第13話 交差する視線
バスが到着した後、俺達は引率に従って目的地に移動し始める。そしてレトロな外観をした建物の前に到着した。そこは一周目の校外研修の時にも来た覚えのあるうどん工房だった。
午前中はここでうどん作りを行ってそのまま昼食となる。ちなみに前回はバス酔いで気分が悪すぎてどんな感じだったのか全く記憶に残っていない。そのため、実質今回が初見プレイだ。
「えっ、席は出席番号順じゃないの!?」
「俺もてっきり出席番号順だと思ってたけど、今回は関係なくランダムに振り分けられてるみたいだな」
配られた俺達のクラスの席次表を見て天音は明らかに不満そうな表情でそんな言葉を口にしていたが、俺としては特に不満などはなかった。
そもそも今回の校外研修はクラスの同級生との交流を深めさせることを目的に開催されているため、新しい関係作りをさせる意図があってこうしているはずだ。
「何で座る席くらい自由にさせてくれないのよ……!」
「一応研修だからな、そこは割り切るしかないと思うぞ」
俺は天音をなだめつつ指定されたテーブルに着席する。指定されたテーブルにいたメンバー達は前回は一度も関わりがなかったり、同じクラスではあったがほとんど話したことがないクラスメイトだけだった。
下手に付き合いがある相手だと、うっかり今の俺が知らないはずのことを話してしまう危険性があったためむしろ好都合だ。他のクラスも含め、全員の着席が完了したタイミングでうどん作りの説明が始まった。
水回しや踏みなど、どういった流れでうどんを作るのかという説明だったのだが、さっきから妙に誰かからの視線を感じている。あまり目立たないようにほんの少しだけ顔を動かすと天音と目が合った。
どうやら視線の主は天音だったらしい。天音と目が合った瞬間、俺は恥ずかしくなって目を逸らす。それからすぐに再度天音のいる方を横目でチラ見する俺だったが、その視線は相変わらずこちらに向けられていた。
「……さっきから明らかに俺のことを見てるよな?」
どういう意図でそんな視線を向けられているのかが全く分からない。そんなことを考えていた間に説明は終わり実際のうどん作りに入る。先程聞いた説明を思い出しつつ、分からない部分は周りに聞いたりしながら進めていく。
クラスで浮いていてもメリットなんて何もないため、こういう機会を利用して積極的にコミュニケーションを取っておきたかった。そんな俺に対して天音は先程と変わらず視線を向け続けている様子だ。
むしろさっきよりも強い視線を向けられている。天音は自分のうどん作りに集中しなくても大丈夫なのかと思ったが、手元を見ると普通に俺よりも進んでいた。俺が不器用なのではなく、天音の手際があまりにも良過ぎるだけと思いたい。
そしてようやく麺切りまで完了する頃には午後になっていた。麺を茹でる部分に関しては職人さんがやってくれるため、ここまでの作業が終われば実質完成だ。
食事をするスペースは別の場所になるため移動しようとしていると背後に人の気配を感じる。振り返ると案の定、後ろにいたのは天音だった。
「瑛人が全然私に構ってくれないから退屈だったんだけど」
「いやいや、離れてたんだからそもそも構いようがなかっただろ」
「でも私はずっと瑛人に構ってあげようとしてたわよ?」
「あっ、さっきから感じていた視線はそういう意図だったのか」
ずっと視線を感じていたのは天音が俺を構おうとした結果だったらしい。俺には視線で構おうとする発想なんてなかったため全く気が付かなかったが、天音の思惑は分かったため次からは大丈夫なはずだ。
「ちなみに食べる時の席は自由らしいわね」
「……じゃあ一緒に食べるか?」
「ええ、勿論よ!」
俺の言葉を聞いた天音は一気に上機嫌になった。会話の流れ的に天音が誘って欲しいと思ってるように感じていたが、やはりそれが正解だったらしい。
もっとも、実は自意識過剰かもしれないという気持ちもあったので当たってくれて安堵した気持ちもあった。だからわざわざ少し予防線張ったような聞き方をしたわけだし。
きっと俺のことを好きに違いないと思って陽葵に告白して失敗したトラウマがあったため、正直自分自身のことをあまり信用できていない節がある。もし仮に先程同じテーブルだったメンバーを誘って断られていたのであれば別に大して気にしなかっただろう。
だが天音を誘って断られていたら間違いなく少なくないダメージを受けていたはずだ。それだけ俺の中では天音という存在が大きくなり始めていた。
なお、一瞬たりとも目を離さずに見ていた模様




