第49話 直接侵攻
お弁当を食べ終わった後、俺はトイレに来ていた。まだ大丈夫と思って油断をした結果、授業中にめちゃくちゃトイレに行きたくなったことがある。
それがテストの時に起きたら最悪だ。だから日頃から注意をする癖をつけるためにもこまめにトイレに行くようにしている。
「なあ、あの噂は知ってるか?」
「あの噂?」
「ああ、一年生に転校生が来るかもってやつだよ」
用を足して手を洗っていると、そんな二人組の会話が聞こえてきた。前世では高校三年間でうちに編入してくるような転校生は誰もいなかったため、同学年に来るという話はちょっと気になる。
「完全に初耳なんだけど一体どこ情報だよ?」
「職員室で一年生の学年主任が話してるのを聞いたってやつがいてさ」
「聞いたってやつがいるってことは又聞きじゃん、信憑性があんまりないから俺は信じないぞ」
「いやいや、絶対転校生は来るって」
二人の意見は完全に割れていたが、俺は完全に転校生は来ない派だ。又聞きによる噂話は伝言ゲームのように話が広がるに連れて正確ではない情報になっていく可能性が高いため信用していない。
そもそも前回は転校生なんて来なかったことを俺は知っている。バタフライエフェクトの影響か前と変わっている部分もあるが、そこまで大きな変化が現れるとは思えない。
それにもし仮に転校生が来たとしても関わることなんてないはずだ。だから俺はこの話題について一瞬で興味を失った。
それから教室の前に戻ってきた俺だったが、何故か中の雰囲気が少しおかしいことに気付く。何が原因なのかと思って教室の中を見渡した瞬間、俺は完全に全身が強張る。
教室の中には俺がこの学校で一番会いたくない相手である奏多先輩の姿があった。そしてあろうことか天音に話しかけていたのだ。
「なあ、絶対楽しいから一緒に行こうぜ」
「興味がないので結構です」
「いやいや、そんなことを言わずにさ」
「この前も話したようにあなたとは関わりたくないので」
チャラい雰囲気で遊びに誘おうとしている奏多先輩に対して、天音は嫌悪感を一切隠さず強い言葉ではっきりと拒絶をしていた。
だが、あいつは気にしていないのか鈍感なのかは分からないが全く動じることなく天音を誘い続けている。なるほど、教室内の異様な雰囲気の発生源は天音か。俺は天音を助けるために一芝居打つことにする。
「一色さん、学年主任が昨日提出だった進路希望調査の件で進路指導室に来て欲しいって言ってたぞ」
俺は扉を少しだけ開けて教室の中に向かってそう声をあげた。ただ俺が用事を装って連れ出すよりも、学年主任と今の時期にどこの学年でも提出したばかりの進路希望調査の件を利用した方が効果的なはずだ。
ちなみに、俺の姿は奏多先輩がいる位置からは見えていないはずだが、念のために声色も少し変えておくことも忘れていない。
「学年主任に呼ばれたので行きますね」
そんな俺の声を聞いて何かを察した表情になった天音はそれに便乗し、そのまま教室の入り口へと向かって歩き始める。
奏多先輩は学年主任という名前が出てきて流石に引き止められないと判断したらしくそれ以上は追って来なかった。合流した俺達は教室を離れる。
「大丈夫だったか?」
「ええ、瑛人が機転を利かせてくれたおかげで助かったわ」
「そこまでバカなやつじゃなかったから良かった」
「本当にそうね」
この学校に通っていて頭がそこそこ回る相手だったからこそ通用した作戦だった。これが、何も考えずに行動を起こすような単細胞なタイプだった場合は通用しなかったはずだ。
「てか、天音は何で絡まれてたんだ?」
「この間ショッピングモールのゲームセンターで会った時に私のことを気に入ったみたいで、わざわざ教室まで会いに来たらしいわよ。迷惑以外の何物でもないだけど」
そう言葉を口にした天音は本気で嫌そうな表情を浮かべていた。ショッピングモールでは特に知らない相手だと言っていた天音だが、明らかに何かを知っていそうに見える。
「そもそも私がどこのクラスなのかを調べてまで会いに来る時点で本当に気持ち悪いわ」
「うわっ、それはきついな……」
「またあいつが私に会いに来ても死ぬほど面倒だから、明日から昼休みの時間は教室の外で過ごしましょう」
「俺もその方がいいと思う」
昼休みのたびにやって来られるとめちゃくちゃ面倒だし、それには全面的に賛成だ。出来れば学校からいなくなって貰いたいが、それが出来ない以上は俺達から避けるしかない。
ここからも重要エピソードが続きます
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