橋の向こう側だ
ベロニカのどこへ行けばいい?
宿屋でエキナさんを寝かせて、ケルベロスに付き添いを頼み、ギルドへ駆け込んだ。受付前の人を押し分けて、叫ぶ。
「すみません、仲間がコカトリスの毒にやられました!どなたか助けてください!」
あたりがしん……と静まり返った。
皆が俺の方を一瞥するが、返事をくれる者は誰もいない。
「パーティに僧侶はいないのか」
「僧侶がやられました、動けません」
「そりゃあ……」
気の毒だな、という呟きが聞こえた気がした。
受付の恰幅のいいおじさんが口を開く。
「コカトリスの猛毒は時間との勝負だ、その辺の薬草や解毒の魔法じゃ歯が立たない。毒に詳しい学者か医者、僧侶がいればな……」
「この町に、それらの人はいませんか!?」
「橋の向こう側だ」
絶望感が俺を襲う。先に橋の修理を引き受けておけば。でもアリッサムがいない今、誰が修理出来るのだろう。
ティアさんを待つしかない?それじゃ先に帰ってきた意味がない。
「空をーーー飛べればいいんだ」
ギルドを走って抜け出る。町の中心部、谷の際へ向かう。
思ったより谷底が深い。向こう側が遠い。失敗したら助からないだろうと思うと、杖を握る手が震える。
「……見え〜ない〜〜つばさ〜広げて〜、羽ばたけ〜僕ら〜〜未来へ〜〜」
ひょろひょろとした、情けない歌声が響く。イメージしろ、背中の翼を広げ、高く飛ぶ。
誰かに持ち上げられたように、くっと身体が宙に浮かぶ。その高さ、十センチほど。
思うようにコントロールが効かないが、じりじりと前方へ進む。落ちるんじゃないか、という恐怖との戦いだ、多分イメージできなくなった瞬間、俺は谷底に落ちる。
ーー急げ!エキナさんを助けなきゃ!
そう思って前のめりになり、町の端にかかる橋の先へ向かう。通行止めのロープを越えた、その瞬間。
「おい、何やってんだ!!」
誰かに胴を掴まれ引きずり下ろされた。
魔法は効力を失い、地面に落ちる。俺を掴み下ろした人ともみくちゃになって倒れた。
「すみま……ジオさん!?」
「お前さん、何早まったことしてんだ!死ぬところだったぞ」
銀の鎧にカールした黒髪と黒髭、間違いなくジオさんだ。
ジオさんは本気で怒っている。俺はもうどうしたら良いか分からなくて、喉元までせり上がった何かを押し留めるのに精一杯だった。
「ジオさん、エキナさんがコカトリスの毒にやられた!どうしよう、治せる人が『こちら側』にいないんだ!エキナさん死んじゃう!!」
「落ち着け坊主、頭を冷やせ。お前が死んでも仕方ないだろう」
ジオさんは俺を落ち着かせるように、背中を撫でた。俺はガキかよ。ガキでも何でもいい、エキナさんが助かれば。




