06話 経験値または金貨のどちらにしますか?
「じゃあ、トイレ休憩のあとで、異世界ダンジョンに行きたいわ。
お金を稼ぎたいのよ」
ボクは、マミカとイチャイチャして過ごしたかったが仕方ないとあきらめた。
「なにかをしたいと考える気力があることはいいことだ。
じゃあ、準備をしてくるよ」
マミカは不思議そうな顔をしてきた。
「ねえ、ゆきお様。聞いても良いですか?」
「質問を聞いてからにするよ、なにを聞きたいの?」
「ゆきお様の見た目は22歳くらいですよね」
「そうだね、合っているよ」
「でも、人生経験が豊富そうに思います。戸籍上の年齢はいくつですか?」
「56歳だ。ダンジョンに入ってから若返ったんだよ」
「56-22=34。34年も若返ったのですか?」
「そうなるね」
「どういう仕組みでしょうか? わたしは若返っていませんけど」
「おそらく、ひどい環境にいて人生を浪費させられた年数分だけ若返ったと思う」
「なるほどですね。じゃあ、わたしは有意義な人生を過ごせたんだと喜ぶべきですね」
「そうだね。ボクの中身がおじいさんだと知って後悔しても遅いからね」
「大事なのは、年齢よりも人柄です。モラハラする若いイケメンよりも、信頼できるゆきお様が良いと思います」
「それは、ありがとう。じゃあ、準備をしてくるよ」
「お願いします」
◇
マミカとボクはダンジョンの中に入った。
スキル【②検索レーダー】を使って、他の冒険者をさけて誰にも気づかれないように、奥の方まで移動することができた。
マミカは深呼吸をして、清々しい気分でご機嫌なようだ。
「青い空、白い雲、気疲れする面倒くさいひとがいない解放感。
もう最高ね」
ボクは複雑な気分になった。
「ボクがすぐとなりにいることを忘れていませんか?」
マミカは笑顔を向けてきた。
「ゆきお様に気を遣ってはいます。しかし、気疲れはしません。
良いご主人様を引き当てたマミカは幸運、超ラッキーです」
「ずるいな、そう言われたら、文句を言えないよ」
『ボクの方こそ、幸運、超ラッキーなんだろうな。
でも、それを言うとマミカはつけあがるかもしれない。
だから、言わないでおこう』
そう考えているボクの顔をのぞき込むマミカの顔は可愛かった。
「ゆきお様、あなたと出会ってから、レベルが上がりました。
それは嬉しいことですが、わたしはお金が欲しいんです」
お金と聞いて、ボクは現実に引き戻された気がした。
しらけた。本当にしらけた。
「お金ねえ、うん、正直なことはいいことだ」
「どんなモンスターがねらい目ですか?
経験値しか入らないモンスターって、割が悪いですよね。
レベル上げには良いでしょうけど」
ボクはダンジョンの基礎を教えるタイミングだと考えた。
「その質問に答える前に、ある考え方を知るべきだ」
「ある考え方とは?」
「このダンジョンは、人生を逆転させることが目的みたいだ」
「人生逆転?」
「不幸な人が入ったときは、幸福になれる。
幸福な人が入ったときは、不幸になる」
「リバーシで、黒が白にひっくり返るような、ですか?」
「その通りだよ」
「ということは、経験値または金貨が手に入る条件は、ダンジョンモンスターではなくて、冒険者の状態が影響しますか?」
ボクは本当に驚いた。マミカはなんて賢いんだ。柔軟な思考をしている。
「大正解! えっ? もしかして、ボクに聞く前から知っているの?」
「いえいえ、知りませんよ。ゆきお様が答えをくださったじゃないですか?
【人生逆転ダンジョン】だって!」
ボクは自分が言ったことを思い出した。
「うーん、マミカは1を聞いて10を知る賢いひとだと思う」
マミカは不思議そうな顔をした。
「誉めても、脱ぎませんよ。これぐらい誰でも分かることでしょ!」
「いやいや、そんなことはないよ。マミカみたいに賢いひとはめずらしい。
マミカが嫌われていた理由が分かった気がするよ」
マミカは不機嫌になった。
「それって、どういう意味ですか?
わたしはケンカを売られましたか?
それとも、わたしを侮辱しましたか?」
マミカの声が怖い。しまった、失言だった。
「いや、その、つまり、マミカほどの賢いひとはスーパーレアなのに、自覚がないから、周りの人たちに嫉妬されて、実力よりも自己評価が高いひとたちの承認欲求を逆なでしたんだろう。と思ってしまいました」
マミカは無表情になって黙り込んだ。そして、頭を振りながら悩んでいた。
「そう言われると、思い当たることがありますね。
もしかすると、わたしはライトノベルでチートスキルを持つ主人公みたいな発言をしていたのでしょうか?」
「そう思います。たぶん、マミカは自己評価が低いから、自分が出来ることは他の人もできると思ったんじゃないかな?」
「そうですけど、思い返してみれば、そうですね。
わたしのことをバカにしたり、
『ちょっと、○○ができるからって、いい気になって!』
などとイライラしたひとが多かったですね。
『ええ、ちょっと努力しただけです』
と答えたら、さらに機嫌が悪くなっていました。
夫婦喧嘩か恋人とのケンカが分かりませんが、八つ当たりはやめて欲しいですね」
無自覚だったんだ。言い方を変えるべきだとボクは思った。
「相場というか平均というか中央値というか、マミカは大きく上回って優れている存在だと覚えておいて欲しいかな?」
「そうなのですね。でも、ゆきお様は私を助けることができるくらい優れている存在なので、これからは気が楽です」
「えーっと、その、あのね」
「大丈夫です。分かりました。
【出る杭は打たれる】、
【能ある鷹は爪を隠す】
相手を見て、合わせます。
でも、ゆきお様に会えて、幸せです。
まるで、重い服を脱ぎ捨てた気分です」
マミカの晴れ晴れとした笑顔を見て、マミカとのつきあいは長くなりそうだと思った。
◇
マミカとボクは気を取り直して、本題に入った。
「経験値または金貨が手に入る条件は、周りの状況によります。
ボクがマミカの敵を助ける振りをするために、サイクロプスを倒したときは、経験値が入ったよね」
「そうでしたね。
わたしは、レベルがひとつ上がりました」
「このダンジョンは親切なんだよ。あのとき、金貨が出なかった理由は、ボクたちの敵がいたからなんだ」
「ああ、あいつらの前で金貨が出たら、あいつらが全部取りそうですね」
「その通りだね。だから、横取りされない経験値がダンジョンから支給されました。
そして、ボクのレベルは最大値だから、僕には経験値が入りませんでした」
「えっ、そうなの? なんか、ごめんなさい」
「まあ、いいよ。ということは、マミカがお金を稼ぐために、金貨を手に入れたいならば、まず、信頼できるひとといっしょにいるか、ひとりでいることが大前提条件です」
「じゃあ、ゆきお様といっしょなら、金貨を稼ぎ放題ですね」
マミカはご機嫌だ。目にお金のマークが浮かんでいるように見えた。
「あと、もうひとつ条件があるよ」
マミカはひらめいた表情をした。
「『経験値または金貨のどちらにしますか?』
って、質問されるのかしら?」




