第45話 本音と建前
迂回していた道を何事もなく通り過ぎた俺達は、家の前を通り過ぎてそのままショッピングモールへと向かう。
あと半月もしないうちに一学期の期末テストとなるため、今のうちに遊びたいという天音の提案で寄り道をすることにした。
期末テストが終わって少しすれば一ヶ月近い夏休みとなるが、強制参加の補習がある関係で実質的な休みは半分しかない。
そして前回の高校一年生の時は直前までそれを知らなかったため、かなりがっかりした気持ちになった記憶がある。言うまでもなく今の俺は今回が四回目の高校の夏休みとなるため、もはやそんな気持ちは一切無い。
「やけにうちの制服姿が多いわね」
「今日は職員会議でどこの部活も休みらしいからみんな遊びに来てるんだろ」
ショッピングモールに到着した途端、天音がそんなことを言い始めたため、俺は自分の推測を口にした。普段の放課後よりも俺達の学校の制服姿だけが多いのは間違いなくそれが理由のはずだ。
「えっ、そうなの?」
「先週の金曜日と昨日、今日のHRで担任が言ってたじゃん」
俺は少し呆れながらそう答えた。一回しか言っていないならまだしも、複数回話していたはずなのになぜ知らないのか普通に疑問だ。そんなことを考えていると天音はあっけらかんとした表情で口を開く。
「興味がなかったから全然聞いてなかったわ」
「今日は進路希望調査の件とか重要なことも話してたから話は聞いておいた方がいいと思うぞ」
「大丈夫よ、だって私には瑛人がいるんだから!」
天音は完全に俺に頼る気満々な様子だ。万が一俺が聞き逃したらどうするんだよ。そんなことは滅多にないとは思うが。
「それで進路希望調査の件って何を話してたのかしら?」
「夏休み前にある三者面談でも使うからしっかり考えて書いて欲しいってさ」
「正直今の成績だけだと志望校は決められないとは思うけどね」
「それは俺も同感だ」
高校に入学してからまだ数ヶ月であり、成績は変動する可能性が高い。実際に前世でも一年生の頃はイマイチであり、二年生になってから危機感を覚えて猛勉強をした結果、三年生になる頃にはかなり成績が上がった。
それにより前世の一年生の時に進路希望調査で書いたところよりも遥かに高い偏差値の大学を受験したことを考えると、今の時期に書いてもあまりあてにならない気はする。
もっとも、それは教師達も知っているはずなので、現段階の成績などから自分の立ち位置を客観的に判断して考えさせることが目的なのだろう。
「ちなみに瑛人は今のところどこを志望してるの?」
「具体的にどこにするかってところまではまだ決めてないけど、県外の大学も含めて色々候補はある」
前世では県内や校外研修で行った隣県にある国立大学と、関西や関東の難関私立大学を受験した。今回も同じ方針で考えているが、前回は全落ちしてしまったため何とかしてリベンジを果たしたい。
「へー、瑛人はもう既に色々と考えてるんだ」
「そういう天音はどうなんだ?」
「以前までの私なら県内の大学だけを志望してたと思うけど、今の私は特にこだわりがないから県外もありかなとは思ってるわね」
「県外が問題ないなら選択肢はかなり増えるな」
以前までの私、今の私のような変わった言い回しをしたことは少し気になったが、視野を広げて考える方針に転換したようだ。
「あっ、でも瑛人と同じ大学に行きたいわね」
「俺とか?」
「ええ、流石に仲の良い誰かがいないのはしんどそうだし」
「天音のコミュニケーション能力なら知り合いゼロでも全然余裕そうな気がするのは俺だけか?」
「知り合いになる相手と、仲良くなれる相手は違うってことよ」
そう言われて少し納得した。確かに天音はクラスでグループに所属していないにも関わらず球技大会のチーム決めに口を挟めるくらいにはコミュニケーション能力はある。
だが、クラスで心を許している相手は自惚れでなければ俺しかいない。俺や父さん、母さんに対しての距離感が異常なだけで、基本的に天音は周りに対して壁を作っているように見える。
陽キャの人間関係は色々と面倒ということも以前話していたし、恐らくこれが一色天音という人間の性質なのだろう。
「だから私が瑛人と同じ大学に合格出来るように勉強に付き合って貰うからよろしく頼むわ」
「ああ、その時は任せてくれ」
天音とは違ってコミュニケーション能力が高くない俺からすると、同じ大学に話せる相手が一人でも多いに越したことはない。
自分自身にそう言い聞かせつつ、本音は天音と一緒に大学生活を過ごしたいから頑張ろうと思っているが、それを本人に話す勇気は流石になかった。




