ベヒモス 五
いつこの男は、この足の下が巨大な空洞だと気づいたのだろう。
その石筍を利用しようと思いついたのだろう。
ベヒモスを貫く巨大な岩の槍より、地鳴りのような断末魔よりも、この男が怖いと思う。
「おい、さっきの衝撃波で全部の魔力を使い果たしたんじゃないのかよ」
「こんな時に備えて、日頃から魔力を少しずつ『結界石』に溜めていた。お前こそ、どれだけの魔力の器があったら、こんなどでかい槍を作れるんだ」
互いを睨んだまま笑う。手の内を全て明かさなくてもいい、相手が出鱈目に強いことだけは分かるのだから。
「さて、魔核だな」
「二本の尾の上と言ったか?これは手こずりそうだ」
ジオがもう一度、脚に魔法をかけ穴に飛び込んだ。衝撃吸収の魔法だろう。
俺は灯を穴にぶち込み、同じ魔法で飛び降りる。
「結界石、幾つ隠し持ってんだよ……」
「そんなことより、足場がとてつもなく悪い。直接こいつの体を踏むな、血で滑る」
生臭さを堪え、太腿から尻に向かう。灯をもう一つ空中に放つ。
「おい、お前の顔よりデケェぞ。くり抜くしかねぇかなあ」
「そういう小賢しい魔法得意だろ?英傑」
「器用と言ってくれよ」
ジオが試しに剣を突き立てるが、案の定刃は刺さらない。皮膚の厚さと硬さが尋常じゃない。
次に剣の先に魔法をかけ、硬度を上げた剣を魔核目掛けて下ろす。削れた皮膚から魔核を引き剥がした。
「お前、変わったよなあ」
「何がだ」
「伝説級の魔物を倒したのに、そんな悲しそうな顔すんなよ」
ジオに言われて、自分がアオイのことを考えていたことに気付く。
「結果的に沢山の人を、町を守ったんだぞ、お前は」
「俺は何もしていない、全て英傑ジオの手柄だ」
「こらこら、逃げんな。お前ほんとそういうの興味ないんだな」
こんなやり取りを、五年前にもした。
長かったようで、昨日のことのようにも感じる。もっとも、あの時は『生きていて良かった』が真っ先に浮かんだ感情だったが。




