そこは口じゃねぇ、鼻だ
「……美味しい、アオイは本当に何でもできるのね」
「はは、これぐらいしか出来ないよ」
「あら、アリッサムなんか美味しさのあまり泣いてるわよ?」
「ち、違げーよ!!まだ傷が痛えんだ!!」
「味、なんか足りなかったら言って?アリッサム」
「ちちち違う!美味い!めちゃくちゃ美味いぞかーちゃん!あつッ」
体の具合からまだ自分では食べれないだろう、とエキナさんには俺が、アリッサムにはティアさんが食べさせている。
別に内臓が弱ってるわけじゃなかったから、もっとガッツリした食事でも良かったかな。
「ティアくん、吉田ジオさんに会ったらしいよ!すごい偶然だよなあ」
「ジオ……?一体、何をしに?」
「分からないけど、俺が谷を魔法で渡ろうとしたところを止められて、僧侶を代わりに見つけてくれたんだ。無事だといいんだけど」
「谷を魔法で……?どうやって?」
「空を飛ぼうと」
「空を!?無茶苦茶だ」
ティアさんが叫んだ。アリッサムは乱暴にスプーンを口に突っ込まれてむせていた。
「空飛ぶ魔法なんて、成功率は限りなく低く、危険が大きすぎて誰も使わない……使えないぞ、アオイ。ジオが止めてくれて良かった」
「やっぱダメかぁ、飛ぶっていうより浮く程度だったし」
「浮いたのか!??」
「ティアの野郎!そこは口じゃねぇ、鼻だバカヤロー!!」
俺、なんかまずいことしたかな。
そめちゃんは目を輝かせてるし、ティアさんは口元を押さえて震えている。
「さすが異世界……考えることがまるで違う。いや、天才かもしれない……いやでも危険すぎる……」
ティアさんが独り言ゾーンに入ってしまった。アリッサムが早く食わせろとキレているが、まるで耳に入ってないようだ。
「……そうだ、それでジオはどこへ?無事ってどういうことだ?」
「来てくれた僧侶の人の代わりに、依頼を引き受けてくれたんだ。ベヒモスを倒すって」
「……………ベヒモス」
ティアさんの目が見開かれ、今までに見たことのない険しい顔をしていた。
「ベヒモスが出たのはどこだ?アオイ」
「北……って言ってたかな、ティアさん、ベヒモスって強いの?」
「陸の上では最強最悪の魔物と呼ばれる、その強さは伝説級とも。……一人で向かったのか?」
「ううん、僧侶さんのいたパーティの人と一緒だよ……ねえ、ジオさんは」
「アオイ、アリッサムの餌を頼む。俺はジオのところへ向かう」
「んだとコラァ!ティアの野郎!」
ティアさんはローブを纏い、自分の荷物を背負うと、宿を急ぎ足で出て行った。
俺たちは互いに顔を見合わせ、それでも何も出来ない歯痒さを噛み締めた。




