第20話 婚約の言質
サービスエリアを出てから一時間半ほどが経過し、いよいよ今日の目的地の一つに着いた。そこは複合エンターテイメントエリアであり、隣県では有数の人気観光地となっている。
ショッピングモールや映画館のような複合施設と聞いたらイメージするようなものから、大観覧車や赤レンガ倉庫など他ではあまり見られないものまで様々だ。
「初めてきたけど、めちゃくちゃお洒落な場所ね」
「海がすぐ近くっていうのもなんかいいよな」
海に面しているためそれだけで良い景色であり、お洒落なエリアを潮風を感じながら歩いていると凄まじい非日常感があった。前世の家族旅行に来た時もそうだったが、やっぱりこういうところに来るとテンションが上がる。
「それにしてもめちゃくちゃ人が多いな」
「ゴールデンウィークってことも関係してるでしょうけど、私達の街とはそもそもの人口数が違うからこうなるのは当然だと思うわ」
今いるここは政令指定都市であり、その中でも人口は上から数えた方が早い。だから俺達の住んでいる市の観光地なんかとは比べ物にならないくらい人通りが多いのは当然だろう。
「だからはぐれないようにしないとね」
「ちょっ!?」
突然天音が密着して腕を絡ませてきたため俺は思わずそう声を上げた。天音は突然こんなことをしてくるから本当に困る。
モテる男なら女子との密着くらい慣れているかもしれないが、俺のような女慣れしていない童貞男子には刺激が強すぎるのだ。そんなことを考えていると近くにいた父さんと母さんがニコニコした表情で口を開く。
「これぞ青春って感じだな」
「ええ、ずっと見ていたい気分だわ」
「若さのない俺達とは全然違うぞ」
「ふーん、あなたは私のことも年寄りって思ってるんだ?」
父さんは相変わらず余計な一言を口にして母さんから詰められていたが、俺達に対して微笑ましいものを見るような目を向けていた。
前回は景色の良さに感動してしばらくテンションが高かった俺だが、今はそれ以上にドキドキする気持ちが上回っている。三人で来た前回とは違い今回は天音がいるため、行き先は同じでも旅行の中身は変わるかもしれないな。
俺は天音に密着されたままそんなことを考えていた。天音はご満悦な表情を浮かべていたが、校外研修のバスの中でも俺に密着して寝ていたため、多分誰かに密着するのが好きだからに違いない。
他の男子には同じことはしないで欲しいと考えてしまったのは、多分天音との関係に幸せを感じているからだろう。もしそうなっても俺は止められないし、文句を言うこともできないが、とにかく嫌だと思ってしまった。それから俺達は海沿いにあった赤レンガ倉庫の中に入る。
「へー、ここってレストランなんだ」
「そうそう、事前情報がないと外観だけ見ても絶対に分からないよな」
「そうね、建物の中に入ったらすぐに分かるんだけど」
実際に前回の俺は知らなかったため天音と同じように驚いた記憶があった。あまり詳しくは知らないが元々は明治時代に建てられた倉庫のようで、観光のためにレストランとしてリニューアルしたんだとか。当然再利用している関係で壁などはそのままであり、レトロでシックな雰囲気が出ている。
「あっ、ここは私達が出すから天音ちゃんは遠慮なく好きなものを頼んでくれて大丈夫よ」
「えっ、本当にいいんですか……?」
「ああ、せっかく一緒に来てくれた息子のガールフレンドに奢るくらいの甲斐性くらいは俺にもあるさ」
「ありがとうございます、また何かしらの形でお礼をしますね」
感謝しつつもちょっと申し訳なさそうな表情を浮かべた天音はそう話した。すると母さんがニヤニヤしながら口を開く。
「じゃあうちに嫁いできて貰おうかしら!」
「おい、さらっと何とんでもないことを言ってるんだよ!?」
ご飯のお礼で嫁に来させようとするのはどう考えても釣り合ってなさ過ぎる。しかも父さんまで名案だと言いたげな表情になっているし、もしも本気ならうちの両親の価値観はぶっ壊れているとしか思えない。
「だって天音ちゃんがお礼をしてくれるって言うんだもん」
「いやいや、いくら何でも限度ってものがあるだろ」
俺が呆れ顔になりながら母さんにそう話していると、当事者の天音も会話に参戦してくる。
「勿論前向きに考えさせて貰うので、詳しいことはまた相談しますね!」
「別に天音も母さんの冗談なんか真面目に付き合わなくてもいいからな」
まさかそんな返しをするとは思わなかったし、どうやら天音のノリ良さは俺が想像していたよりも遥か上だったらしい。
なお、天音として冗談ではなく本気な模様




