ベヒモス 一
巨大な脚が赤茶色の大地に下ろされる度、地面が揺れ、その不気味さと恐ろしさに身震いする。
「……見つけやすくて助かるな」
幸い、すぐにベロニカには辿り着けない距離だ。近隣に町や村がないのも幸運だった。
草一つない岩肌の上では、この化け物の姿がよく見える。
カバのような、象のような、巨大な口にそり返る牙。この大きさになると魔核はどれほどの大きさになるのか、見当もつかない。
化け物の前に小さな人影がいくつか見えた。あのうちのどれかがジオだろう。
「……笑わせる、『英傑』か」
馬を走らせて近寄れば、何事かと人影たちは振り向いた。ジオは目を見開いている。
「ティア!!」
「久しいな、ジオ。お前の無事に興味はないが、アオイの悲しむ顔は見たくないからな」
「そんな蚊の鳴く声で憎まれ口叩かれても、何も堪えねぇよ」
思わず舌打ちする。余裕ありそうじゃないかこのオヤジは。
「魔核はどこだ?さぞかしデカいんだろうな」
「二本の尾の上だ、魔核だけ取るのは物理的に不可能だろうな」
「倒すしかないということか」
アオイの顔が浮かぶ。きっと悲しむだろう、相手がこんな化け物であっても。殺さずに済むのなら、それが一番だと信じているのだから。
「おい、あんた!ジオの仲間なのか」
「ただの知り合いだ。アストランティア、魔法使い。Aランクだ」
「そりゃ助かる、俺たちは『ジオ』を信用していない。英傑と呼ばれようが、そいつはCランクだぞ?」
思わず嘲笑ってしまう。こいつら、ランクを何だと思ってるんだ。
「そこのお前は剣士、そっちは格闘家か。弓使いもいるな、では聞こう。この状況で、最善の行動は何だ?」
「そりゃ、アストランティア、あんたの魔法で足止めし、弓で遠方から、俺たちが近距離でーーー
「合っているのは、俺の魔法で足止めの部分だけだ。後はジオに任せて下がっておけ、それが正解だ」
「何だと!?」
『英傑ジオ』の名だけが一人歩きして、誰もこいつが何を、どう成し遂げたのかを正しく把握していない。愚かなことだ。
俺すらも、足手纏いかもしれないというのに。




