第1068話 巨人の戦場に咲く
天空戦艦に敵機が群がり、黒竜と機竜が相争う空中決戦が激化の一途を辿る中……地上の戦いも激しさと混迷を極めていた。
「ぬぁああああっ、クソォ! テメーはさっき俺様がぶっ飛ばしてやったヤツじゃねぇか――――よぉ!!」
『ふん、同じ手を食らうかぁ!』
「うるせぇー、食らってろぉ!」
オープンチャンネルで互いに怒声を浴びせながら、スプリガンと激しい接近戦が繰り広げられる地上の最前線に、フルアーマーガルダンは立ち続けていた。
戦端を開いてより一番前で、最も危険な場所で一歩も退かずに戦い続けたことで、その巨躯と頑強な重装甲も揺らぎ始めていた。
すでに何枚も装甲板は剥がれ落ち、フレームがほぼ剥き出しとなってしまった箇所も見受けられる。最も分厚い胴体装甲にも、大きな亀裂が走り、次に強烈な一撃を受ければ砕け散ってしまいそうなほど。
元より鈍重な機体のため、回避よりも装甲を活かしてガードで受けることが多いので、被弾は避けられない。多少のダメージを想定した故の重装甲だが、本物の戦人機による猛攻を一身に引き受ければ、遠からず限界は訪れる。
前線の要として奮戦し続けたガルダンは、その分だけ敵機も撃破している。最初のように、トドメこそ巨獣戦団に任せることの方が多いが、巨体とパワーに任せた攻撃で、何機も薙ぎ払っては敵を寄せ付けない。完全に撃破できずとも、手足をへし折って戦闘不能に追い込んだのも多かったはずだが――――そうして、一度倒したはずの機体が、再び目の前に現れ始めた。
「やけにあっさりと退く者が多いと思ったが……どうやら、機械の体は容易に手足を入れ替えられるらしい」
「けっ、修理とか日和った真似しやがって!」
ガルダンに決定的に欠ける素早さを補うため、そのサポートに徹していた巨獣戦団団長が、敵機が復帰するカラクリを一目で理解する。
地上を走る敵の母艦たるエーテルクラフトは、ただの輸送船ではない。戦人機のメンテナンスは当然として、パーツをつけかえ修理も可能とする工場でもあるのだ。
コックピットやリアクターなど致命的な部位に損傷さえ負っていなければ、手足をつけかえ戦場に復帰することも可能とする。
オルテンシア軍はただ戦人機の力押しをするだけでなく、僚機が倒れた時はフォローしつつ後方へ搬送、それから母艦での修理、という一連のプロセスもしっかりと戦術として叩き込まれていた。
これもまた古代の戦術の一つであり、エカテリーナはいつか戦人機部隊と同じ、あるいは同等の力を持つ強敵と戦うことを見越して、訓練を続けさせていたのだ。
恐らくヴァルキリーの誰もが、まさかこの訓練の成果が活きる時が来るとは、と思ったことだろう。
そして、その練度が時を経るごとに徐々にオルテンシア軍の優勢へと繋がって行った。
『おらぁ! ようやく捕まえたぞこのデカウサギぃ!!』
『ちょっとぉ、殺さないでよ、アタシのペットにすんだから』
『いらねーよ、剥製でいいだろこんなもん』
「プップップッ、プギャアアアーッ!?」
その素早さにも慣れた、とばかりに死角からハンマーで襲い掛かった巨獣戦団のウサギが捕まった。
カウンターでシールドバッシュを食らい、目を回してたたらを踏んだところに、スプリガンにがっしりと耳の根本を掴まれ身動きを封じられてしまっていた。
首尾よく生け捕りにしたが、そんなことしている暇はないと言うようにフワフワ毛皮の首元に、エーテルの迸る鋭い刃がかかり、
「ざけんじゃねぇ! 俺様より前で死んでんじゃねーぞコラぁ!!」
背負った大砲をぶっ放しながら、ブースターを噴かせてガルダンが突っ込んで行く。
流石にこの勢いでぶつかられたらまずいと即断し、ウサギを囮のようにぶん投げて二機は素早く散った。
「はっ、命拾いしたなウサ公。これに懲りたら、もう俺様より目立とうとするんじゃねぇぞ」
「プウウゥールァアア……」
投げられたウサギを受け止め、勝ち誇ったように言うガルダンだが、ほとんど聞こえてはいなかった。
耳を掴まれぶん投げられて、まだ視界も頭もフラつくウサギは、団長にカバーされて、大人しく後ろへ下がって行った。
今のは迂闊にウサギが攻め過ぎたのが敗因だったが……それ以上に、自分達の限界が近いことを現している。
その一方で、スプリガン部隊は果敢に攻め続けている。
ガルダンがやや突出したのを好機とし、敵機が挟みこむように狙う動きを見せた。
「それなりに仕留めたと思っていたが……想定よりも、敵の攻勢が緩まん。これ以上は、ここで粘るのも限界だろう」
「けっ、シャバいこと言ってんじゃねぇよ! 俺ぁまだまだ、やれるってんだ!!」
轟っ! と唸りを上げて奮われる巨大メイス。しかし敵機は、すでにその力任せの大振りは見切られ、滑らかなブースト機動で後退し間合いから脱する。
ついでのお返しとばかりに、エーテルライフルが火を噴き、近距離で黒煙でも拡散しきれない威力が、ガルダンの装甲に更なる弾痕を刻みつけて行った。
「ちいっ、チョロチョロしやがって……」
時間の経過と修理による戦線復帰は、元よりスーパーエリートたるヴァルキリーに確かな経験値を与える。特にガルダンのような脳筋タイプは、裏のない素直な攻撃なので慣れれば見切りやすい。
だからといって楽に倒せる相手ではないのだが、少なくとも開幕時のように、まとめて薙ぎ払われるような無様はもう晒さない。
ガルダンのデカさと堅さは厄介だが、それも慣れた者達が引き付けておけば、脅威は大きく低下する。
ヴァルキリー達の戦闘センスと確かな連携が、フルアーマーガルダンという盾を攻略しつつあった。
「まずい、このままでは――――」
この戦況を、団長は冷静な頭脳と野生の直感、両方とで崩壊寸前に来ていることを悟った。遠からず、ガルダンも囲まれて撃破されてしまう。
そうさせないために自分達もいるが、『原始鼓動』も強力な加護なので消耗が激しい。ウサギは最も若く、加護も未熟。故に最初に限界が訪れ、判断力も鈍っていたと団長は察していた。
敵機は修理し、エーテルを補給して万全の状態で戻って来るが、こちらは負傷と疲労は募る一方。
そうした継戦能力の差も、ジリジリと戦力差として現れ始めている。
一体、あとどれだけの間、ここをもたせることが出来るか……懸念はしかし、すぐに残酷な現実として襲い掛かって来た。
『貴様ら、一体いつまで雑魚を相手に遊んでいる』
『ああ、誰だよ舐めた口効きやがって!』
『どこの所属よアンタ!』
『この星の紋章が目に入らんか』
『げっ、ノルン隊!?』
『なんで近衛が出張って来てるのよ!』
『本陣はどうしたんですかっ!』
『すでに女王陛下、御自ら出陣されたのだ。我らが続くのは道理だろう』
『陛下が魔王を討つよりも先に、総力をもって敵要塞を攻め落とす!』
戦場に姿を現したのは、新たなスプリガンでは無かった。
汎用機とはあらゆる面で上回るスペックを誇る高性能機、戦人機『シルフィード』の部隊であった。
スプリガンよりも頭身が高く、どこか細身の女性的なスタイル。旗艦『クリームヒルト』と似た白銀と翡翠に輝くカラーリングの装甲が、優美な流線形を描いている。
一見すれば美術品のような外観はしかし、汎用機を凌ぐ力が秘められている。
そのシルフィードのみで編成されているのが、戦人機の近衛部隊『ノルン』だ。
「この戦線はもうもたん、退却せよ!」
遠目にシルフィードの姿を確認した瞬間、戦場に轟く号令を発したのは、黒竜陸戦隊を率いるグラナート・ラント公爵。
すでに巨大な黒地竜へと姿を変えて自らも前線を支えるべく奮戦していたが、ここに来て戦局を決定づける敵の増援が加わったことで、退却を決断した。
敵に背を見せて下がる時は、最も被害が広がる場面である。少しでも安全な退却を支援するべく、黒地竜は一斉にブレスを放ち、大地を揺るがす。
ただの歩兵による軍団であれば木端微塵に吹き飛ぶブレスの一斉発射も、戦人機が相手となれば牽制程度にしか機能しない。それでも、こちらが背中を向けるその瞬間に、回避行動で遠ざけられるだけでも十分な効果だ。
ブレスが炸裂した直後、本来の目くらまし効果を目的として、濛々と黒煙弾が放られ戦場を闇で覆いつくして行った。
「退くぞ、ガルダン!」
「ちっ、仕方ねぇな……」
団長に手を引かれるように、渋々といった様子でガルダンも後退に移った。
一番前で戦っているガルダンは、一転して退却時には最後尾の殿となる。その自覚があったため、振り向かずに前を向いたまま、大型ブースターを噴いてバック走行で下がる。
油断なくメイスを構え、眼前に広がる濃密な闇を睨んでいたが、
『逃がすかよぉ、このデカブツが!』
『テメーはここで死んでけ、鈍亀野郎!』
牽制や煙幕をものともせず、今こそ好機と果敢に攻めてくる敵機が現れた。
それも独断専行の一機や二機ではない。しっかり統制のとれた部隊が、殿となっているガルダンへと襲い掛かった。
「ぐっ、このぉ……ぐわぁあああああああああああああ!」
「ガルダン!」
ついに敵機の連続攻撃を前に、ガルダンの巨躯が沈む。
メイスを握っていた腕が斬り飛ばされ、さらに巨体を支える足も一本、貫かれて機能を喪失。勢い込んでバランスを崩したため、スタビライザーの安定機能を振り切って30メートル級の巨躯が倒れる。大きな塔が根元から折れて崩れ去ったような轟音を立てて、ガルダンは大地を転がった。
「クソ、が……」
倒れた衝撃と倒された屈辱。機体のダメージ状況、即時復帰に必要なプロセス――――様々な感情と情報がガルダンの電脳を駆け抜けて行くが、すでにトドメを刺さんと迫り来る敵機は目前。
立ち上がる隙もなく、このまま全身を貫かれるのみ。
『――――『朱薙』』
真紅の斬撃が、眼前に迫っていた敵機を退ける。
何が起こったのか、ガルダンが正確に認識するよりも前に、赤い機体が軽やかに舞い降りた。
『久しいな、ガルダン』
「テメーは……ルドラか。けっ、随分と良いナリになってんじゃねぇかよ」
『それはお互い様だろう』
友軍機の識別信号、コードネーム『カーミラ』、と電脳に受信しながらも、一目でガルダンには相手が誰だか分かった。
ルドラ、かつて盗賊の用心棒というアウトローな仕事を、共に請け負っただけの薄い関係性の男。しかし自分のことを馬鹿にしなかった、数少ない男でもあった。
「テメーの世話になるとはなぁ」
『ここは私が請け負おう。早く要塞まで戻れ。お前の小さな主が用意したパーツは、まだ残っているだろう』
「分かってんだよ、んなことは……いいか、すぐ戻ってくっからな! 俺様より目立つんじゃあねーぞ!」
『さぁな、それは相手次第だ』
甚だ不本意だと喚きながらも、ガルダンは体勢を立て直し、ブースターを全開に噴かせてこの場を離脱した。
それに続いて、団長以下、巨獣戦団の団員達も素早く退いて行く。この戦場においては小柄な彼らを、殿という敵の圧力を一身に受ける立場につかせるワケにはいかない。
そうしてカーミラ単機がこの場に残った。
目の前には、油断なく体勢を立て直したスプリガン部隊。さらにその後方から、いよいよ動き出した近衛ノルン隊が迫り来る。
圧倒的な敵戦力を前に、ルドラはただ満足気な笑みを浮かべた。愛用の黒い刀を握りしめて。
◇◇◇
「全艦、前進! ここで勝負を決めるのです!」
出撃したエカテリーナに代わり、旗艦『クリームヒルト』のブリッジで指揮を執るのは宰相でもあるナタリア・フレデリーケ公爵。
代々、何人もエカテリーナへ仕えてきた、オルテンシアでも名門中の名門であり、今代の当主たるナタリアもまた、その家名に恥じぬ辣腕を奮ってきた。
そして今この時も、戦局を決定づける重大な決断を下す。すなわち、総攻撃の号令をかけたのだ。
空ではついに魔王と女帝の一騎討ちが始まり、シールドを剥いだ天空戦艦を落とすべく航空部隊が猛攻撃を仕掛けている。
一方の地上でも、黒竜を中心とした帝国軍が粘り強く抵抗を続け、オルテンシアの主力たるスプリガンの大部隊を相手に戦線を維持していた。
古代以来では初となるだろう、巨大戦力のぶつかり合いは、このまま時が過ぎれば均衡は崩れ、決着を迎える。だが、それをナタリアは安全な後方に座して待つことを良しとはしない。
言葉通り、今こそ勝負を決める時と心得て。
旗艦と随伴するエーテルクラフトの艦隊は、戦人機の軍団を運用するために欠かせない重要施設であり、本陣でもある。故に、万が一にでも主力が出払っている間に壊滅したりはしないよう、女王を守る近衛騎士の戦人機部隊が守備につくのが定石であった。
しかし絶対無敵を誇ったオルテンシアの戦人機軍団の力を、真っ向から受け止める力を帝国軍は発揮している。戦力として同格の相手と認めざるを得ない。
だからこそ、全ての力をつぎ込んで攻める決断も下せるというもの。
本来なら安全のために後方に陣取る本陣たる艦隊と護衛の近衛も、地上での攻撃に参加させるのだ。
エーテルクラフトには、天空戦艦のような大砲こそ積んではいないが、それなりに古代の武装は搭載してある。小口径の砲や対空用の機銃、迎撃ミサイル、これらの武装は戦人機が無くとも、現代においては決戦兵力になり得る威力を誇っている。
艦隊による砲撃支援と、ノルン隊というオルテンシア最強の戦人機部隊を投入すれば、スプリガン相手に何とか堪えていた敵の前線は確実に破ることが出来る。
この均衡を崩せば、真っ直ぐ敵要塞まで迫り、そのまま壊滅。
地上の帝国軍を一掃できれば、エルドラドを中心とした敵の空中戦力も退かざるを得ないだろう。
そして戦人機に対抗しうる精鋭戦力を集めた帝国軍は、この戦いで退けば、もう二度とこの規模の戦力を整えることはできないであろう。
オルテンシア軍もこれまでに無い大損害をすでに被っているが、それでもエカテリーナと近衛が残っていれば、パンドラを征服するには十分だ。
「帝国軍が撤退してゆきます」
「決断が早いわね……いえ、こうなることも予測していたのかしら」
そのまま近衛のシルフィードが最前線に突撃できれば、その圧倒的な性能によって、疲労を見せる帝国軍を蹂躙できたことだろう。
しかし、そうした乱戦に持ち込まれるより前に、帝国軍は素早く前線を下げ始めた。
「敵戦人機が殿につきました」
「あの赤い機体は危険だわ。無理に攻めずとも良いでしょう」
要塞側面を襲わせたヨハンナ隊を単機で壊滅させたのは、『カーミラ』と名乗った赤い戦人機である。
どうやらネヴァーランドの秘密兵器らしく、帝国との同盟をいいことに、オルテンシアとの一大決戦に参戦してきたようだ。
その性能と特徴的な外観から、ただの汎用機でもなければ、エリート用の高性能機でもない。恐らくは、特別なエースのための専用機だろう。
その専用機『カーミラ』を駆るのは、ネヴァーランドの王子。本来ならば、王位を継いでいた、現女王ルドミラの実の兄ゼルドラスだということも、堂々とした名乗りによって判明している。
「陛下と同じように、王家の血筋の者だけが乗ることのできる、特別な機体……スプリガンでは、荷が重い相手です」
武装は黒い刀一本きりだが、赤い斬撃を飛ばす武技を戦人機で繰り出す様を見れば、通常のパイロットではとても相手にならないことが分かる。
半端に攻めれば、被害が増える一方。
殿として立ちながらも、縦横無尽に駆け回りオルテンシアの攻勢をカーミラは凌いでいる。
「敵戦人機、さらに二機接近……『リンドヴルム』です」
「これほどの性能とは、本当に奪われたのが惜しいわね」
カーミラに少し遅れて、黒い新型たるリンドヴルムも駆け付けてきた。
無論、最初にその二機と接敵したイールス隊も大損害を被り、すでに撤退している。
戦人機を持たない以上、操縦したのは機体を奪ったその時が初めてのはずだというのに、近衛に迫る操縦技術を、あの二機は発揮していた。
まるで、古代から本物の戦人機パイロットが蘇ったかのよう。いや、カーラマーラで巨大シェルター型のダンジョンを本拠地とする帝国ならば、古代のエリートパイロットが氷漬けで眠っていたのかもしれない。
真相はどうであれ、事実として十全な戦闘能力を発揮する戦人機が敵にいる。
カーミラとリンドヴルム二機。スプリガンで無理に攻めれば、被害が拡大する一方だろう。
「けれど、焦ることはありません。このまま要塞まで追い込めば十分です」
戦人機のスケールとなれば、要塞とてそこまで頼れるものではない。
帝国軍もかなり疲弊しており、地上の主力となる黒竜も、すでに半分近く戦闘不能となっている。エーテルを補給すれば戦い続けられる機械兵器たる戦人機と、生命力を有し肉体的疲労のある生体兵器の差だ。
黒竜にトドメは刺せずとも、消耗して変身を維持できなくなれば、戦力としては消え去ったも同然。即時の戦線復帰も敵わない。
そしてそれは、巨獣戦団など加護を使った戦力も同様である。
そんな疲弊した帝国軍が要塞に籠ったところで、防衛力はそれほどでもない。攻略するに三倍の兵力も必要はないだろう。
敵が一か所にまとまれば、こちらも再び隊列を整え、今度こそトドメを刺すべく一斉攻撃にかかれば、それで勝負は決まる。残存戦力は、確実に艦隊と近衛が丸ごと残っているオルテンシアに分があるのだから。
「敵軍、要塞へ入りました」
「これより要塞を包囲する。合わせて、部隊の再編も急いでください」
多くのスプリガンが脱落したことで、部隊が壊滅状態となったのも少なくない。それらを再編成し、再び部隊を組ませる。
ヴァルキリー達は基本的に同じ部隊で訓練を積み、連携の練度を上げるが、他の者と組めないワケではない。
これもまたエカテリーナが指示した古代の軍事教練の通り、同じ戦人機を駆るパイロットなら、誰とでも基礎的な連携がとれるよう訓練されている。
そうして、手早く再編を終えたオルテンシア軍は、要塞を半包囲するような陣形をとって、一斉攻撃に備えた。
一方の帝国軍は、防壁の上に残り少ない黒竜などの戦力が並び、徹底抗戦の構え。
しかしながら、近衛も加わったオルテンシア軍を前にすれば、酷く疲弊しボロボロの彼らは、限界寸前といった様子に見えた。
「さぁ、女帝陛下へ勝利を捧げるのです! 全軍、攻撃開始!!」
オープンチャンネルで流れる鬨の声をBGMに、戦人機軍団が一斉に動き出す。ブースト全開で要塞へと迫り、跳躍すればそのまま防壁など飛び越せるとばかりの勢い。
対する帝国軍は案の定、エーテルビーム対策の煙幕をばら撒くのみで、これといって有効な攻撃は飛んでこない――――
「――――咲き誇れ『ヴァイラヴィオーラ』」
攻撃は、地面から生えてきた。
それは黒々とした、巨大な茨。鋭い棘が戦人機の装甲を引っ掻き、激しく火花を散らしながら、大蛇のように蠢きその鋼の巨躯を絡めとって行く。
その茨はそこかしこで、要塞の周囲を覆う新たな防壁のように生えだし、暴れ始めた。
茨はどんどんその範囲を広げており、見れば要塞そのものにも這いまわり……やがて、天守を飲み込むような巨木の幹を形勢し、その先端にて満開に花開いた。
敵を食い千切らんと、大口を開く不気味な竜の顔となって。
「なっ、なんなのですか、アレは……」
エカテリーナによって、パンドラのどの国よりも古代の技術を研究してきた。故に、天空戦艦が空を飛んでも、既知の存在であるが故に、驚愕することもない。
だがしかし、目の前に現れた巨大な、あまりにも巨大な植物のドラゴンは、どんな古代の資料にも存在しない。
それも当然である。何故なら、これはただ偶然に誕生しただけの存在であり、ファーレンに名を遺す偉大な呪術王が、その制御法を確立した、奇跡と歴史の産物なのだから。
かくして、戦人機軍団に対抗する帝国軍最後の手段、竜妖花『ヴァイラヴィオーラ』は、ファーレンの巫女ブリギットによって、オルテンシア軍の前にその芳しい牙を剥いた。




