第5話 二年越しのはじめまして
二回目の人生が始まってからあっという間に数週間が経過した。初めの数日間は性懲りも無く死ぬ間際に見ている走馬灯説も疑っていたが、こんなに続くとは思えないた流石にもう信じていない。
ようやく冷静になった後、もしかしたらこの世界は過去ではなく、よく似たパラレルワールドかもしれないと思い自分自身のことも調べてみたりもした。
その結果、人間関係や過去の細かいエピソードなど、ありとあらゆることが俺の記憶と寸分の狂いすらなかったため、ここが過去であることはもはや疑いようがない。
そんなことを思いながら俺は新品の制服に袖を通す。今日は高校の入学式の日だ。まさか高校に二回も入学することになるとは思わなかった。
「早く目が覚めすぎたな……」
本来起きようと思っていた時間よりも二時間くらい早く目覚めてしまったのだ。だが、家にいてだらだらするような気分でもなかったので学校へと向かうことにした。今日は初めて高校に行く日ということで、恐らく緊張している同級生はかなり多いと思う。
記憶を思い返してみるとかつての俺もそうだった。だが、今はさほど緊張はしていない。それは間違いなく初めての高校生活ではないからだろう。そんなことを思いながら学校に到着した俺だったが、早く来すぎたということもあってまだ教師達が掲示板にクラス分け表を貼っている最中だ。
前回の経験から自分が何組になるかは知っていたため別に待つ必要もないと一瞬思ったが、それを待たずに教室へ向かうのは不自然な気がしたため待つことにした。そしてすぐにそれが正解だったと気付くことになる。
「前回は五組だったよな? 何で八組に俺の名前があるんだよ……」
クラス分け表が貼られた後、俺は五組の表を見た。だが、何回見返しても忍野瑛人という名前はどこにもなかった。予想外のことに動揺しつつもクラス分け表を順番に見ていき、八組の表に自分の名前を見つけたのがつい先程のことだ。
しかも五組の表に載っていた名前は俺の知っている前回とは全然違っていた。つまり俺だけが変わったような感じではなく、全くの別物になっているようなイメージだ。
「……もしかしてこれがバタフライエフェクトってやつか?」
昔読んだタイムスリップを題材にした話で、作中の登場人物が言及していたような記憶がある。北京で蝶が羽ばたくとニューヨークでは嵐が起こる可能性があり、何がきっかけで歴史が変わるから分からないため迂闊なことはするなと、ヒロインが主人公に釘を刺していたはずだ。
「ってことは俺って異物がこの世界に入り込んだから過去が変わったんだろうな」
前回と同じクラスだった方が人間関係の構築などを考えると楽だったが、別に違っても問題はなかった。それよりも個人的に収穫だと思ったのは過去が変わったことだ。
前世の俺の人生は完全にバッドエンドであり、どうあがいても過去を変えられないなら三年後の三月一日が俺の命日になってしまう。だから過去が変わったというその事実がとにかく嬉しかった。
そんなことを考えながら俺は昇降口で上履きに履き替えて教室に向かい始める。今までの癖でうっかり三年生の教室に向かいそうになったため注意が必要だ。一年生の教室に来るなんて久々だなと思いながら歩いているうちに一年八組の教室に到着した。
当然俺が一番乗りであり、まだ誰も来ていない。ひとまず俺は黒板に貼られていた座席表を確認してから席に座る。忍野という”あ行”の名前で出席番号も早いため、最初の席は毎回教室の左側だ。
ちなみに、俺の後ろの席については知っている名前だったが、前の席の女子である一色天音という名前には全く聞き覚えがなかったため、恐らく一回目の世界では一切関わりがなかった相手に違いない。それから少しして教室前方の扉が開く。入ってきたのは俺と同じくらい身長の高い容姿端麗な黒髪の女子だった。
容姿的に間違いなく学内ではかなり目立つタイプの女子だと思うが、不思議なことに一回目の世界では彼女を見た記憶がない。もしかして前回の世界線ではこの学校にいなかった女子だったりするのだろうか。
そんなことをぼんやりと考える俺だったが、すぐに異常事態に気付く。その女子生徒は俺を見つめていたのだが、何故かその目からはポロポロと大粒の涙を流し始めたのだ。
彼女は目を真っ赤にして泣いていたが悲しんでいるようには見えず、それどころかむしろ幸せそうにすら見えた。状況が全く分からず困惑する俺に対して、彼女はそのまま口を開く。
「はじめまして、瑛人。私は一色天音よ、あなたに会えて嬉しいわ」
そう口にした彼女はまるで夢が一つ叶ったような表情を浮かべていた。
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