第40話 あの日のフラッシュバック
試合と間の休憩を挟みながら球技大会は進行していき、お昼休みの時間帯になった。これから一時間の休憩となるため、各々教室へと戻り始める。
「天音って本当にフォローが上手いよな」
「当然よ、だって私なんだから」
俺の言葉を聞いた天音はそう口にしながらドヤ顔をしていたが、それが気にならないくらい助けられたと思う。
最初の試合以降もところどころでミスをしていたが、その全てを天音がフォローしたおかげで俺が原因の失点はほぼ無かった。一回サーブをミスったくらいだろう。
「それにしてもお腹が減ったな」
「半日動き続けたんだからお腹くらい減るわ」
「やっぱり普段の授業の時とは違うな」
普段は体育の授業くらいしか激しく動くことはないため、エネルギーの消費量が段違いのはずだ。それから教室に戻る俺達は、お弁当を持って中庭にやってくる。
「珍しいな、教室以外で食べるなんて」
「制汗剤の匂いが充満してたじゃない、だから今日は場所を変えようと思ったのよ」
「確かに結構みんな使ってたもんな」
教室の中は色々な種類の匂いが混じっていたため、ああいう匂いが苦手な人にとってはかなりきついと思う。
まだ五月下旬で夏前だというのに今日はめちゃくちゃ暑いため、午前中の試合だけでもみんなかなり汗をかいているはずだ。そんなことを考えながらお弁当箱を開ける。
「今日のメインは豚肉の生姜焼きか?」
「ええ、今日が暑いことは知ってたし熱中症対策には豚肉が良いって聞いたから」
「流石だな」
もし俺がお弁当を作るとしても絶対にそんなことまでは考えないはずだ。天音が出来る女であることはもはや疑いようのない事実と言えるだろう。
二人で仲良くお昼を食べた後、体をしっかり休める。だから昼休み終了後に始まった球技大会の後半戦では体力もある程度は回復していた。
だが、相変わらず暑かったため試合中はかなり汗をかいていた。しかも疲れと暑さのせいもあって最後の試合の頃になると頭がボーっとしてしまっている。
そのせいで俺は自分の方へボールが飛んできていることに気付くのがほんの一瞬だけ遅れてしまったのだ。もし俺が運動神経抜群であれば、今の遅れは別に大したことがなかったと思う。
しかし現実の俺は球技が苦手な運動音痴寄りの人間だ。そして以前天音からボールが飛んできた時に目を閉じる癖があると指摘をされていたが、短期間で直るはずがなかった。
そのため余計に反応が遅れてしまい対応が出来ず、飛んできたボールが顔面に直撃した挙句、そのまま倒れるという情けない結果となってしまう。
「痛てて……」
ボールが顔に当たった振動の後、口の中からは鉄のような味がしていた。特に口の中から痛みは感じなかったため、多分鼻血が出たのだろう。
流石に今回は天音からも呆れられてしまうかもしれない。そう思っていた俺だったが、天音からは予想もしていなかった反応が返ってくる。
「瑛人、しっかりしなさい。誰か救急車を早く呼んで!」
天音は激しく取り乱しながら血相を変えたような表情を浮かべて俺に駆け寄ってきた上に、そんなことまで言い始めた。顔にボールが当たって鼻血が出ただけだというのに、いくらなんでも大袈裟過ぎやしないだろうか。
多分それは俺だけではなく周りにいた他の人もみんな同じことを思ったはずだが、青白い表情を浮かべ目からは涙まで流している天音は明らかに真剣そのものであり、とても冗談で言っているようには見えない。
「大丈夫、瑛人は絶対に死なないわ」
どう言葉をかければ良いかすら分からない中、天音は励ましの言葉をかけながら手を握ってきた。そんな手の感触を覚えた瞬間、前世の高校卒業式の日の記憶がフラッシュバックし始める。
名前も知らない上に話したこともない同級生を庇ってナイフで刺された後、視界が歪み俺の意識はだんだんと薄れていた。そんな状況の中、意識が消失する直前に手を握られたことだけはしっかりと記憶に残っている。
そのせいか、あの日俺が命を投げ出して助けた顔すら覚えていない金髪の同級生と、目の前にいる天音の姿が重なって見えた。
【読者の皆様へ】
第29話から続いた第3章は以上で終了です、ここまでありがとうございました!
第41話からは第4章となりますが、いよいよ物語は佳境に入ります。
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!




