第37話 初体験の相手
天音が部屋に戻ってきた瞬間、俺はすぐさま土下座をした。何かしなければ罪悪感で押しつぶされそうだったのだ。
「本当にごめん、でもわざとではないんだ」
「そんなに謝らなくてもいいわ、見られて減るようなものじゃないから」
罵詈雑言を浴びせられてもおかしくはないと思っていたが、予想に反して天音はあっさりと許してくれた。だが、言葉を続けた天音はとんでもないことを聞いてくる。
「……それで、どうだったかしら?」
「どうだったっていうのは……?」
「そんなの私の裸を見た感想以外にないでしょ」
まさかそんなことを聞かれるとは夢にも思っていなかった。感想を聞こうとしている意図が全く分からないため、完全に困惑状態だ。そんな俺の様子を見て天音は口を開く。
「パパ以外の異性に裸を見られるのは初めてなのよ、私の初めてを奪ったんだから感想くらいは聞かせて欲しいわ」
誰かに聞かれると色々と誤解されそうな言い方をしていたが、天音の言葉の意図については何となく理解できた。恐らく自分の裸が変だったのではないかと心配なのだろう。
ぶっちゃけ母さん以外の異性の裸を見たことがない俺にそんなことを聞くのはどう考えても人選を誤っているとしか思えないが、天音が不安そうな表情を浮かべているのを見てしまった以上は答えるしかない。
「……俺も家族以外の女性の裸を見るのは初めてだったから比較の対象が全然ないんだけど、凄く綺麗だったと思う」
どう答えるか少し考えた後でそう口にした。ここで嘘をついたりお世辞を言っても良い結果になるとは思えなかったため、ありのままの正直な感想を伝えた形だ。
俺の言葉を聞いた天音は顔を真っ赤に染めてしまう。だが、そこにはマイナスの感情などは含まれてなさそうだった。しばらく黙っていた天音だったが、ようやく落ち着いてきたらしい。
「ふーん、瑛人は女子の裸を見るのは私が初めてなんだ」
「俺達の同級生で家族以外の異性の裸を見たことあるやつなんて圧倒的に少数だろ」
大学生になれば彼氏や彼女が出来てそういう行為をする人も増えるらしいが、流石に高校生の間はほとんどいないはずだ。
「そっか、瑛人の初体験の相手は私なんだ」
「だから、その言い方は違う意味に聞こえるから辞めろ」
脱衣所で裸の天音とエンカウントしてしまった時はビンタされることも覚悟していたが、大事にならずに済んだため本当に良かった。それから俺が入浴を済ませ後、引き続きテスト勉強を二人で行う。そして気付けば後少しで日が変わりそうな時間帯になっていた。
「そろそろ終わりにして寝ようぜ」
「そうね、朝からずっと勉強してたから疲れたわ」
俺と天音は机の上に広げていたノートや問題集を片付けて、それぞれ歯磨きなどの寝る前のルーティンを行う。
「そうそう、天音は母さんの部屋で寝てくれってさ」
「えー、別にこの部屋でもいいじゃない。もう裸を見られた仲なんだから、そのくらいは些細な問題でしょ」
「いやいや、それは駄目だ。母さんからそこの一線だけは超えるなって言われてるから」
天音はこの部屋で寝る気満々だったが、何とか母さんの名前を出して思い留まらせる方向で話を着地させた。だから安心して眠りについた俺だったが、明け方に寝苦しさを感じて目を覚ますとベッドの隣で天音が寝ていた。
「……いつの間に俺のベッドに入って来たんだよ」
少なくとも俺が眠る前はいなかったはずなので、その後でやって来たに違いない。何とか起こそうとするが熟睡しているようで起きてくれず、しかも俺の腕に凄い力で抱きついて寝ているため、俺も身動きが取れそうにない状況だ。
天音が隣で寝ているせいでドキドキしてとてもではないが眠れそうにない。だから朝になって天音が目を覚ますまで俺はドキドキした気持ちのまま少なくない時間を過ごすはめになった。
ちなみに天音曰く夜中にトイレで目覚め、済ませた後に母さんの部屋に戻ったつもりだったようで、純粋に戻る部屋を間違えてしまったとのことだ。それが果たして嘘なのか本当なのかは分からないが、そういうことにしておくしかなかった。
テスト関係の話はここで終了し、次話からはテスト明けのエピソードに飛びます。
天音が間違えて瑛人の部屋に戻ったのか、故意だったのかは想像にお任せします
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