第1075話 レムリア海戦(3)
「流石はフィオナさん、攻守共に万全ですね」
ブリッジに座すネル提督は、連合艦隊を守る広域結界『太陽神殿結界』が無事に発動したことを見届け、そう呟いた。
天空母艦プルガトリオを基点として、黄金の紋様が浮かぶ薄紅色に輝く光の壁が海を行く連合艦隊全てを覆っている。
本来、この規模の広域結界を展開、維持し続けるには、龍穴など豊富な魔力がある環境を利用しなければならない。通常の魔術師部隊には、あまりにも荷が重すぎる。
その膨大な魔力量を供給するのが、『魔女工房』謹製の煉獄炉である。
プルガトリオに突き立つ煉獄炉は、轟々と唸りを上げ、巨大な結界を維持するための魔力を生み出し続けている。
勿論、ただ魔力が多ければ良いワケではない。『太陽神殿結界』は御子フィアラが行使する、神聖な火属性という魔力の質も要求される。
その質を持った魔力は、御子や神官といった太陽神に仕える者が生み出すか、メラ霊山のような、深い縁のある地でもなければ、存在しえない。
だからこそフィオナは、プルガトリオの煉獄炉を完全に自分専用ではなく、むしろ妹であるフィアラが使うために設計していた。自らも不死鳥と一体化したが故に、その魔力の質をよく理解できていたからこそ、可能な設計でもある。
さらにフィオナは、煉獄炉の出力と妹の御子としての実力に合わせて、最も効率的かつ最大の防御力を発揮する原初魔法、『太陽神殿結界』を編み出した。
ベースは天才魔女フィオナも認める完成度を誇る防御魔法『紅蓮城郭』。火属性魔力を効率的に防御力へと構築する優れた術式はそのままに、太陽神殿に伝わる結界術と融合させ、太陽神の加護も宿す神聖な結界魔法へと昇華させたものだ。
原初魔法とは術者本人のみに最適化した独自術式、あるいは固有効果を発揮する魔法の分類。他人が使う原初魔法を術式設計する、とは矛盾を孕んだ行為だが……ソレイユの血を分けた姉妹であることと、ルーンでの経験が、フィオナにその矛盾を可能にさせた。
結界の発動に必要な設備から魔法の術式、何から何まで姉の手で用意されたものを使うというのは、太陽神殿を代表する御子としては業腹だろう。
しかしフィオナは純粋に妹の世話を焼きたい善意と、これが最善の手段という確信。そして妹として、そんな姉の気持ちを理解できてしまうこと。
結果的にフィアラは少々引きつった笑顔で、「ありがとうございます、姉さん」と全てを受け入れた。戦争に勝つため、つまらないプライドなどメラの火口に投げ捨てる気持ちで。
無論、そんな妹の複雑な心境など知らず、大満足のフィオナはその日の晩にリリィ相手に妹孝行の自慢話をするほど調子に乗っていたが。
複雑な姉妹関係の経緯はさておき、晴れて『太陽神殿結界』は艦隊を守る最大の盾として構えられた。
連合艦隊は太陽神の、ロンバルト征服艦隊は歌の女神の、それぞれ加護による広域結界に守られたまま、ついに両者は主砲の射程距離まで辿り着く。
「全砲門、開け――――砲撃開始っ!!」
ネルとザメク、同時に下された号令で一斉に火を噴く両艦隊の主砲。
互いに交わした砲火は、それぞれ展開させた結界に突き刺さり――――砲弾に込められた破壊力を大いに解き放つが、どちらの結界も揺らがない。
一斉砲撃が直撃しても、その輝く表面にヒビの一つも入れることなく、守りの力を発揮していた。
「これは『聖堂結界』並みの硬さですね……私が直接、割りに行ければ良いのですが」
「お願いだから、提督までブリッジを離れるのは止めて欲しいの」
「大丈夫ですよ、ウルスラさん。提督としての務めは果たしますので」
本気で勘弁してくれ、という目を向けてくる小さな艦長に、ネルは嫋やかなロイヤルスマイルで応えた。
いくら一番弟子とはいえ、成人したばかりのような少女を、天空母艦の艦長席に座らせるなど、フィオナも無茶ぶりが過ぎる。そもそも天然極まる魔女についたことで、常日頃から振り回され続けているだろうことは、想像に難くない。
婚約者の中でも随一の良識を誇ると自負するネルとしては、そんな苦労を背負わされたウルスラを見る目はつい優しくなってしまう。
しかし、だからといって他にプルガトリオの艦長を務められる者もいない。幼くとも、帝国軍人として務めは果たしてもらう。
「進路そのまま。敵の結界は破れていませんが、こちらの結界も揺らいではいません。落ち着いて砲撃を続けて下さい」
両艦隊はどちらも強固な結界に守られながら、搭載された火力を投射し続ける。
激しい撃ち合いをしながらも、共に損害が無いため砲口の数は減ることはない。それは長く縦に連なった陣形が、互いに側面を晒しながら最大火力を撃ち込める状況となっても変わりは無かった。
主砲の有効射程に沿うような間合いで、両艦隊がすれ違い様に砲撃の応酬を交わし――――ついにどちらも一隻の被害を出すことなく、通り過ぎていった。
「ウルスラさん、敵の結界に綻びは」
「アレは加護の力100%の結界だから、古代のセンサーでも正確には計測しきれないの。でも歌姫と選曲によって、結界の性質は変化し続けているように見えた」
「では、相対的に結界の強度が弱まるタイミングもあると」
「絶対にある、けど……それをカバーするようなローテーションを組んでるし、結界の基礎を支えているエミリアの力が強すぎるから、致命的な隙にはならない」
あのエミリアが聖歌隊のスーパーエースとして活躍していることは、ウルスラも開戦前から知るところである。圧倒的な歌唱力で苛烈なアイドル戦国時代のカーラマーラで絶大な人気を誇った彼女だ。歌の女神を加護を授かれば、どれほどの力を発揮するかというのは、今や自らも加護を宿す身となったことでよく理解できる。
しかし如何に強い加護を授かろうとも、人が一人で出来ることには限度がある。つまり、エミリアが一人で歌い続けるのも限界があるのだ。むしろ歌によって加護の力を発揮する性質上、身体的な負担は魔法の詠唱を諳んじるよりも重い。
魔法の詠唱に求められるのは正確な発音だが、歌には声量、音程、感情、と様々なパフォーマンスが求められる。歌の女神の加護である以上、その歌唱は一定水準を超えていなければ、その力を発揮することも無いだろう。
だが、そんなことは聖歌隊を創設したザメクとて百も承知。
だからこそ圧倒的な実力のスーパースター単独でも、少数のグループでもなく、聖歌隊という大人数での編成をしている。
歌の女神の加護を宿した少女達が代わる代わる歌い続けることで、負担を分散。それでいて、実力差に大きなバラつきが出ないよう、メンバー編成が考えられている。
聖歌隊はまずエミリアによって最大効果の結界を創り上げ、その後は他のメンバーが歌うことで、出来る限り長くその効果を維持。そして一定まで減衰してきた時に、再びエミリアが立つ――――基本的にはこの構成でもって、連合艦隊の一斉砲撃をも凌ぎ続ける結界強度を維持しているのである。
「対して、こちらは御子フィアラの単独術者による結界。太陽神殿の神官と煉獄炉でサポート体制は万全だけど……持久戦になれば、恐らく先にこちらが限界を迎える」
「だからこそ、余裕の構えでいられるのでしょうね」
すれ違い様の砲撃戦は、とても大損害を被った直後とは思えないほど、統制の取れた動きであった。あれほど一方的にやられてしまえば、普通はそれだけで士気が折れる。何とか保てたとしても、恐怖と不安で動きには乱れが出るものだ。
しかしロンバルト艦隊の動きは、いまだ自軍の勝利を信じて疑わないというほどの気迫を感じさせるものだった。
それを可能とするのがザメクの覇王としてのカリスマであり、そして決してただの虚勢だけではない、確かな勝算を持つが故の自信であろう。
すでに両艦隊は通り過ぎ、多数の艦艇が大きくターンをして、再びぶつかり合う構え。歌姫に守られたロンバルト艦隊には、何度でも撃ち合いに付き合ってやる、と言いたげな余裕を感じられる動きであった。
「ですが、次で仕掛けてきますね」
「そうなの? 砲撃戦を続けるなら、向こうが有利なのに」
「あちらも、こちらに切り札があると思って警戒しているでしょう。それに、ザメクは派手な勝ち筋を好みます」
ネルはロンバルトを相手するにあたって、可能な限りザメクの西部統一の戦いの記録を集めた。
その中でも目立つのは、やはり聖剣の勇者と名高い英雄の活躍だが……それはザメクの的確な用兵があってのことだと分かる。自軍が少々窮地に追い込まれようが、必ずここぞ、というタイミングと場所に勇者を投入し、華麗な勝利を得ている。
特に、相手と雌雄を決する大きな戦いでは。
小競り合いや威嚇、牽制、といった程度の戦いには、むしろ堅実な戦いに終始しているが、ザメクは決戦の時にこそ大胆な戦術をとって来る、というのは西部の戦史から明らかであった。
故に、ザメクは連合艦隊を完膚なきまでに叩き潰すような、大勝ちを狙う策をとって来る。そんな確信がネルにはあった。
そして、その確信が現実のもとのとなって現れたのは、ゆっくりと陣形を整え直し、今度は射程の半ばまで踏み込む勢いで、両艦隊が相対した時である。
「海中に複数のエーテル反応を感知!」
「敵の潜水艦を発見!」
「天空戦艦アスガルドより、勇者ロイ、出陣! 凄まじい速度で、こちらに飛んできます!!」
「続いて、飛行巡洋艦、突っ込んできます!?」
「直撃コース……衝角攻撃です!」
西方大帝ザメクは、ここで勝負に打って出た。
◇◇◇
「仕掛けてきましたね」
向かい合うロンバルト艦隊を見つめながら、フィオナは握り飯を包んでいた葉を投げ捨てると同時に焼却した。
艦隊が砲撃戦を交わしながらすれ違い、ターンをして再び向かい合うまでの時間を利用して、補給は済ませている。
そして今まさに、敵艦隊は新たな動きを見せた。砲撃戦だけでは埒が明かないとばかりに、思い切って手札を切ったといったところ。
その最初の一枚が、潜水艦である。
プルガトリオが天空母艦として元々備えていた高度な索敵機能は、即座に海の中から発せられる不穏なエーテル反応を検知したのだ。その正体は潜水艦、あるいはそれに準じた水中兵器の類であることは明らかだった。
「潜水艦、ホントに実用化してるなんて……」
「ロンバルトは随分と艦船の遺物が多いようですから。多少のパーツを流用するだけで、潜って撃てる、くらいのモノは出来るのでしょう」
潜水艦。すなわち水の中に潜る船である。
古代の伝承にも登場するし、船のある地域なら誰もが想像する存在だが、その実用化は非常に難しい。空中と同じく、水中もまた人の生存圏外。水棲の種族を除き、人の種は水の中で息は出来ないのだから。
潜水艦を造るのに必要不可欠な、高い気密性の船体。この一点だけでも建造技術は高度であり、魔導式戦艦をイチから造り上げる造船技術を修めたルーンでも、潜水艦はこれからようやく造れるかどうか、という状況である。
生粋のルーン人であるフィアラからすれば、戦場で潜水艦を運用する、というのは衝撃を覚える。まして本職のルーン海兵ならば尚更。
これから実現させるはずの技術が、敵に先取りされていた何よりの証でもある。
「でも潜水艦あるかもしれないのは、分かってたことですし。ここは大人しく、こちらも同じ水中戦力をぶつけるより他はありませんね」
「ルーンを危機に陥れた海魔軍に頼ることになるのは、あまり良い気分ではありませんけれど」
「いいじゃないですか、便利ですよ」
ルーン海軍を翻弄するように海から出現し、同時多発的に強襲上陸を仕掛けた海魔軍の脅威は記憶に新しい。その真の目的は、龍穴を刺激して不死鳥の覚醒を促すことであったが……強力な自爆攻撃が可能な、ある程度の操作が効く海棲モンスターの使い魔、というのは潜水艦に代わる戦術価値がある。
不死鳥覚醒、という目的などなく、純粋に海辺から敵地への侵攻を狙うなら、海魔軍は非常に有用な戦力となる。上陸戦をせずとも、自由自在に泳げる海棲モンスターの性質上、艦隊戦でも海中から敵を狙う強力な水中兵器足りえる。
という話をクロノから聞いたフィオナは、じゃあ使ってみるか、と海底遺跡で研究開発と並行して、海魔軍の製造もすることにした。勿論、丸投げされたクーリエが抱える仕事量は増えた。
献身的な奴隷の働きによって、クラゲ型、鯨型、そしてクラーケン型の海魔軍が、ある程度の数を揃えることが出来た。
そして敵艦を海中から襲う水中兵器として、連合艦隊の直下に潜ませ、その機を狙っていたが……
『敵潜水艦には、海魔軍をあてて対処します』
提督の命令が、通信でここにも伝えられた。フィオナの言う通り、ネルも同じ判断を下したようだ。
連合艦隊は潜水艦という先進的な兵器に狙われているという不安はあろうが、それで陣形を乱すわけにもいかない。
すでに撃ち合いにおいては、火力は同等。ならば一度でも劣勢に傾けば、そのまま勝負は決まってしまう。隙を見せるワケにはいかなかった。
「そんなことより、気にするべきは例の勇者でしょう」
「物凄い嫌な気配するんだけど……やっぱり、アレがそうなんですね」
遥か彼方に、小さいながらも七色の光点が灯った。
それはまるで、リリィが『妖精結界』を瞬かせているような姿。美しい虹の軌跡を空に描いて、自由自在に高速飛行する様子もよく似ている。
だが何よりも警戒感を抱かせるのは、どこか異質な、けれど恐ろしく強力な魔力の気配を放っていること。
「どうやら、クロノさんの予想は正しいようですね――――予定通り、アレは私が相手をします。プルガトリオを任せます」
「はい、姉さん。ご武運を」
「ただの時間稼ぎですから。そんなに気張らなくていいですよ」
真剣に無事を祈る言葉をかけてくる妹に、大したことは無いと手を振って、フィオナは出撃準備を整える。
魔人化状態でも変わらず被り続けている三角帽子、その内に仕込まれた空間魔法より取り出すのは、一本の箒……のような形状をした、特大の長杖である。
『不死鳥の尾』と名づけられたこの杖は、フィオナが空を飛ぶためだけに用意した専用装備である。
すでに母親譲りの『不死鳥の羽』によってその身一つで空を飛ぶことを可能としたフィオナであるが、リリィとの演習では制御を誤り盛大に自爆して墜落してしまった。習熟によって、制御力を安定させることは出来るが……やはり『不死鳥の羽』だけでは、どう足掻いてもリリィの飛行能力には及ばない。速度、加速、機動性、あらゆる面で届かず、超えようとすれば必ずどこかで無理が生じる。
それを何とかするために試行錯誤で改良して行くのも良いのだが、今すぐ実戦で使えるようにするため、フィオナは『不死鳥の羽』の安定化と魔力消費を手っ取り早く改善できる専用の杖を作ることにした。
古くより、魔女は箒に跨って空を飛ぶ、という伝承がシンクレアには伝わっていた。自分が幼い頃、魔女の師匠も実際に箒で飛んで見せたくれたこともあるが……後になって思えば、あれはただ箒に跨った格好をしているだけの、風魔法の力業であったことが分かる。
師匠でさえ、ポーズだけだったのだ。それにパンドラでは、全くそういった話は伝わっておらず、所詮は一地方にだけ残る、由来不明の伝承に過ぎないが、それでもフィオナにとって印象的な姿だったのは確かである。
そんな伝承と在りし日の師匠の姿を元にして、箒のようなシルエットをした飛行専用杖『不死鳥の尾』を作り上げた。
その構造は純粋に飛行魔法『不死鳥の羽』の発動と安定化のための術式だけが刻み込まれている。そして箒の穂にあたる膨らんだ部分には、本物の不死鳥から採取した炎を宿す小型の煉獄炉が仕込んであり、『不死鳥の羽』の行使に最適な質の魔力を供給できるようになっている。
この『不死鳥の尾』に跨れば、フィオナ自身は簡単な制御に意識を割くだけで済み、自分の魔力もほとんど消費せずに飛ぶことができる。
これによって長時間の安定的な空中戦を可能とし――――この場にリリィもいない以上、当然のように空を飛んで襲い掛かって来るロンバルトの勇者の相手が務まるのは、フィオナを置いて他にはいなかった。
「この翼は太陽にまで届く――――『不死鳥の羽』」
御子になるはずだった母の魔法は、太陽神殿の術式も取り込んだ原初魔法。詠唱ではなく一節の祝詞によって、『不死鳥の羽』を発動させた。
瞬間、燃え盛る炎の翼が箒の穂から、大きく広がった――――その直後、爆ぜるような勢いで垂直に飛び上がり、真っ赤な火線を虚空に引いて、魔女は飛んで行った。
次元の違う空中戦へ赴く姉の姿を、隠しきれない憧憬の眼差しで見上げていたフィアラであったが、
『続いて、飛行巡洋艦、突っ込んできます!?』
『直撃コース……衝角攻撃です!』
ブリッジから直接送られてくる情報を耳にして、意識を敵の空中機動艦隊へと向けた。
動いたのは、旗艦アスガルドの盾となるように前へと位置していた一隻の飛行巡洋艦。アスガルドと同じように、鯨のようなずんぐりした分厚い装甲を纏った、如何にも頑強そうな外観をしている。
それが先走ったかのように、ぐんぐん速度を上げて前進し、やがて鉄壁の守りである聖歌隊の結界すら通り越す。報告の通り、明らかに単艦で真っ直ぐこのプルガトリオへと突っ込んでくる速度と軌道である。
まさか、ヴァルナ空中決戦で帝国がピースフルハートに仕掛けた衝角攻撃の再現か、とは誰もが思ったことだろう。一度成功させているからこそ、同じ手を敵に喰らうような間抜けは許されない。
『回避行動に移るの、みんな、掴まって!』
『迎撃用意! 竜騎士団、全騎発艦せよ!』
捨て身の衝角攻撃は脅威だが、たったの一隻。飛行巡洋艦という古代兵器である以上、船体を守るシールドは標準装備であろうが、聖歌隊の結界が無ければ、その防御力の底も見えている。
プルガトリオに搭載した自衛用の火器と、竜騎士団による集中攻撃をかければ、そのまま撃墜まで狙えるだろう。
『フィアラさん、結界の維持をよろしくお願いします』
「はい、どうぞお任せを。あの一隻から至近距離で砲撃を受けても、『太陽神殿結界』は揺るぎません」
ネル提督へと、そう力強く返答。
直撃コースさえ避けられれば、単艦による砲火を受けてもプルガトリオは守り切れる。それだけの自信がフィアラにはあるし、そんなことも出来なければ、ルーンを守る御子失格だ。何より、信じて任せてくれた姉に顔向けできない。
自分の役目を果たす覚悟を固めて、フィアラは無謀な突撃を仕掛けてくる敵艦を睨んだ。
ほどなく、有効射程に入ったことで、敵艦からの砲撃が始まる。
無論、たったの一隻で撃ったところで『太陽神殿結界』は余裕をもって防ぎきる。
そして砲撃が始まるとほぼ同時に、こちらの出撃した竜騎士団が敵艦へと襲い掛かった。
「それでもまだ真っ直ぐ突っ込んでくる……自爆覚悟ってワケ」
回避も防御も捨て去ったように、全速前進で敵艦はひたすら突き進んでくる。
プルガトリオには戦艦の主砲こそ積んでいないが、副砲は幾つか搭載してある。その砲撃は直進するだけの敵艦に次々と命中。さらには竜騎士団が、鳥の群れが集るような勢いで爆撃を敢行し、瞬く間にシールドが崩れて行く。
ほどなくすると、完全にシールドは消え去り、船体に攻撃が直撃。見た目通りの分厚い装甲によって炸裂する威力を防いでいるが……爆炎に包まれる飛行巡洋艦は、自慢の装甲も次々と砕け、剥がれて落ちてゆく。
それでも速度を緩めることなく突っ込んでくる。
しかし、そんな決死の覚悟を嘲笑うように、プルガトリオは完全に衝突する軌道からは逃れていた。天空母艦は巨大だが、だからといって機動性皆無の鈍重なワケでもない。
ウルスラ艦長の指揮と、デイン以下ドワーフ達の巧みな操船によって、見事な回避軌道を描いている。
敵艦の速度と機動性から鑑みて、ここからどう足掻いても、展開した『太陽神殿結界』にもぶつかることなく、虚しく至近距離を通過してゆくだけだろう――――そんな予想が現実となって、今まさにフィアラの真上を炎上する飛行巡洋艦が通り過ぎて行く、その時である。
ズドォオオオオン――――
雷が落ちた。
蒼く輝く、大きな落雷。
刹那、フィアラはあまりの眩さに思わず目を瞑ってしまい……
「――――俺がロンバルト六聖将、『蒼雷騎士』ジン・ブリッツだっ!!」
驚愕に目を見開く。
甲板に黒々とした大きな焦げ跡を刻みつけ、そこに一人の男が立っていた。
「嘘っ、結界が、破られた……」
見上げた先には、黄金と薄紅に輝く結界に、大きな亀裂が走っている。
一撃で『太陽神殿結界』が破られたのか、と衝撃を受けるが、同時に、完全に崩壊していないことに安堵もする。
恐らく、結界破りの特効技によって、強引に切り拓いただけ。結界そのものは維持されており、すぐにでも亀裂は修復されて元通りになる――――だが、その僅かな隙を、突っ込んできた敵艦は狙っていたのだ。
先んじて甲板に降り立った六聖将ジンに続いて、幾つもの大きな筒が降って来る。
爆撃か、と思ったが、轟いた爆音はすでに後方へと通り過ぎていった敵艦から発せられていた。
激しい爆発音に紛れるように、投下された金属の筒がプルガトリオの広大な甲板へと突き刺さる。
それは自ら大爆発することなく、ただ鉄色の装甲が弾けて、その内に抱え込んだモノを解き放つのみ。
すなわち、天空母艦を制圧するための戦力である。
「六聖将、『大盾公』バーダン・レイザーバック、参上」
「六聖将、『冥剣聖』エリネシア――――ネル・ユリウス・エルロード、アンタの首を獲りに来たわ」
合わせて三人の六聖将と、その直属の精鋭騎士団。
堂々と名乗りを上げ、ロンバルト最高峰の精鋭戦力がプルガトリオへと乗り込んできたのだった。




