子供達の集い
屋敷に着いた一行ではあるが、長旅の疲れを癒してもらうという名目でラシード達は別室に案内され、ヴィエラ達も先日まで過ごしていた大部屋に集まっていた。
「ラシード殿下は晩餐会が開かれるまで部屋で休まれるそうだよ。何日も船に乗っていたからね。休む時間も必要ということだ」
集った子供達の中で、最初に口を開いたのは年長者であるエルディオンだ。この中には王子であるアレクシスも混ざっているが、ヴィエラとロアンに嫌われている自覚があるため、でしゃばる真似はしないと決めていた。
「じゃあ、俺達はどうするんだ? カイラス先生もあっちに行っちまったしよ」
「カイラス先生はしょうがないよ。実際の血の繋がりはともかくとして、戸籍上ではラシード殿下の縁戚扱いになるからね。王族を放って僕達の面倒を見るわけにはいかないさ」
「勉強する気にもなれないし、東部は暑いから訓練もやる気がでないわね。いっそ町に下りるのはどうかしら。息抜きの観光なら楽しそうじゃない?」
珍しく「遊びに行きたい」と口にしたヴィエラに、隣に座っていたロアンが目を輝かせる。
「ヴィー! お外行っていいの?!」
「ロアン。落ち着くんだ。外に出ていいかどうかは大人の許可が必要だよ。護衛がいても何があるか分からないからね」
「あう……ごめんなさい……」
しょんぼりとソファーに座りなおしたロアンだったが、エルディオンが侍従に「公爵と父上に連絡をとってくれ」と命令を出せばすぐに数名が動き出す。アレクシスは「相変わらず公爵家の者は仕事が早いな」と感心しながらも、口を噤み続けていた。
「それじゃあ彼らが戻って来るまでの間、外に出られなかった時のことを考えようか」
「観光がムリならロアンの誕生日会の続きを考えましょう。結局、カイラスおじさまからは案をもらえなかったもの。それとも、代わりにロムラスおじさまが考えてくれるのかしら」
そう言ってヴィエラが視線を向けたのは、山のような筋肉と体躯を持つ、カイラスの腹違いの兄であるロムラスだった。
「うん? ロアン、お前さん誕生日がくるのか?」
「みたいです!」
「みたいですって何だ。自分の誕生日だろう」
元気に曖昧な返事をしたロアンに呆れた顔をしたロムラスだったが、エルディオンから小声で「実は実家で祝われた経験がないそうで……」と答えれば目を丸くした。
「何だとう! それはいかん! 誕生日というのは! ここぞとばかりに肉を焼き! 歌い! 祝い! 騒ぎ! 武力を誇る大切な時間だぞ!」
「三分の一程度は同意ですわ。ロムラスおじさま」
「うむ。ヴィエラ嬢は淑女だからな。レディにはそんな祝い方はせんぞ?」
若干どころかだいぶ斜め上なロムラスの発言に呆れたが、ヴィエラとしても『祝ってやりたい』気持ちは強い。だからこそロアンの誕生日を良い物にしてやりたいと思うのだが、中々いい案が出ていない状況だった。
そんな中、ロアンが近いうちに誕生日を迎えると聞いたアレクシスも声を上げる。
「ストーンリッジ伯爵令息。もうすぐ誕生日だったのか。産まれは秋かな?」
「そうみたいです」
「そうか。秋といえば、南部では豊穣祭がある時期だな。伯爵家も忙しいだろう。実家には戻るのか?」
アレクシスとしては『南部一帯の貴族は皆豊穣際で忙しい時期だが、祝われるのだろう?』と聞きたいだけだった。
だがロアンの家庭環境を耳にしていたグラディアス家の子どもたちは固まり、ロアンは笑顔を引っ込めてプラプラと足を揺らし始める。
その空気にロムラスは「お?」と声を上げ、アレクシスは「またやってしまったのか、私は……」と心臓が痛くなった。
「殿下。ロアンのことは公爵家と伯爵家の当主同士で取り決めることですわ。わたくしたちにお答えできることではございません」
「そうか……。失礼した。もうこの話はしないと約束しよう」
「ええ。そうしてくださると助かりますわ」
ヴィエラはどうにか怒りをぶつけたい気持ちを堪えた。もう二度と傷つくロアンを見たくなかったからだ。
代わりにしっかりとロアンの手を握っていたヴィエラに、ロアンもヘラリと笑う。
「ねえ、ヴィー。ぼくがいなくなったら、さびしい?」
「なにを聞いているのよ。そんなの当たり前じゃない。変なこと聞かないで。怒るわよ?」
「あふぇ。ごめんらはい」
むにっ。といつもの如く頬をつねられたロアンだが、南部に戻らなくてはいけないことを知っている。だがヴィエラ達に知らされていないのは先ほどの発言で推測出来た。だからと言って自分の中でも『戻りたい』という気持ちがわかないため、黙っているのが現状だ。
「とにかく、返答が来るまでロアンの誕生日をどうするか決めようか」
「そうね。ロアン。お前、どんなものが食べたいか考えなさい」
「食べたいもの? あるよ! ヴィーが作ってくれたクッキー! ピリピリしておいしかったやつ!」
北部に来たばかりの頃、ヴィエラが焼いたスパイスを用いたクッキーを食べた記憶が強く残っている。そのクッキーが食べたいと目を輝かせたロアンに、ヴィエラは面食らった顔をした後クシャリと笑う。
「もう。お前、本当にクッキーが好きなのね」
「うん! でもね、ヴィーが作ってくれたピリピリしたクッキーが一番だいすきだよ!」
「あら。言うじゃない。仕方ないわね。特別にまた焼いてあげるわ」
「やったあ! ありがとう、ヴィー!」
さっきまでの鬱蒼とした空気を吹き飛ばすほどの笑顔に、エルディオンとイリアスもほっと息を吐き出す。何せロアンがしょげるとヴィエラの機嫌が悪くなるのだ。その結果八つ当たりされるのは自分たちなので、ロアンの平和が自分たちの平和であった。
「それじゃあ、ロアンへのおもてなしはヴィエラに任せるとして、他のことを決めていこう」
「部屋の飾りつけとか、食器は何を使うか、とかな」
「おお。楽しそうだな。やはり誕生日というのはいいなあ。ロアン、いっぱい祝われろよ」
「はい! 楽しみです!」
ロムラスに頭を撫でられたロアンは笑顔を浮かべる。アレクシスはそんな賑やかな面々を見ながら、きっと自分は招待されないのだろうなぁ。と切ないことを考えた。
次回7/19更新予定です。




