第36話 死刑囚の気分
突然の集中豪雨がきっかけとなってお泊まり勉強会コースに突入したが、ひとまず夕食までは普通に二人で勉強をした。もしかしたら多少ドキドキしていたかもしれないが、勉強については一切手を抜いていない。
そして夕食は昼間と同じように二人でカレーライスを作った。元々夕食も天音が作ると言っていたため、食材に関しては昼食のオムライスと一緒に買っていたのだ。問題は夕食を終えてからだった。
「湯張をしてお風呂の準備はしておいたぞ、天音から先に入ってくれて大丈夫だ」
「ふーん、瑛人は私が入った後の残り湯を楽しみたいんだ」
「そういう意図はないから、別に俺が先に入って天音が後からでも全く問題はないし」
「なるほど、瑛人は自分が入った後の残り湯に私を入らせたいのね」
「いやいや、どっちならいいんだよ……」
ニヤニヤしながらそんなことを言ってくる天音に対して俺は思わずそんなツッコミを入れた。どっちを選んでも問題が有るような言い方をされると反応に困るから辞めて欲しい。
「じゃあお言葉に甘えて先に入らせて貰うわね」
「ああ、ただ問題なのはパジャマなんだよな」
この家に天音の着れそうなサイズの女性物のパジャマは一着もない。身長百七十二センチある天音が、百五十センチ未満の母さんのパジャマを着れるとは思えなかった。
「別に瑛人のパジャマでいいわ、多分サイズはそんなに変わらないと思うし」
「あっ、確かにそうだな。天音がそれでいいなら全然貸すよ」
俺の方が少し身長は低いが、サイズ的には全く問題ないはずだ。これは決して俺の身長が低過ぎるのではなく、天音が女子としてはあまりにも高いからだと強く思っている。身長が近いと恋人と服の共有が出来るところは良いなと彼女もいない癖に思ってしまったことは内緒だ。
それから少ししてお風呂が沸いたため、先程決めた通り天音から先に入って貰う。しばらく勉強をする俺だったがとあることを思い出す。
「……そう言えばタオルって無いんじゃなかったっけ?」
普段であれば脱衣所の棚にタオルを入れているが、夕方見た時は棚の中になかったような気がする。干し終わって畳んだタオルはまだベランダ近くの廊下に置きっぱなしなはずだ。流石に風呂上がりにタオルが無いと天音もかなり困るはずなので、廊下に置いているものを何枚か脱衣所に持っていこう。
「あっ、もう既に出てたりはしないよな……?」
鉢合わせるとまずいため俺は扉の前で耳をすませる。すると中からはシャワーの音が聞こえてきた。天音はまだ浴室内にいるようだし、この感じなら一瞬脱衣所に入ってタオルだけ置いてすぐに出れば問題ないだろう。
そう思って脱衣所に足を踏み入れた瞬間、最悪の事態が発生する。何と脱衣所の扉を開けて中に入った瞬間、浴室の扉が開いてしまったのだ。俺は生まれたままの姿の天音と対面することになる。
「きゃああああ!」
案の定、天音はそんな声をあげてそのまま浴室に引っ込む。俺は俺で完全にパニック状態になってしまったが、覗きと勘違いされるのは流石にまずいという頭だけは残っていたため、天音にも聞こえるように大きな声で理由を説明する。
「だ、脱衣所の棚にタオルが無さそうで補充しようとしてただけだから!」
俺はそう言い残すとタオルを床に置いて逃げるように脱衣所を後にした。天音は一切隠さずに浴室から出てきたため、一瞬ではあったが色々な部分をしっかりと見てしまった。この後天音とどんな顔で会えば良いかは今の俺には全く分からない。
最低でも土下座くらいはしないと許されないと思う。いや、それでも許されない可能性の方が高い気がする。今の気分はまさに処刑台に送られるのを待つことしか出来ない死刑囚のようだ。




