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レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-東部編-
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96/100

ヴィエラの限界


 カイラスと合流したヴィエラは、自分達がいつの間にか分断されていたことを説明した。


「チッ、豊漁祭にかこつけてやりやがったな。こっちの祭りを何だと思ってやがるんだ」

「でもロアンと殿下にも護衛がついてるだろ? うちの騎士が無能だとは言いたくねえんだが」

「そうだけど、相手の目的も、人数や規模も分かっていないんだ。安易に『護衛がいるから大丈夫』とは言えないよ。現に僕達だってこんな目にあったわけだし」

「あー……それもそうか」


 カイラスが出てきた路地には五人ほど黒づくめの人間が転がっている。元々はカイラスを狙ってのことだったが、すぐに気付いたカイラス本人と、カイラスがいないことに気付いたイリアスが動いたことにより大事には至らなかった。

 そして二人の不在に気付いたエルディオンが合流し、騎士を公爵家に走らせ異常事態と断じたのが現状である。


「それで、お嬢様はいつ二人と分断されたことに気付いたんだ?」

「少し前よ。いきなりわたくしたちの間に、荷物を担いだ男達が割って入ったの。失礼だとは思ったけれど、今は豊漁祭の時期だもの。それに公爵家の人間だと明かして歩いていたわけではないから、そういうこともあると思って通り過ぎるのを待っていたのよ。でも、人夫たちが去った後にはもう二人の姿が見えなくなっていたわ」


 ロアンが転がされていく大樽に目を輝かせていた時、ヴィエラは既に別の場所で足止めを食らっていた。男達が通り過ぎるまでに掛った時間はそう長くはないが、それでも子供達を分断させるには十分だ。

 ヴィエラは心底悔しそうに顔を歪めながらカイラスを見上げる。


「おじさま、今リゼルにロアンと殿下を探しに行かせているわ。護衛達にも状況を調べるように命令している。でも、わたくしはこの後どうすればいいの?」


 ヴィエラはまだ五歳だ。それでも必死に学んだことを活かそうと頭を働かせた。

 幼い自分が動いても事態は好転しないこと。もしものことを考え、大人を探し、事情を説明して助けを求めること。そのうえで余力があれば状況の判断に務めるよう指示をだすこと。

 これだけできれば花丸だ。だがヴィエラは「ロアンを探しに行けない自分」が酷く情けなかった。


「わたくしは、ロアンを守ると約束したのよ……! それなのに……!」


 ロアンがラシードと手を繋いで歩いていたから、反対側の手まで繋ぐと転ぶかもしれないと判断し、自分は繋がなかった。それが仇になるとは思わなかった。


 ヴィエラは今まで沢山傷ついてきたロアンを、もう二度と悲しい思いにさせないと誓っている。それなのに、と自分を責める姿に、エルディオンとイリアスは気まずそうに顔を合わせる。

 二人はヴィエラが自分を追い詰めるように勉強していた時期を知っている。だからこそロアンと出会ったことで変わり、笑顔が増えたことを喜んでいたのだ。そんな妹にどう声をかけるべきか悩んでいると、カイラスは地面に片膝をつき、ヴィエラの細い肩を掴んだ。


「落ち着け、お嬢様。お嬢様の判断は正しい。むしろその歳で取り乱さず、ここまでやれたんだ。十分自分を誇っていい。閣下や夫人も褒めてくださる」

「それでも! もしも今この時にもロアンの身になにかあったら……!」


 サマードレスの裾を強く掴み、珍しく声を荒げるヴィエラに、カイラスは奥歯を噛みしめてから「うろたえるな!」と喝を入れた。


「ッ!」

「いいか、お嬢様。あんたはいずれ『グラディアス公爵家』を継ぐ人間だ。その時、今みたいに取り乱す姿を見せるのはダメだ。上に立つ奴ってのはな、いつでも、どんな時でも、顔色一つ変えずに堂々としてなきゃいけねえんだ。閣下だってそうしてるだろ?」

「それは、そうだけど……」


 ヴィエラとて分かっている。自分がうろたえたところでロアンは見つからないと。無事かどうかも分かるわけではない。それでも心配し、不安になるのが人間というものだ。

 カイラスは「ロアンもお嬢様も素直に泣かねえよな」と悲しくなりながらも、その頭に優しく手を置く。


「いいか、お嬢様。後のことは俺達“大人”に任せろ。お嬢様たちが今しなきゃならねえことは、何事もなくセルディア公爵の屋敷に戻って、ロアンと殿下が戻って来るのを待つことだ。勝手に外に出てお嬢様に何かあれば、今度はそっちにも人員を割かなきゃならねえ。それがどれだけ無駄なことか、お嬢様なら分かるだろ」

「……そうね……ロアンと殿下を待つのが、今のわたくしにできることなのね……」


 ヴィエラは滲む視界から涙を零さぬよう、必死にスカートの裾を握りしめ、唇を噛んで耐える。それでもポタポタと落ちた雫が乾いた地面を濡らした。


「おじさま。お願いよ。必ず二人を見つけだして」

「分かってる。お嬢様も無事に帰るんだ。いいな?」

「ええ。約束するわ」


 ヴィエラはエルディオンとイリアスに守られるに間に挟まり、走り出したカイラスの背を見送った。

 そして公爵家から派遣された人員により倒れいていた人物は取り押さえられ、事情聴取のため騎士団の屯所へと連行されるのだった。



次回8/12更新予定です

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