第42話 前世のかたき
午前中の授業は特に何事もなく終わり昼休みがやってきた。今日もいつものように天音と一緒にお昼を食べる予定だが、その前にトイレにやって来ている。
球技大会が終わってから異様なほど過保護になった天音はトイレにまで着いてきそうな勢いだったが、それは何とか説得をして辞めて貰った。
女子と一緒にトイレに入ったりなんかしたら間違いなく事案になるだろう。それから小便器で用を出していると、隣から二人組の会話が聞こえてくる。
「なあ、悠太のクラスって誰かフリーの可愛い女子はいないん?」
「うちのクラスの可愛い女子は大体彼氏持ちですよ、そもそも奏多先輩って今彼女いませんでしたっけ?」
「ちょっと前に別れた、だから絶賛彼女募集中でさ」
「えっ、マジっすか」
会話は男子高校生が好きそうなありふれた内容だったが、二人組の片方は上級生のようだ。今いるここは一年生がメインに使っているが、昼休みの時間帯なので後輩に会いにきた上級生が使うことも珍しくはない。
特に運動部に所属している同級生達が昼休みに先輩と行動をしている姿はたびたび目撃するため、恐らく隣にいる二人もそんな感じだと思う。
「最悪フリーじゃなくてもいい、口説き落とすから」
「奏多先輩から彼氏持ちの子でも口説けそうですもんね」
かなりゲスイ内容の会話が聞こえてきたため、一体どんなやつがそんな会話をしているのか気になり不自然にならないようにチラッと横目で会話をしている二人組を見る。
その瞬間、全身に寒気が走り身体中から嫌な汗が吹き出してきた。なぜなら上級生と思わしき高身長で顔の整った生徒には見覚えしかなく、その印象はトラウマを植え付けられるくらいには最悪だったからだ。
あの日の記憶がフラッシュバックした俺は逃げるようにトイレを出て、離れたところにある屋上へと続く階段でそのままうずくまる。猛烈に気分が悪くなったためお弁当を食べる前で本当に良かった。
「……同じ学校だったのかよ」
先程トイレにいた奏多先輩と呼ばれていた上級生のことを俺は一生忘れることが出来ないだろう。だって前世の卒業式の日にナイフで俺を刺した相手なのだから。
先程の会話を聞いただけでは何年生なのかまでは分からなかったが、三年生だったとしても来年の三月までは学内にいることになる。
もう二度と顔を合わせたくないというのが本音ではあるが、上級生で基本的にあまり関わる機会がないことだけは救いだ。
少しして落ち着いてきた俺は何とか立ち上がって教室に戻り始める。時間的にはまだトイレへ行ってからそんなに経っていないはずだが、ここ最近の天音はかなり敏感なため心配しているかもしれない。
「あっ、やっと戻ってきた……って、どうしたのよ!?」
天音は俺の異変に気付いたようでそう声をあげた。やはり先程の一瞬だけで動揺を抑えることは出来なかったようだ。多分今の俺は酷い表情を浮かべているに違いない。
「大丈夫だ、そのうち収まるから」
「そんな青白い表情を浮かべてる時点で大丈夫には見えないわ、一体何があったのかは分からないけど落ち着いて」
そう言って天音は手を握ってきた。多分色々と聞きたいことはあるだろうが、ひとまず俺を落ち着けるようにしてくれていることは天音なりの優しさだと思う。
そのおかげで俺はようやく少し落ち着きを取り戻し始めた。それと同時に凄まじい危機感の感情が浮かび上がってくる。
卒業式の日に庇った金髪の女子生徒が天音と同一人物なのかはまだ分からないが、少なくとも痴情のもつれで刃物をちらつかせた前科のある人間が学内にいる事実は確かだ。
そしてその事実を知っている人間はこの世界では逆行者である俺しかいない。つまり何かが起こる前に動ける可能性が一番高いのは俺だ。
もう既に前世とは色々違う部分もかなり多いためそもそも事件が起こらない可能性もあるが、もし天音に殺意が向けられるようなことになれば絶対に阻止してみせる。俺は強くそう決心をした。
前回自分を殺したやつが目の前に現れたら動揺するよね……!
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