12.いつか全力で
「そろそろ時間だな」
「ですね。今日もありがとうございました」
定刻となり、剣術の訓練が終わる。
俺が深々と頭を下げると、アドルフさんは笑いながら言う。
「構わんよ。私自身、君との稽古で鍛えられた部分もある。最近は特に、なかなか手強くなってきたからな」
「そんな、俺なんてまだまだですよ」
「謙遜する必要ない。君は確実に強くなっている」
アドルフさんの言葉に、俺は心を震わせる。
騎士団のトップが言うんだ。
きっと間違いじゃないんだろう。
「アドルフさんにそう言ってもられると、何だか自信が出てきますよ。そうですね……いつか、アドルフさんとは稽古じゃなくて、本気で戦ってみたいです」
「ああ、私も君と全力で戦ってみたいと思うよ。それに案外、その日は近いかもしれないぞ?」
アドルフさんは意味深なセリフを口にした。
俺は首を傾げる。
「どういう意味です?」
「ん、何だ? 姫様から聞いていないのか?」
「はい、何も……」
ここ数日の記憶を遡ってみる。
だけど、思い当たる節はなかった。
「そうか。うん……私から伝えても良いものか」
俺の反応を見たアドルフさんは、何やらブツブツ言いながら考えている。
しばらくして、俺と目を合わせる。
「日も短いし、私から伝えておこう。フラン君、十日後に開催される催しを知っているかな?」
「十日後……ああ、確か武術大会でしたか」
「ああ。年に一度、国中から参加者を募って行われる武の祭典だ」
王国主催の武術大会。
そういえば、もう武術大会の時期だったか。
話題に上がらなかったし、完全に記憶の外だったな。
「確か去年は、前団長を倒してアドルフさんが優勝したんですよね?」
「ああ。私が団長になれたのも、あの時の勝利が大きかっただろう」
国中から集まった武芸者が、最強の称号を奪い合う。
他国からの観戦者も多く招き入れ、自国の力を証明する場でもあるとか。
「去年は客席から見てましたけど、かなり盛り上がってた記憶があります」
「それは当然だろう。皆が楽しみにしている催しの一つだからね」
「アドルフさんは前回優勝者ですし、今年も出場するんですよね?」
「ああ。君もだぞ」
「あっ、やっぱりそうなんですか」
話の流れから、そうなんじゃないかと思っていた。
アドルフさんの話によると、すでに参加者名簿に名前が書いてあるらしい。
俺は知らないから、レミリアが登録したんだろう。
まぁ参加することは良いとして、気になるのは……
「どうして教えてくれなかったんだろう」
「さぁね。姫様なり考えがあるのではないか?」
「だとは思います。後で直接聞いてみますよ」
「うむ。では、私は失礼するよ」
「はい」
俺が一礼すると、アドルフさんは手を挙げて去っていった。
武術大会……か。
いつか全力で戦いたい。
そのいつかが、すぐそこに迫っている。




