第19話 面倒という言葉の捉え方
天音が家族旅行に着いてくるとは思っていなかったため朝からちょっと取り乱したが、一度受け入れてしまえばなんてことはなかった。今回の家族旅行は車で移動するため、現在は高速道路を移動中だ。
「……この車に天音が乗ってる姿は違和感しかないんだけど」
俺は隣の席に座っている天音を見て思わずそうつぶやいた。この車は前世まで含めると十年近くは乗ってきたが、家族以外の相手、しかも女子と一緒に乗るのは今回が初めてだ。
「俺達だけだと花がないんだから大歓迎だ」
「もしかしてあなたは私なんか花じゃないって言いたいわけ?」
「い、いや。俺達っていうのは俺と瑛人のことであって、君のことはちゃんと花だと思ってるから」
「そうですよ、めちゃくちゃ綺麗な花だと思います」
「あらあら、天音ちゃんは相変わらず嬉しいことを言ってくれるわね」
車を運転している父さんが無神経な発言をして母さんがウザ絡みする展開は前世の家族旅行の時もあったが、今回は天音がいる関係で前回よりも盛り上がっている。
てか、天音ってマジでうちの家族に溶け込んでるよな。敬語こそ使っているが、それがなければ家族に見えてもおかしくはないくらいには馴染んでいた。
それから少ししてサービスエリアに到着したため、俺達は休憩をするために車から降りる。ゴールデンウィークの五連休初日ということもあって、駐車場はかなり混雑していた。
「やっぱり県外ナンバーが多いわね」
「だな、やっぱり周辺の県が多いけど遠方のナンバーも結構あるもんな」
俺と天音はそんな会話をしながら建物を目指して歩く。そして建物の中に入ったわけだが、案の定めちゃくちゃ混雑していた。それもあって正面から歩いてきた家族連れと天音はぶつかりそうになる。だからそれを回避するために俺は咄嗟に天音の肩を抱き寄せた。
「……ご、ごめん!」
何も考えずに完全に無意識でやってしまったが、今の行為はイケメンにしか許されない行為であることに気づいて慌てて謝った。恥ずかしかったのか天音は一瞬顔を赤らめたが、すぐに普段の気の強そうな表情に戻る。
「……まさかとは思うけど、他の女子に対してもさっきみたいなことをしてるんじゃないでしょうね?」
「したことはないからそんなに睨むなって!」
俺が無意識であんな行動を取ることは、相手に相当気を許していない限りはあり得ない。そしてここまで気を許すような関係の女子は前世まで含めても天音ただ一人だ。幼馴染であり前世では片思いをしていた陽葵にすら、ここまでではなかった。
「それならいいけど、気軽にそういうことをするのは絶対に駄目よ。私だから良かったけど、他の女子だったら面倒なことになる可能性があるから」
「そうだよな、これからは気をつけるわ」
確かに天音だから許してくれたのだと思うが、他の女子に同じことをやっていたらセクハラと騒がれて面倒なことになってしまっても不思議ではない。
「その代わり私に対してであればどれだけやってもいいわよ」
「いやいや、それも駄目だろ」
「私が相手なら何の問題にもならないから心配はいらないわ」
ちょっと天音の言っている言葉の意味がよく分からなかったが、同じような場面に遭遇するとまた無意識でやってしまう可能性があるため、許して貰えるのであればちょっと安心だ。それから俺と天音は売店で飲み物を購入する。
「やっぱり天音も暖かい飲み物を買ったんだな」
「朝から結構寒かったし、冷たい飲み物よりもそっちが欲しかったのよね。私はお手洗いに行くから先に戻ってくれて大丈夫よ」
天音はそのままトイレの方へと歩いて行った。俺は言われた通り先に車へと戻り始める。すると少し先に父さんと母さんが歩いているのが目に入ってきた。
「あっ、まだ車には戻ってなかったんだな」
「ああ、ママがお土産を見たいって言い始めたからな。俺はまだ早いだろとは言ったんだけど」
「だっていいお土産があったら買いたいじゃない」
そう言えば前回も同じようなやり取りを父さんと母さんはしていたっけ。まあ、バタフライエフェクトの影響で変わっていることもあるが、同一人物なのだから同じような言動になるのは不思議ではない。
「ところで天音ちゃんは?」
「天音はトイレに行ってから戻るってさ」
母さんの質問に対して俺はそう答えた。確かに俺の隣にいなかったら気になるよな。そんなことを考えていると父さんが口を開く。
「天音ちゃんって本当にいい子だよな、うちに嫁にきて欲しいくらいだ」
「それは私も同意見だわ、天音ちゃんなら大歓迎ね。だから瑛人はしっかり頑張りなさいよ」
父さんと母さんの中の天音の評価は異常とも思えるほど高かったが、どうやってここまで心を掴んだのかは本当に謎だ。




