第32話 二度目の失恋
しばらく二人で集中して勉強しているうちに気付けば一時間が経過していた。試験勉強にはあまり乗り気ではないかもしれないと思っていた天音だが全然そんなことはなく、むしろ俺が見落としていたりミスをしていたような箇所を指摘してくれたため、居てくれて良かったと思うレベルだ。
「ちょっとお手洗いに行ってくるわね」
「ああ、俺はここにいるから」
席を立った天音を見送りつつ、俺は数学の問題を解き始める。昔から数学が苦手であり、前世でも足を引っ張っていたため、一番力を入れなければならない科目であることは間違いない。
「あれっ、どこで間違えたんだ……?」
計算していた俺だったが、答えが出せないことに気付いて手を止めた。多分何かをミスしているような気はするが、それが何なのかが分からない。すると突然後ろから誰かの声がする。
「その問題は余弦定理だと答えが出せないよ」
後ろを振り向くとそこには陽葵が立っていた。俺と天音が図書館に来た時はいなかった気がするため、後から来たのかもしれない。俺がそんなことを考えている間も陽葵は言葉を続ける。
「余弦定理は辺が二本分かってる時に使う公式だけどこの問題で分かってる辺は一本だから、使う公式は正弦定理が正解だね」
「あっ、だから答えが出せなかったのか!」
陽葵のおかげでそもそも使う公式を間違えていたことに気付けたため、頭のモヤモヤが晴れてめちゃくちゃスッキリした。
俺はこんなふうに初歩的なミスをやらかしてしまうことがあり、前世の共通テストもそれが原因で失敗をしたことはしっかりと記憶に残っている。こういう些細なうっかりミスも直さなければならないだろう。
「てか、陽葵はいつから図書室にいたんだ?」
「ついさっきだね。ちょっと前まで友達と教室に残って勉強をしていたんだけど、帰っちゃったから図書室に移動して来た感じかな」
やはり俺と天音が来た時点ではいなかったらしい。それにしても陽葵の解説はめちゃくちゃ的確だった。実際にこの間の復習テストも陽葵は三位であり、これからある中間テストでも前世では五位を取っていた。
「そういう瑛人は一人で勉強をしてるの?」
「いや、俺は天音……この間の校外研修で一緒にいた子と二人で勉強をしている最中だ。今は席を外してていないけど」
「やっぱり一色さんと一緒なんだ」
「あっ、名前は知ってるんだな」
この間の校外研修の時に二人は対面していたが、天音は陽葵に対して自分の名前を名乗っていなかったはずだ。
「一色さんは一年生の間では結構有名人だから」
「えっ、そうなのか!?」
「ただでさえ存在感があるタイプなのに、瑛人以外とは全く交流しようとしないから凄く目立って見えるんだよね」
なるほど、確かにそれなら色々な意味で印象には残ってしまっても不思議ではない。特に天音のように飛び抜けて良い容姿なら余計にそうなると思う。
そんなことを考えていると突然、背後に凄まじいプレッシャーを感じる。後ろを振り向くと図書室の入り口に天音が立っている姿が見えた。天音の視線は俺と陽葵に向けられており、そのままこちらにやって来る。
「瑛人に何か用かしら?」
「たまたま会ったから話しかけただけだよ、一色さんの邪魔をする気はないからそこは心配しないで」
「ちょっと待って、聞きたいことがあるの」
陽葵はそう言い残して俺達の前から立ち去ろうとするが、意外なことに天音が引き留めた。驚いたような表情を浮かべた陽葵を見つつ、天音は言葉を続ける。
「宮川さんにとって瑛人はどんな存在なの?」
「うーん、私的には弟のような存在かな。瑛人とは幼馴染で付き合いは長いけど、私が昔からあれこれ色々とやってあげてたから、まさに弟って表現がしっくりと来る気がするね」
天音の質問の返答として陽葵が口にした言葉は、前世で告白をして振られた際に言われたこととほぼ同じ内容であり、もし今回告白したとしても間違いなく振られることを俺は確信した。だが、絶望的な気持ちになった前回とは違い今は今回はそんな感情は全くと言って良いほど湧いてこない。
今の言葉を聞いてやっぱりそうだよなとは思ったが、特にそれ以外の気持ちは一切無かった。二度目の失恋をしたはずなのに、平気でいられるのは天音がいるからだろう。
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