第50話 自己中の化身
奏多先輩が昼休みに俺達の教室にやってきてから一週間が経過した。天音からこっ酷く拒絶されたというのに、性懲りも無く何度か昼休みに教室にやって来たらしい。
普通の人間であればあそこまで強く拒絶されたら来なくなるはずなので、あいつは間違いなく普通ではないということだろう。
まあ、刃物を持ち歩いていたり、チラつかせるようなやつなので普通ではないのは当然か。ということは、人には言えないような何かしらの黒い部分がありそうな気がする。
俺としては二度と関わりたくないのだが、向こうからこちらに近づいてくるなら、牽制する材料としてそこを調べるのも有りだ。絶対に何かしらが出てきそうな気はするし。
「ちょっとお手洗いに行ってくるわ」
「ああ、どうせ急ぐような予定もないし大丈夫だ」
特に何もない普通の放課後なので、ゆっくり帰って何も問題はない。天音が帰ってくるまで荷物をまとめていると教室がザワザワし始める。
顔をあげると奏多先輩の姿があった。あいつは無駄に外見だけは良いため、女子達が騒いでいる感じだ。俺はひとまず天音にメッセージを送る。
あいつが教室に来ているから今は戻って来ない方が良い、いなくなったら連絡すると送っておいた。すぐに既読がついてスタンプが返ってきたため、ひとまずはこれで良しだ。
どうせ天音が目的なはずなので、そのうち諦めていなくなるだろう。そんなことを考えていたが、あいつは予想に反してこちらに向かって歩いてくる。
「なあ、ちょっといいか?」
「俺に何か用ですか?」
「天音ちゃんとはどういう関係なんだ? いつも一緒にいるらしいけど」
「友達ってところですね」
いきなり話しかけられたことに驚きつつも、俺はそう答えた。こいつは天音目当てで頻繁にこの教室に来ていたらしいので、誰かが俺について話していても不思議ではない。
それにこの間ゲームセンターで遭遇していた時に天音と一緒にいたところを見られていたし、俺の存在を認知されてしまうのは正直致し方ない気がする。
「あっ、やっぱりそうだよな。どう見ても彼氏としては全く釣り合ってないし」
俺に品定めするような視線を向けながらそんな言葉を口にしてきた。ナチュラルに人を見下しているのは無意識なのか、意図的なのかは分からないが中々不愉快だ。
どちらにせよこいつの性格がめちゃくちゃ悪いことだけはまず間違いないだろう。
「でも彼氏じゃないなら好都合だ、天音ちゃんを紹介してくれない?」
「この間昼休みに話してた時に天音は嫌がってるように見えましたけど?」
「きっと恥ずかしがってたんだよ。ほらっ、俺って結構モテるし!」
なるほど、こいつの中でこの間のあれは拒絶されたとは認識していないらしい。前世で助けた金髪の女子生徒が天音であるとはまだ確信出来ていないが、前世でも自己中と言われていたしそういうタイプの人間なのだろう。
「……一応天音に聞いては見ますが、どうするかは彼女次第ですよ」
紹介する気なんて一切無いし、そもそも天音の答えなんて聞くまでもないが、余計なトラブルを避けるためにとりあえずそう答えておいた。こんなところでこいつと揉めても得をすることなんて全く無い。
「ああ、頼んだ。しっかりコミュニケーションさえ取れれば天音ちゃんも俺の魅力を分かってくれるはずだから!」
奏多先輩はそう言い終わった後、もはやこれ以上は用はないと言いたげな態度で教室から出て行く。
そんな俺達のやり取りを近くで聞いていたらしい一部のクラスメイトは明らかに引いた様子だった。まあ、昼休みにあれだけ天音から言われていたにも関わらず、こんな感じなのだから当然か。
何はともあれようやくあいつがいなくなったため天音にメッセージを送る。それから少しして天音は教室に戻ってきた。
「本当にしつこいわね」
「それな、天音を紹介してくれとか俺に言ってくるくらいだし」
先程あった出来事をそう口にすると、天音は明らかに血相を変えた表情になり、そのまま俺に勢いよく迫ってくる。
「もしかしてあいつが接触してきたの、何もされてないわよね!?」
「いきなり話しかけてきたから驚いたけど、別に危害を加えられていないから大丈夫だ」
そこまで口にして俺は今のやり取りの中に違和感を覚えた。何かおかしなところがあったような気がしたが、それが何なのかは分からなかった。
瑛人の感じた違和感の正体に気づいている方もいるかもしれませんが、ヒントは第43話です。
なお、今後のイメージとしては後10話以内で第一部は完結し、第二部に入る想定です。第二部からは新たなヒロインが登場します。
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