬぐい、空を見上げて呟いた。
周りには誰もいないし、ただの独り言だ。
そういえば、あの時も今日と同じくらい天気が良かったっけ?
もう八年前の出来事だ
僕も今年で十三歳になった。
人生の半分以上前のことなのに、今でも鮮明に思い出せる。
幼い日に交わした約束。
今となっては、王女様になんて恐れ多い態度をとっていたのかと思う。
王女様たちが帰った後、彼女との約束を馬鹿正直に話した。
当然、村の大人たちからはこっぴどく叱られた。
元々捨て子で、おじいちゃんに拾われた僕は、村でもあまり良いように思われてはいなかったんだ。
そうでなくても、王族に不遜な態度を示し、あまつさえ結婚の約束までするなんて。
叱られても仕方がないことだよね。
あれから色々なことを知った。
彼女の身分とか、自分との差も理解している。
それでも夢に見てしまう所が、自分でも未練たらしいと思う。
だけど仕方がないだろ?
今だからハッキリわかるけど、僕は彼女に一目ぼれしていたんだ。
正直に言えば、また会いたいと思う。
だけど―
「おい! 何さぼってんだ!」
「あっ、す、すみません!」
「働かねーなら叩き出すぞ!」
見ての通り、僕はただの村人だ。
大した取柄もなく、毎日叱られながら畑仕事をしている。
彼女は王女様だし、きっと僕なんかとは真逆の生活を送っているはずだ。
もしかすると婚約者とかが出来てたり……
僕のことなんて、すっかり忘れてしまっているかもしれない。
まぁ、それならそれで構わない。
どうせ叶うはずのない夢だとわかっているから。
昼間を通して畑仕事を続ける。
終わったら、トボトボと小さな家に帰る。
元はおじいちゃんと暮らしていた家だけど、おじいちゃんは二年前に亡くなって、今は僕一人だ。
一人分の夕食を作って、一人で食卓を囲む。
虚しさを感じないわけではないが、もう慣れてしまっていた。
そうして、僕は寝床に入る。
明日も同じ日常が待っているのだろう。
たぶん、明後日も、明々後日も代り映えしない。
ならばせめて、夢の中だけは、彼女と遊んでいたい。
そう思いながら、僕は眠りについた。




