表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第6話 嬉し涙のその理由

 一色さんが泣きながら自己紹介をしてきた後は本当に大変だった。あの後すぐに他の同級生が数人教室に入ってきたが、相変わらず一色さんは泣いており、どう見ても俺が泣かせたようにしか見えない状況だったのだ。

 実際に俺が泣かしたと思われて責めるような視線を向けられたが誤解に関しては一瞬で解けた。それは一色さん自身が誤解を解いてくれたからだ。もし誤解をされたままだったら色々と面倒なことになっていたに違いない。それから下校時間までは特に変わったことはなかった。

 担任が教室にやってきて入学式の説明を受けて会場に移動し、式が終わった後はLHRで全員が自己紹介して終わるという、クラスこそ違うが前回とそんなに変わらない入学初日だったと思う。前回と大きく変わり始めたのはLHRが終わった後からだ。

 帰ろうとしていたところ一色さんに話しかけられて気付けば二人で学校の帰り道にあるカフェへ来ることになっていた。突然の放課後デートに正直戸惑いを隠せない俺だったが、今朝のお詫びをしたいと言われては断れそうになかった。

 いくらお詫びといえど正直美人な同級生が平凡な男子である俺をカフェに誘って二人きりになろうとすることには怪しさしか感じなかったが、すぐにそんな気持ちは吹き飛ぶことになる。


「へー、瑛人は犬派なんだ。てっきり猫派だと思ってたからちょっと意外だった」


 俺の対面の席に座っている一色さんはとにかく楽しそうだった。しかもこんなふうに会話した内容をしっかりとノートにメモまでしており、俺が何を話しても凄く興味を持ってくれている様子だ。

 例えるなら今の一色さんは推しのアイドルを前にした女性ファンという表現がしっくりくる。まあ、平凡な顔で身長はやや小柄な百六十八センチしかないため、とてもアイドルには見えないと思うが。

 逆に一色さんの方がよっぽどアイドルに見える。めちゃくちゃ整った顔立ちをしている上に、本人曰く身長が百七十二センチあるらしいので違和感はない。

 何はともあれそういう理由から一色さんが何かしらの悪意を抱いて俺に接しているとは到底思えなかった。もしこれが全て演技なら将来は売れっ子の女優になれると思う。


「一色さんは……」


「あっ、別に私のことは天音で大丈夫よ」


「……じゃあ天音さんは」


「さんを付けられるのは他人行儀過ぎるように感じるから天音って呼び捨てで呼んでくれない?」


「分かったよ天音、これで満足か……?」


「ありがとう、嬉しいわ!」


 いきなり呼び捨てをするのは流石に抵抗があったため、さん付けで呼ぼうと思ったのだが、一色さん改め天音がそれを許してくれなかったため俺は折れることにした。天音と読んだ瞬間、表情がパアっと明るくなったため思わず見惚れてしまった。

 ちなみに下の名前で呼び捨てにする女子は今まで一人しかいなかったため天音は二人目だ。あいつに会うと辛い気持ちになりそうだったので、二周目の世界が始まってからは意図的に避けている。


「それで天音はなんで俺を見て急に泣いたりなんか……ごめん、今のは忘れてくれ」


 朝からずっと気になっていたことを聞こうとする俺だったが、今の言葉はあまりにもデリカシーがないことに気付いて言葉を引っ込めた。だが、天音はそんな俺の疑問に答えてくれる。


「瑛人に会えて嬉しかったから」


「えっ……?」


「嬉しい時も涙が出るのは一応知ってたけど、今回が初めてだったからちょっと成長した気がするわ」


 恐らくその日に知り合ったばかりの初対面の相手からそんなことを言われても信じない人がほとんどだと思う。勿論俺も信じないタイプの人間だ。だが、天音の言葉を聞いた俺は信じてしまいそうになっていた。

 瑛人に会えて嬉しかったからと口にした時の天音は清々しい表情を浮かべており、とても嘘をついている人間の顔には見えなかったのだ。


「……なあ、俺達って昔どこかで会ってたりするか?」


「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるわね」


 疑問に思ったことを尋ねると天音からはそんな返答が返ってきた。曖昧な表現をしていたが、今の反応的に天音は間違いなく以前どこかで俺に会ったことがあるはずだ。

 だが、今までの記憶を思い返しても全く心当たりがなかった。もしかすると物心がつく前だったりするのだろうか。でも、そんなにも昔のことであれば天音も俺と会った記憶が残っているとは思えない。

 もし仮に物心つく前の記憶が残っていたとしても、再開して嬉し涙を流すほど詳細なエピソードを覚えていることは正直考えにくい。色々な可能性を考えてみたが結論は出そうになかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ