ベヒモス 二
ベヒモスは草食の魔物だ。人間を食べることはないが、踏み潰されたり、牙で突き上げられればひとたまりもない。
今この状況は、ベヒモスはこちらを認識してはいるが、敵とは見做していないに過ぎない。
こちらが攻撃を仕掛けた瞬間、死闘が始まる。
「ジオ、足止めの魔法を使うか?」
「いや、それよりあいつの足元の地面に穴を空けてくれ」
「?何のために」
「確かめる為だな」
訳が分からないまま、足の置かれた地面を四箇所、円状にくり抜くように魔法をかける。
地面の厚さがどれ程のものか分からないが、人一人分の高さもくり抜けば十分だろう。
ベヒモスは全身がずしり、と沈んだことにさして動揺もしていなかった。あの体の大きさならば当然だ。
しかし突如バランスを崩して、化け物は倒れた。ーーー何が起きた。
「踏み抜いたな、あいつ」
「おいジオ!魔素の気配で俺たちの仕業だってバレている!こちらに矛先が向くぞ」
「ああ、俺が行ってくるから、お前はなるべくあいつのいる地面に、デケェ衝撃を与えてくれ」
ベヒモスの雄叫びに一瞬誰もが怯む。あのオヤジ以外は。
ジオは真正面からベヒモス目掛けて走っていき、剣士たちは『正気か』『狂ったのか』と口走っていた。
俺はその隙に詠唱を始める。あいつの『デケェ』は最大級の、を意味する。つまり持てる知識と魔素を全てぶち込む、ということだ。
「おい、あんた!放っておいていいのか、あいつ、犬死にするぞ!!」
「死んだらランクが上がるな。良かったじゃないか。それより万が一ベヒモスがこちらを攻撃しだしたら、俺を守れ。俺の詠唱が完成するまで、絶対に止めるな」
剣士たちが理解できない、という顔で俺を見るが、別に理解を求めていないので構わない。
ジオは高く跳び上がり、その額から長い鼻に剣を突き立てていた。あいつ、魔法を使ったな。
「あの男、ただの剣使いじゃないのか」
「まさか、魔法剣士!?あの動き、只者じゃないぞ」
「それを見抜けるなら、流石はAランクのパーティといったところだな!俺は今から地面に魔法を叩き込む、衝撃に巻き込まれるな」
アオイに危険だから飛行の魔法は使うな、と止めたばかりだと言うのに。あれだけの高さで戦うことが、どれ程恐ろしいことか分かっていないのだろうか、あの男は。
あるいは全て分かった上で行動していたのだとしたら、文字通りイカれている。




