旅の理由にならないぞ
『ルド』の開店前、俺たちの修行が始まる前の少しの時間に、皆に集まってもらった。
「かーちゃん、改まって話って何?」
「ねぇ、その……皆、このままでいいのかなって」
「このままとは?」
「皆、行きたい場所とかやりたいことがあるなら、俺たちに構わずに行っていいし、俺たちの力が……万が一必要なら、一緒に旅立つけど」
アリッサム、ティアさん、エキナさんがお互いを見合った。
「俺はずっとここでもいいわよ?ここの生活、刺激はないけど楽しいわ!」
「俺はかーちゃんの側でもっと褒められてェな!」
「……俺は困るな、そろそろアオイたちの世界へ転生する準備を始めたい」
「急にどうしたんだ吉田、冒険してみたくなったか?」
そめちゃんがハッシュドポテトを食べながら喋ってる。朝から何てカロリー高いもん食べてんだ。
「いや、ここに居続けていいのかなって……皆をここに縛ってないかなって思ってさ」
そめちゃんが残りのポテトを口に入れ、手をぱん、ぱんとはたく。
「吉田、それは旅の理由にならないぞ」
「どういうこと?そめちゃん」
「旅に出るという行為は、即死に繋がる可能性がある。曖昧な理由で皆を巻き込む訳にはいかないだろう」
そめちゃん、こういう時真面目になるの教師っぽくてずるいよ。
「このままで『いい』なら、いいんだよ、吉田」
「……そっか。でも、ルドさんの息子……」
「アルストロメリアの勇者だろ?それだけ腕が立つならきっと無事だろうし、また手紙を寄越す可能性もある。それだけを理由に旅に出ることを、ルドさんは望んでいたか?」
皆が元気ならそれでいい、ルドさんはそう言った。何より、ケルベロス退治に向かって帰ってきた時の、ルドさんのほっとした顔が忘れられない。
「……そめちゃん、俺、バカみたいなこと言うよ。皆が帰りたい場所に帰れるような、そんな世界に変えることって可能かな」
「……難しいことを言うな」
「魔核を取れば仲間になれる魔物もいる。それを広めたり、あるいは俺たちが魔核だけを取るとか、そういうこと出来ないかな」
「命を落とすのは魔物だけじゃないぞ。人間は人間同士争う生き物だ。人間の争いを止めるのは不可能に近いぞ?」
「でも、ゼロじゃない」
皆が黙って俺とそめちゃんを見てる。恥ずかしくなるようなことを言ってる、自覚はある。
「ルドさんの息子が帰りたくないのなら、その理由をせめて知りたい。あんな温かい場所、帰りたくならない訳がない、……と思う」




