18.限界を超えろ
笑いながら斬り合う。
端から見れば、気が狂っていると思われるかもしれない。
それでも、俺たちは笑わずに言われなかった。
ずっとこの瞬間を待ち望んでいた。
稽古ではない。
本当の――戦いを。
「行くぞ」
「はい、いつでも!」
鍔迫り合い。
互いに込めた力を抜き、次の斬撃へ繋げる。
攻撃と防御を繰り返し、互いの一手をつぶし合う。
「何だよあれ……」
「速すぎて見えない」
観客は困惑していた。
剣速は常人が認識できる速度を超えていたからだ。
認識できる者は、俺たちと同じ領域に踏み入れた強者のみ。
見世物として失敗だが、俺もアドルフさんも、そんなことは考えていない。
考えているのは、目の前にいる手強い剣士のことだけ。
単純な斬り合いだと決着がつかない。
なら、歩法も駆使して翻弄するまでだ。
次の手をどうするか。
何なら相手を上回れるか。
常に考え、行動に移し、対処する。
これを刹那の内に何度も繰り返すだけ。
「なるほど! これが本来の君の速度か!」
「はい!」
腕輪を外し、身体はいつもの三倍軽い。
移動速度だけなら、おそらくアドルフさんを上回っている。
だからこそ、俺は動きで翻弄する作戦に出た。
しかし――
「甘いな!」
「っ……みたいですね」
死角を突いたつもりでも、アドルフさんの剣は間に合う。
単純な速度じゃない。
これは経験の差だ。
最前線で戦い続け、その果てに頂点へたどり着いた男の直感が、目で追えない俺を捉えている。
そして何より、剣術の腕はアドルフさんが上だ。
大丈夫。
そんなこと、最初からわかっている。
俺に剣を教えてくれた人。
ここまで俺を強くしてくれた人が、弱いわけないんだ。
稽古として手合わせした回数は、すでに四桁を超えている。
一日の内に何度も戦い、何度も負けてきた記憶が蘇る。
幾戦の中で、互いの手は知り尽くしているから、考えなくても身体が動く。
その成長を間近で見続けた彼には、俺の強さを予想できるはずだ。
だから、ここまで戦いが続いている。
このままじゃ勝てない。
俺の剣は、この人に届かない。
勝つために必要なことは、彼の想像を超えること。
彼の知らない強さを見せつけることだ。
出来るかどうかなんて今考えなくて良い。
やるんだ。
今ここで――限界を超えろ!
「何っ!?」
剣を投げた?
投げた剣は弾かれ、地面に突き刺さる。
アドルフさんだけじゃない。
会場の人たちも、俺の行動には驚いただろう。
剣士が剣を投げる。
つまりそれは、自ら武器を捨てる行為に他ならない。
だが、忘れていないだろうか?
これは武術大会であって、剣術大会ではないということを。
素手の攻撃も反則じゃない。
「拳法だとっ――」
「いいえ、少し違います」
素手での攻撃から、柔軟な身体を巧みに使い、足技も多用する。
そこからステップを駆使し、刺さった剣を抜いた。
俺は剣を握ったまま、格闘スタイルを続ける。
「何だよあれ! もう剣術でもなんでもねーじゃんか!」
「あんなの有りなの?」
「いやまぁ有りだろ。別に剣で戦えってルールでもないし」
会場でも疑問の声が上がっていたようだ。
実際の所、俺が見せているのは剣術ではない。
だが、拳法でもない。
「アドルフさん! 俺がこの二年で学んだのは、剣術だけじゃないですよ!」
「ふっ、そうだったな失敬」
拳法、槍術、短剣術、柔術、弓術……
俺はこの二年で、数えきれないほどの戦い方を学んできた。
あくまで剣術もその一つに過ぎない。
この全てが俺の強さであり、成長の証明なんだ。
誰の目から見ても、それは王道とは言い難い。
騎士団長の振るう剣とは真逆と言っても良いだろう。
邪道で、乱暴で、無茶苦茶だ。
非難の声が上がったとしても、仕方がないと自分でも思う。
だとしても――
「これが俺のすべてだ!」
「っ――!」
振り下ろした斬撃が、最強の称号を斬り裂く。




