アオイの手、あったかい
どれぐらいの時間が経っただろう。横で祈っていた僧侶の女性は、少しも動かなかった。
俺は膝が限界で、途中から立ち上がってしまった。
「……私にできることは、全てやりました。ただ、体力をかなり消耗しています。後はこの方の回復力を信じるしかありません」
「ありがとうございます!」
こんな時、言葉でしか感謝が伝えられないのがもどかしい。報酬を渡す訳にもいかないし。
「……あの、本当に俺、何も出来なくて……でも助かりました、何か力になれることがあれば」
「いえ、……英傑『ジオ』に会えた、それだけで光栄ですわ」
「英傑?」
「知り合いとお見受けしましたが、ご存知ないのですか?」
その時宿の外が急に騒がしくなった。ケルベロスが嬉しそうに吠える、アリッサムを背負ったティアさんと、そめちゃんが入ってきた。
「では、私はこれで」
「ありがとうございます、またどこかで!」
「……今のは僧侶か、幸運だったな」
ティアさんは息も絶え絶えだ。アリッサムをベッドに下ろすと、自分も座り込んでしまった。
「吉田、エキナさんは!?」
「解毒のために祈ってもらった。さっきより顔色は良くなってるけど……ねえ、アリッサムは無事なの?」
「肋が数本折れている。エキナの力を借りたいのだが……」
苦しげに呻き、脂汗を流すアリッサムを見ていると、自分のことのように辛い。
その時エキナさんの指先が動き、小さく声が聞こえた。
「……エキナさん!」
「ばう!」
「……やだ、俺、皆に迷惑かけちゃった……わね。ねえ、コカトリスはどうなった?……アリッサムは?」
「コカトリスの魔核は取ったよ、殺してない。ただ、あいつは味方には出来なかったんだ」
「そう、でも、皆無事で良かった」
「……すまないエキナ、目を覚ましたばかりだが、アリッサムの肋を治癒できないだろうか」
「!分かったわ、……やだ、起き上がれない」
俺とそめちゃんがエキナさんの上体を支え、エキナさんがアリッサムの脇腹に手をかざす。魔法とは違う、温かい、柔らかい光だ。
「…ッ、すまねえ、エキナの兄ちゃん」
「いいの、動かないで。……ごめんね、俺ももう少し、寝てていい?」
「大丈夫だよ!ご飯の時間になったら起こすから」
「ふふ……アオイの手、あったかい」
エキナさんはそのまま倒れこみ、目を閉じた。このまま目を覚まさなかったら、と思うと、この場を離れるのが怖くなった。
「……吉田、お疲れ。厨房お借りして、メシ作ろうか」
そめちゃんの手が肩に置かれる。その言葉で、俺はやるべきことが見えた気がした。




