なんで涙が出るんだ
あんなに騒がしかった周りの音が、一瞬遠のいた気がした。
キツネ娘の目が、底知れないものに見える。
「戻るって、どこに?」
「お前は死んでない、生きたままこの世界に招かれたのだ。元の世界に戻らぬか?」
「招……ちょっと、待って」
帰りたかった。ずっと帰りたくてたまらなかった。暑ければエアコン、退屈ならゲーム。連絡を取りたいと思ったらスマホ、腹が減ったらコンビニ。
そんな世界をどれだけ欲しただろう。
二度と会えないかもしれないと思って記憶に蓋をした、とーちゃん、かーちゃん、友達。
魔物と戦わずとも、尻の痛い馬車に乗らずとも生きていける。はずなのに。
ーーーなんで涙が出るんだ。
「お前、どちらにも居たいんだな」
「……そうみたい、俺、思ったよりこの世界、好きだったみたい……」
「答えはすぐでなくとも良い、多分神は待っていてくれるだろう」
「ねえ、そめちゃんは?そめちゃんも生きたままこっちの世界に来たの?何で俺たちは『招かれた』の?」
「あいつはもう戻れない」
頭を殴られたみたいな衝撃が走った。
その言葉の意味を理解できない、したくない。
何で、俺だけが。
「気にするな、お前のせいではない」
「……でも、やだよ、俺が今元に戻ったら、そめちゃんと今生の別れになるってこと?そめちゃんをこの世界に置いてけぼりにすんの?冗談だろ?」
「気の済むまで、いれば良い。やりたいことがあるんだろ?」
「そうだよ……ルドさんと約束したんだ、息子さんに帰ってこいって伝えたい。オルレアさんのおじいちゃんの病気、治せる方法を探したい。もう一回、ジオさんに剣を教えてって頼みたい。この世界も、俺らの世界みたいに、平和で安全で、帰りたい時に帰れる世界にしたい、少しでも!」
「泣くな、小僧」
周りを見渡せば、知らない人と楽しそうに飲んでるそめちゃん、腕相撲をするアリッサム、語りこんでるティアさんに、ケルベロスを見せびらかすエキナさんが目に入った。
このまま、俺だけ帰るなんて出来ない
やりたいことを全てやってからじゃないと、俺は納得して帰れない。




