第33話 過去からの脱却
陽葵とのやり取りが終わった後、俺と天音は普通に勉強を再開していた。思いもしなかった形で二度目の失恋をしてしまったが、逆に今までかつてないくらいすっきりとしている。
何となくそんな気はしていたがやはり俺は陽葵に対して未練の気持ちはないらしい。俺の中では既に終わった恋だと自覚できたことが今のこの晴れやかな気持ちに繋がったのだと思う。
「……さっきからめちゃくちゃすっきりした表情になってる気がするけど一体どうしたのよ?」
「やっぱりそんなふうに見えるか?」
「ええ、休憩に入る前とは明らかに雰囲気が違うから」
やはり俺の変化には天音も気付いたらしい。天音は怪訝そうな表情を浮かべているため、突然の俺の変化に戸惑っているのだと思う。
「囚われていた過去から解放されたからっていうのが答えだと思う」
「それだけだと全然意味が分からないんだけど?」
「上手く説明は出来ないけど、憑き物が取れたって感じかな。これも全部天音のおかげだ、本当にありがとう!」
「それなら良かったわ」
詳しく説明しようとすると前世のエピソードが絡んできてややこしいことになるため省いたが、天音のおかげという言葉を聞いて満足してくれたようでそれ以上は追及をして来なかった。
それから最終下校時刻まで図書室で勉強を続けたわけだが、勉強中のミスが劇的に減ったことは気のせいではないと思う。前世でも上手くいっている時とそうでない時は、メンタルの状態がかなり影響をしていたような気がする。
二周目の人生をハッピーエンドにするためには自分のメンタルをいかに良い状態で維持するかが鍵になってくるはずだ。少なくともメンタルが最悪な状態だとバッドエンド一直線だと思うので、それだけは何としても避けたい。
「やっぱり長時間真面目に勉強すると疲れるわね」
「その口ぶりだと普段は全然真面目に勉強してないように聞こえるのは気のせいか?」
「長時間はしてないかもしれないけど、真面目に勉強くらいしてるわよ」
そんな会話をしながら俺達は二人で通学路を歩いている。最終下校時刻を過ぎた今の時間帯は数ヶ月前であれば辺りはすっかり暗くなっていたが、五月中旬に入って日没する時間も遅くなってきたため外はまだ割と明るかった。
「中間テストが終わったら球技大会よね?」
「そう言えばそうだな、球技全般は苦手だから憂鬱なんだよな。逆に天音は得意なんじゃないか?」
「球技大会はバレーボールをするみたいだけど、それなりに出来るから苦手ではない気がするわ」
「だよな、羨ましい限りだ」
実際にゴールデンウィークが終わって以降の体育の授業では球技大会に向けてバレーボールを行っているが、天音の動きは他のクラスメイトと比べても明らかに良かった。
それに対して俺は授業中は全然動けていないため、球技大会本番では最低限足を引っ張らないようにしたいとは考えている。ミスって戦犯になってしまうと吊し上げられかねないし。
「瑛人はボールが飛んできた時に目を閉じる癖があるから、まずはそこから改善が必要ね。そこを直したら動きは良くなると思うわよ」
「えっ、何でそんなことを知ってるんだよ!?」
天音の口から予想もしていなかった言葉が飛び出してきたため、俺は思わずそう声をあげてしまった。バレーボールの授業は男女混合でやっているが、練習自体は分かれてやっているため何故知っているのか不思議だ。
「体育の授業中も瑛人のことをしっかり見てるから」
「いやいや、授業に集中した方がいいだろ」
「大丈夫よ、ボールの方もしっかり見てるから何も問題ないわ」
どう考えてもそういう問題ではない気がするが、俺の方を見ながらボールもしっかりと見れるのは普通に凄いなと思ってしまった。
もし仮に三周目や四周目があったとしても真似できる気がしないため、その辺りはきっとセンスや才能が結構重要になってくるような気がする。




