陰陽師と堕ち人
その日は曇天だった。
突如、探偵事務所に一人の少年がやってきた。白い狩衣に身を包んでおり、長い黒髪を後ろで束ねている。
赤いルビーのような瞳に僕とサユキが映る。
間違いない。陰陽師だ。
「あの……貴方が白神悠斗さんですか?」
僕は陰陽師が事務所に訪れたという状況が脳で処理しきれず、一瞬フリーズしてしまうが、すぐに我に返り「はい。そうですよ」と言った。
「ご依頼ですか?」
「はい……良いですか?」
「立っているのも疲れますよね? よかったらこちらのソファに掛けて下さい」
サユキがスムーズに陰陽師の少年をソファに誘導する。
「あ、ありがとうございます」
彼はソファに座った。
僕は彼の眼前の席に座る。
「コーヒーです。よかったらどうぞ」
サユキは続けてコーヒーが注がれたカップを彼の前に置いた。
「あ、すみません」
少年は軽く会釈してそう礼を告げる。
サユキは「はい」と満面の笑みで答えた後、僕の隣に腰掛けた。
「それで、ご依頼というのは?」
僕は彼にそう訊いた。
「──お願いします。兄を止めて下さい」
彼は開口一番、そう告げた。
僕達は詳しく話を聞くことにした。
依頼人の名前は土御門大地。十九歳。陰陽師を総括する組織・『陰陽連』に属する陰陽師の少年だ。彼の話によると、大地さんの兄である土御門裕太が『陰陽連』を抜けて『堕ち人』になり、人々に危害を加えようとしているのだと言う。
「はじまりは、母が亡くなったことでした。通り魔事件に遭い、母は腹部を刺されて他界しました。それ以来、兄は現世の人々を憎むようになりました。やがて『陰陽連』を抜けて、『堕ち人』になってしまったんです。そして『占法』を使って人々を襲おうとしています。被害が出る前に、兄を止めたいんです。お願いします」
彼は頭を下げてそう言ってきた。
「大地さん、頭を上げて下さい。勿論、協力させてもらいます。貴方は依頼人としてこの事務所にやって来たんですから。依頼人の悩みを解決するのが探偵の仕事です。僕達に任せて下さい──」
次の刹那、白いパーカーのポケットに入れていたスマートフォンが鳴った。
スマートフォンの画面を見ると、赤城刑事から着信が来ていた。何か緊急事態だろうか。赤城刑事から連絡が来るなんて滅多にないことだ。
「すみません。少し失礼します」
「あ、はい」
「サユキ。大地さんのことお願い」
「はい。分かりました」
僕は雪女の助手に大地さんのことを託し、席を立って電話に出た。
「はい。もしもし」
「おう。悠斗か」
「赤城刑事。一体どうされたんですか?」
「今、テレビ見てるか?」
「テレビ?」
「百聞は一見に如かずだ。とりあえずニュースを見てみてくれ」
事務所には情報収集材料としてテレビが完備されている。
僕はリモコンを手に取り、テレビをつけてみた。
次の刹那、神経を逆撫でされたかのような衝撃が走る。「稲妻の龍、現る」と見出しが映し出され、曇天の中を五体の稲妻の龍が滑空している様子が目に飛び込んできた。どうやら、龍は雷撃を放っているらしく、各地で落雷が発生しているのだと言う。
「なんだ……?」
僕がそう呟くと背後から「兄さん……」と大地さんの声が聞こえてきた。
僕は思わず振り返る。
サユキも氷色の瞳を見開いて彼を見ていた。
大地さんはテレビの映像を見ながら言った。
「間違いありません。兄の術です」
「これが……」
「クソッ、遅かった。既に被害が出ているなんて……」
彼はテーブルに拳を打ちつけてそう言った。
僕はスマートフォンを再び耳に当てた。
「赤城刑事、僕達で龍を倒します。警察は綾羽市に避難警告を発令して下さい。これ以上市民の皆さんの被害を出したくない」
「そうだな。分かった。気をつけろよ」
「はい」
僕はそう言って電話を切った。
「僕も行きます。兄の不祥事は僕の不始末でもある……手伝わせてください」
大地さんは立ち上がってそう言ってきた。
僕は刀袋から霊刀を取り出しながら「いえ、大地さんは事務所にいて下さい。いくら陰陽師だとは言え、依頼人を危険に晒すことはできません」と言った。
「そんなっ……」
彼は表情に影を落とす。
「サユキ、行こう」
「はい」
僕とサユキは外に出た。
既に曇り空には稲妻の龍がとぐろを巻いていた。
「創成・氷刀」
サユキは氷の刀を二本生み出す。
そして足元に吹雪を発生させ、龍の元まで飛んでいく。
「零明流霊術・浮遊霊陣」
僕は霊術を行使し、身体を浮かせて滑空する。
こうして僕達は稲妻の龍と対峙するのだった。
悠斗さん達は龍を止めに向かってしまった。
僕も何かしなければ。
これ以上被害が出る前に、動かなければ。
待てよ。術の根源を辿れば、兄の元に辿り着けるのではないだろうか。きっとそうだ。その可能性に賭ける。それしか僕には選択肢が残されていない。悠斗さんには「事務所にいて下さい」と言われたが、そう悠長にしていられない。
僕は事務所の扉を開け、外に出た。
狩衣から霊符を取り出す。
「探知・急急如律令」
僕がそう詠唱すると霊符は青く光り輝く。僕は必死に術者の霊力を辿る。頭の中に青い線が広がり、やがてある一点に終結する。ここだ。山の麓の道路に兄がいる。
「転移・急急如律令」
僕は兄の元まで転移した。
青い光に視界が包まれた次の刹那、僕は道路に立っていた。辺りには木々が生い茂っている。
目の前には、兄がいた。
黒い狩衣を着た陰陽師。間違いない。土御門裕太だ。
兄は僕の存在に気づくや否や、笑顔を見せた。
「よう。久しぶりだなぁ。大地」
「兄さん……」
「なんだよ。そんな辛気臭え顔して」
「今すぐ術を解いて」
僕は兄にそう交渉した。
しかし、僕の言葉は彼には届かなかった。
「それはできねえ相談だな」
彼は山の麓から綾羽市内を見下ろす。
空には五体の稲妻の龍が滑空していた。
「これ以上罪を重ねれば、最悪死刑になる。『陰陽連』の陰陽師がどれだけ頭が堅いか、兄さんなら分かるでしょ?」
「それで?」
「え?」
「死刑になるから、なんだってんだよ」
兄は闇が渦巻く瞳を僕に向ける。
「“奴ら”は守る価値すらない烏合の衆だ」
奴ら……。現世に住まう人々のことだろう。
「それは違うよ」
「じゃあ、なんで母さんは殺された?」
「……」
そう。母は理不尽に殺された。そんなことは分かっている。分かっているんだ。それでも、僕は人を見捨てたくはない。困っている人に手を差し伸べる。そんな陰陽師でありたい。
「母さんは殺された。人間にだ。人間は愚かな生き物だ。食物連鎖の頂点に君臨しているからって、なんでも好き放題にできると勘違いしてる」
「……確かに人にも悪い部分はある。それでも──」
「もう良い!」
僕の言葉は兄の怒号によって掻き消される。
「綺麗事はもううんざりだ」
兄は狩衣から霊符を取り出した。
「霊装・鬼丸・急急如律令」
途端、霊符が青色に発光し、一振りの刀に変化した。
「ほら、お前も『占法』を使えよ」
「──兄さんとは、戦いたくない」
「あっそ。言っとくが、俺は容赦しないぜ?」
次の刹那、兄は僕に向けて太刀を振るってきた。
──戦うしか、ないのか。
「霊装・影丸・急急如律令」
咄嗟に霊符を刀に変化させ、兄の斬撃を弾き返す。
刃と刃がぶつかり合う度に火花が散り、大気が揺れる。
「霹靂・急急如律令」
兄は即座に術を行使し、雷撃を放つ。
「ぐっ……!」
僕は雷撃を一身に喰らってしまい、その場に倒れ込む。
「なんだ、もう終わりかよ」
兄ははぁっと溜息を吐いた。
そして僕の首元に刃を突き立てる。
「もう良い。死ね」
兄は刀を振りかぶり、僕の頭蓋を斬り裂こうと動いた。
***
僕とサユキは空中に浮遊し、五体の稲妻の龍と対峙していた。
「サユキ、二体任せても良い?」
「勿論です」
サユキは笑顔で答えた。
「よし、ちゃっちゃと終わらせますか」
「はい!」
僕達は各々刀を構えて滑空した。
稲妻の龍は雷を落としながら僕達に向かってくる。
僕は滑空して間合いを詰める。
そして龍を真正面から迎え撃つ。
「零明流剣術・朧桜・横凪」
水平に太刀を振るい、一体の龍を口から真っ二つに斬り裂いた。
隣ではサユキが二体の龍と対峙していた。
彼女は氷の刀を肥大化させ、二体の稲妻の龍をまとめて斬り伏せた。
あと二体。
僕はそのうちの一体に刃を向ける。
龍には龍だ。
「零明流剣術・八岐頭」
青い刀身から八つの龍が具現化し、稲妻の龍を噛み砕く。
あと一体。
「悠斗さん!」
ふと、サユキが声をかけてきた。
彼女は左手に氷の足場を生成していた。
僕はすぐに彼女の意図を汲み取る。
「──ありがとう」
僕は刀を納刀し、氷の足場に両足を付けた。
「いきます!」
次の刹那、彼女は氷の足場を渾身の力で押し込んだ。
僕は残り一体の龍に目掛けて一直線に空を飛ぶ。
「零明流剣術・居合・──っ」
僕は閃光の如き速さで刀を抜刀した。
「宵影」
青い斬撃を一身に浴びた龍は黒い塵となって消滅した。
僕達は稲妻の龍を倒し終え、地面に足をつけた。
探偵事務所の中に戻ってきたが、そこに大地さんの姿はなかった。
「大地さんがいない……」
サユキがそう呟く。
もしかすれば、単身で土御門裕太を止めに向かったのかもしれない。大地さんは人々の被害が出ることをひどく恐れていた。だとすれば、一人で兄と対峙したとしても何も不思議ではない。
僕は彼が座っていたソファに手を置いた。
「零明流霊術・追跡霊陣」
無数の青い線がソファに迸る。
僕は神経を集中させ、彼の霊力を追った。追跡霊陣は転移霊陣、浮遊霊陣と並ぶ零明流霊術のうちの一つだ。霊力の『跡』を追跡し、対象者の居場所を特定することができる。
頭の中に映像が流れ込んでくる。見つけた。山の麓だ。既に土御門裕太と戦闘を開始している。
「サユキ、手を」
僕はサユキに手を差し出した。
サユキは僕の考えを察したのか、何も訊かずに「はい」と僕の手を握った。
「零明流霊術・転移霊陣」
僕とサユキは大地さんの元へ転移した。
木々が生い茂る山の麓の一画。
視界が青い光から解放されると、状況が一気に頭の中に飛び込んでくる。
大地さんは横たわり、彼に向けて黒い狩衣を着た陰陽師が凶刃を振るっていた。
僕は咄嗟に彼らの間に割って入り、土御門裕太の刀を霊刀でスライドさせ、鍔迫り合いに持ち込んだ。
ギリギリと刀と刀がぶつかり合い、火花を散らす。
「なんだ、お前?」
土御門裕太はそう尋ねてきた。
「霊能探偵、白神悠斗です。貴方が土御門裕太さんですね? 悪いですが、これ以上貴方に大地さんは傷付けさせない」
僕はそう言い放った。
「大地さん、大丈夫ですか?」
背後ではサユキが大地さんの元に駆け寄っていた。
「はい……お二人とも、すみません。お手を煩わせてしまって……」
彼はそう言ってきた。
僕は土御門裕太の剣を弾き返し、間合いを確保する。
「大地さん。貴方は依頼人だ。依頼人は絶対に守る。それが探偵というものです。なので、気にしないで下さい」
僕はそう言った。
「土御門裕太は、僕が止めます」
続けて僕はそう言い放った。
背中を向けている為、大地さんの表情を伺うことはできないが、咽び泣く声が聞こえてきた。
「サユキ、大地さんのこと、お願い」
「はい。任せて下さい」
僕は雪女の助手に大地さんのことを任せた。
「俺を止めるって? 一介の霊能者如きが随分と調子に乗るじゃねえか。知ってるぜ。お前のこと。霊能探偵。綾羽市で怪奇事件を専門に活動している探偵……だろ?」
土御門裕太は剣を肩に担いでそう言ってきた。
「僕のことを知ってるんですか?」
僕は霊刀を構えながらそう尋ねた。
「ああ、勿論。陰陽師の中でもお前は有名だぜ? なんでも『禁忌の霊法』を使ってるらしいじゃねえか。零明流……だったけか?」
やはりその話題が上がるか。僕のことを知っているのだから、無理もない。零明流は霊力が一定以上あれば誰でも使用可能な霊法だ。その為、陰陽師の中では『禁忌の霊法』と称されている。
だが、僕はこの霊法に誇りを持っている。『彼岸と此岸の均衡を守る』という規律を掲げているからだ。
「僕は誇りに思っていますよ。この霊法」
「ああ、そうかい。どんな技が見れるのか楽しみだっ──な!」
次の刹那、彼は一瞬で間合いを詰めて太刀を振るってきた。
僕は即座に霊刀で迎撃する。
刀と刀がぶつかり合う度に火花が散り、大気が揺れる。
「良い。良いねえ! 最高だぜ!」
彼は不敵な笑みを溢す。戦いを楽しんでいるように見える。これが『堕ち人』か。
僕は咄嗟に霊刀を逆手に持ち替え、柄尻で奴の斬撃を崩した。
人に霊法を振るうのはこれで二度目だ。一度目は妖刀の事件の際。殺人犯に振るった以来だ。しかし一つだけ前回と異なることがある。それは相手が陰陽師だと言うことだ。どのような技を使ってくるか見当がつかない。故に加減ができないのだ。
僕は体勢を崩した土御門裕太に向けて刃を振るった。
彼の体躯に青い斬撃が走る。
「ぐあっ……!」
彼は僕の攻撃を一身に浴び、血を吐いてその場に倒れ込んだ。
僕は霊刀を納刀する。
無力化させることには成功した。
あとは、彼の処分をどうするかだ。
「悠斗さん」
ふと、大地さんの声が聞こえてきた。
大地さんはサユキに肩を支えられながら立ち上がる。
「後のことは僕に任せて下さい。『陰陽連』に兄を連れて帰ります。兄にどんな処分がくだるかは分かりませんが、なるべく懲戒処分が軽くなるように交渉します」
「──分かりました。後のことは任せます」
僕は彼にそう返した。
「はい。本当に依頼を受けて下さり、ありがとうございました」
大地さんは深々と頭を下げた後、兄を担いで立ち去っていくのだった。
大地さんが土御門裕太を『陰陽連』に連れて帰ってから二日が経った。
あれ以来、大地さんから目立った連絡はない。
一体どうなったのだろうか?
気に掛かってしまってしょうがない。
「悠斗さん、コーヒーです」
僕がオフィスで考え込んでいると、サユキがコーヒーを運んできてくれた。
「大地さんのこと、考えちゃってます?」
どうやら、サユキには全てお見通しのようだ。
「流石サユキ、僕の考えてることなんでもお見通しだね」
「もう二年も悠斗さんの助手をしてますからね。それに、恋人の考えていることぐらい、分かりますよ?」
彼女は頬を赤らめてそう言ってきた。
「確かに……それもそうだね。僕もサユキが考えていることは大体分かるし」
「でしょう?」
彼女は照れながらも笑ってくれた。
僕は彼女の笑顔が愛おしくなり、そっと氷色の髪を撫でた。
彼女は驚いたように目を見開いたが、すぐに目を閉じて頭を突き出してきた。
「もっと撫でて下さい」
彼女は頬を紅潮させながらそう言ってきた。
「はーい、分かりました」
僕は片手で彼女の小さな頭を優しく撫でた。
その時だった。
「あの……入っても良いですか?」
事務所の扉を少し開けて、大地さんが顔を覗かせてきた。
思わぬ来客に、僕達は慌てふためく。
まずい。サユキとのイチャイチャを見られてしまった。
これ以上居心地の悪い状況が果たしてあるだろうか?
いや、ない。
「大地さん、お久しぶりですね!」
僕は気まずい空気から脱却しようと話題を振った。
しかし大地さんは「お二人って付き合っているんですか?」と核心を突いてきた。
僕達は顔を見合わせた後、「はい……」と彼の言葉を認めた。
「あ、そうだったんですね……すみません。タイミングが悪くて……出直した方が良いですか?」
「そんなことないです! どうぞ、ソファに掛けて下さい!」
僕はそう言い切った。
「私、コーヒー淹れてきますね!」
サユキは逃げるようにコーヒーを淹れにキッチンに向かった。
そしてなんとかその場を持ち直し、僕達は大地さんの話を聞くことにした。
「それで、本日はどういったご用でしょうか?」
「兄のことでご報告をと思いまして」
彼はそう言ってきた。
「ああ、土御門裕太さんの件ですね。その後はどうなりましたか?」
僕はそう尋ねた。
「兄を『陰陽連』に連れて帰ったのですが、禁固五年の懲戒処分になりました。兄はしばらく牢屋に入れられることになります」
「そうですか……」
「一般的な法の下の罰則とは異なり、『陰陽連』が定めた法律に基づく罰則なので、なんとか刑が軽くなりました。それだけで一安心です」
「そうですね。それならよかったです」
サユキがそう返した。
「僕は兄の考えも間違っていないと思いました。彼が人を恨むようになった理由も痛いほど分かります。ただその感情の矛先が間違ってしまっただけで、『堕ち人』になっても道は踏み外していないと、僕は思います」
大地さんはそう言った。
「確かに、そうかもしれませんね」
僕は笑ってそう言った。
大地さんの表情はすっかり明るくなっていた。それだけで、今回の依頼は受けた意味があると思える。
しかし一つ引っ掛かることがある。
「そういえば、僕に土御門裕太さんのことを依頼しても良かったんですか? 僕って零明流を使いますし、陰陽師にとってはあまり良い風に思われていないのではないかと思いまして……」
「その件は大丈夫です。僕が悠斗さんに兄のことを依頼したのは秘密にしてあります。確かに『陰陽連』の陰陽師達は皆んな頭が堅いので、『何で零明流の継承者なんかに……!』って言うかもしれませんね」
彼は困ったように頭を掻いてそう言った。
「そうですよね……これからも僕のことはできる限り秘密でお願いします。陰陽師の上の人達と揉めたくないので……」
「分かりました。悠斗さんにはご恩がありますし、それぐらいのことなら守ります。任せて下さい」
大地さんはそう言い切ってくれた。
「ありがとうございます。助かります」
「助かったのは僕の方ですよ。本当に、兄を止めてくれてありがとうございました」
大地さんは深々と頭を下げてきた。
「大丈夫ですよ。これが僕の仕事ですから」
僕はそう言って笑った。
「そうおっしゃっていただけると、助かります」
彼はコーヒーを飲み干し、事務所を後にした。
「この度は本当にお世話になりました。いつか必ず借りを返させて下さい」
そう言葉を残して、彼は去っていった。
彼の背中を眺めながら、僕とサユキは笑い合うのだった。




