第41話 二面性への理解
球技大会が終わって以来、俺はずっと考えていることがあった。それは俺が前世の卒業式の日に助けた女子生徒の正体が天音なのではないかということだ。
鼻血を出して地面に倒れた際に、天音から手を握られたことがそんな考えに至ったきっかけだが、まだ確信は持てていない。
「そもそもあの子のことを全く知らないんだよな」
あの日助けた女子生徒を学内では見かけたことはあったが、面識は一切なく話したこともなかったため名前は知らなかった。だから俺の中にある情報としては、身長の高い金髪のギャルくらいしかない。
天音は身長は高いもののギャルではなかったが、もし金髪に染めたらそれっぽい雰囲気になりそうな気はする。家族旅行の時に二人で撮った写真の、天音の顔を見ながらそんなことを考えていた。
「さっきから私の写真を見てるけど、一体どうしたの?」
「うわっ!?」
いつの間にか制服姿の天音が隣にいたため俺は思わずそう声をあげた。すると天音はむすっとした表情を浮かべる。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「ごめん、完全に自分の世界に入ってた」
「そんなの知ってるわ、私が部屋に来たことも全然気付いてなかったみたいだし」
天音はやや呆れたような表情を浮かべていた。俺はというと天音が部屋にやって来たことにすら気付かないほど集中していた自分自身に少し驚いている状況だ。
てか、天音が部屋にいるってことはもう家を出ないといけない時間だよな。そう思った俺はリュックサックを背負って立ち上がる。そして戸締りをして家を出た。
「さっきの質問の続きだけど、朝っぱらから私の写真に熱い眼差しを向けてたのはどうしてよ?」
「そんなに熱い眼差しを向けてたか?」
「ええ、熱くなりすぎて火がつきそうなくらいには」
面白おかしくそんな言い方をしていたが、天音の目からは熱い眼差しを向けていたように見えたからそんなことを言ってきたに違いない。
「実は写真が気になっててさ」
「もしかして瑛人も私が凄い美少女だってことにようやく気付いた感じかしら?」
「天音が美少女ってことには初対面の時から既に気付いてたから今回は関係ない」
ニヤニヤしながら絡んでくる天音に対して俺は何も考えずにそう答えた。どうやらそんな俺の答えは天音にとっては予想外だったらしい。
「ち、ちょっと。急にそんなことを言ってこないでよ!」
「ごめん、本音がつい出た」
「……そういうことは他の女の子に対しては絶対に言っちゃ駄目だから」
天音は恥ずかしそうな表情を浮かべながらそう言ってきた。これ以上先程の写真の話題について天音は触れる気がなさそうな雰囲気になったため一安心だ。写真を見ていた理由を追及されても本当のことなんて絶対に話せないからな。
もし仮に前世で助けた女の子と似ている気がしたから写真を見ていたと話しても、頭がおかしいと思われる未来しか見えないし。そんなことを考えながら二人で通学路を歩いていると突然肩を抱き寄せられる。
「急にどうしたんだ?」
「後ろから自転車が来てたから瑛人が轢かれないようにと思ってね」
「別にそこまでして貰わなくても大丈夫だぞ」
「瑛人のことが心配なの、だから助けさせて」
そう口にした天音の表情は真剣そのものだ。先日あった球技大会以降、天音は俺に対して凄まじく過保護になってしまった。
周りの目があっても関係なく色々なことをやってくるため正直恥ずかしさはあったが、天音が俺を心配してやっていることだけは分かっているため邪険には出来ない。
だが、はっきり言ってここ数日の天音の行動は明らかに度を超えているように感じている。元々バグっていた距離感が、さらにバグったようにしか思えない。
そのトリガーとなったのは間違いなく球技大会の時に顔にボールが当たって鼻血が出たあれだろう。あの日の取り乱し方は普通ではなかった。
天音は年上と錯覚してしまうくらいには大人びているが、見ていて危うさを感じることも多い。天音のことを好きになったからこそ、内面をもっと深く知る必要があると思う。
天音の正体を意識し始める回でした、第4章で物語は一気に進展します




