第44話 確信の視線
俺がフェイクを織り交ぜて前世のトラウマの件を天音に打ち明けてから数週間が経過したが、今のところは何も起こっていない。
そもそも学年が違う上に現時点では俺達と面識がないことを考えると、学内でエンカウントする可能性は正直高くないと思う。
実際にあの日以降は学内で遭遇していないことが何よりの証拠だ。だが、決して油断はできない。何かのきっかけによって俺や天音に害を及ぼす可能性がある以上は警戒を続ける必要がある。
そしてあの日以降、天音の雰囲気も変わった。俺に向ける視線の種類が明らかに前とは違うような気がする。
今までは俺を通して別の何かを見ているように感じることがたまにあったが、あの日以降はそう感じることが一切無くなった。
「瑛人、帰りましょう」
「ああ、そうだな」
今日も何事もなく放課後になったため安心という感情が強い。昇降口で上履きから外履き用の靴に履き替えた俺達は学校を出る。
梅雨の時期ということもあって晴れの国と呼ばれるくらい雨の少ない俺達の住んでいる県も、ここ最近は天気の悪い日がめちゃくちゃ多い。そして今日も朝からずっと雨のため傘を差している。
いつものように通学路を二人で並んで歩いて帰り始める俺達だったが、あの日以降変わったことは天音の雰囲気以外にもあった。
それは過去に事件があって良い思い出がないという理由で今までは迂回していた通学路の道を普通に通るようになったことだ。
「やっぱり何でこの道を通るようになったのか気になるかしら?」
「……もしかして顔とかに出てたか?」
「ええ、気になって仕方がないって感じにしか見えないわよ」
天音の過去の嫌な記憶が色々と絡んでいることは知っていたため、気にはなっていたがあえて一切触れないようにしていた。
誰にだって触れられたくない過去が色々とあることは分かっている。そして天音にとって通学路の事件がそれに該当することは入学式の初日の様子を見れば明らかだ。
そのためセンシティブな話題に触れて天音を傷つけたくなかったから触れないようにしていた。だから俺は天音に謝罪をする。
「ごめん、もう表情には出さないようにするから今のは忘れてくれ」
「謝らなくてもいいわ、それに隠す必要もなかったし」
謝罪する俺に対して天音はそう言葉を返して来た。そのまま天音は俺が聞かないようにしていた理由を話し始める。
「私のせいで事件に巻き込んじゃった人がいるって話を以前したと思うんだけど、その人は今も元気に生きてるってことが分かったのよ」
なるほど、そう言うことか。今まではトラウマが理由で迂回をしていたが、その原因がなくなって普通に通れるようになったというのが俺の求めていた答えだろう。
「そっか、天音も一つ過去を乗り越えられたんだな」
「おかげさまでようやくね。私の人生の中で最大のトラウマだったから、嬉しいよりも良かったっていう安心の気持ちの方が圧倒的に強いわ」
確かに俺が天音の立場だったとしても同じように感じると思う。自分のせいで事件に巻き込まれて死んだと思っていた相手が元気に生きていたのであれば、絶対にそっちの気持ちが強くなるはずだ。
「瑛人もきっと乗り越えられるわ、私も一緒にいるから今度は大丈夫よ」
「ありがとう、めちゃくちゃ心強い」
「大船に乗ったつもりで頼ってくれていいから」
アニメや漫画で不幸な目に遭って逆行した主人公は、二周目の世界でハッピーエンドを迎えている。
前世では一切救いようがないバッドエンドを一度迎えたんだから、今度はハッピーエンドを迎える権利が俺にもあるはずだ。
一人だけではどうにも出来ないことだって、二人いれば何とかなるかもしれない。だから何としてもあんな最悪の結末だけは回避してやる。
今話を読んで色々と気付いた方もいると思いますが、答え合わせはもう少し先になります
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