強がりを突き通そう
長旅の疲れと夜遅くまで飲んで食べていたおかげで、皆泥のように眠って、起きたのは昼過ぎだった。
「……のど、かわいた」
蛇口を捻る。水をコップに注ぎ、一気にあおる。冷たい水が体に沁みた。
洗面台の鏡を見る。クマが酷い俺と、後ろにすごい寝相のそめちゃんが見えた。
どうしたらいい?俺だけ『帰れるかもしれない』という選択肢が出てきて、一番相談したい人にだけは絶対に言えない、なんて。
でも、キツネ娘にはまだ帰らないって言ってしまった。強がりだったとしても、このまま帰ったら絶対後悔する。その選択肢がある限り、俺は甘えてしまうから、強がりを突き通そう。何があっても。
「……アリッサムたちは起きたかな」
廊下に出ると、受付の人に『おはようございます』と言われる。もうおはようの時間ではないが、お辞儀を返した。
宿の外で一人、稽古をしているアリッサムが目に入る。
「…かーちゃん!おはよ」
「おはよ、昨日なんか聞けた?」
「何も。そもそもアルストロメリア行ったことのあるヤツが少ねえのかな」
「そんなに遠いの、アルストロメリアは」
「この国の北の果てだからな。それに、行くにはとんでもなく険しい山を越えなけりゃいけねえ」
一つの疑問が浮かぶ。ルドさんの息子は、何でアルストロメリアに行ったのだろう。そんなに魅力的な土地なのかな。
「アリッサム、本当のかーちゃんに会いたくないの?今のアリッサムなら、かーちゃんきっと褒めてくれんじゃない?」
「…………本当のかーちゃんは、ずっと眠ってる。俺のこともきっと分かんねぇよ」
何気ない言葉がひどく無神経だったことを恥じた。後悔してももう遅い。
「……ごめん」
「謝るなよ、かーちゃん何も悪くねェ。俺は寝たきりのかーちゃんの世話を、家族に押し付けてフラフラしてる、最低なヤローだ」
アリッサムは本当に、出会った時から変わったと思う。きっと俺と同じで、まだ旅を続けたい理由が、アリッサムの中にあるんだろう。
「アリッサム、また稽古つけてよ。しばらくサボってたから、鈍っちゃったけど」
「おう、いいのか?じゃあ組手からやるか。……かーちゃん、ズボン破れちまったんだけど……」
「布あてて、縫っておけばいい?裁縫あんまり上手じゃないけど」
「履ければ何でもいい、サンキュな」
なかなか強くはなれないけど。
料理をして、洗い物して、洗濯をして、掃除をして。
心が整っていく感じがする、すべきことが見えてくる気がする。
そういう役立ち方もあるよね、きっと。




